園庭の石段からみた情景〜園だより12月号より〜 2008.12.11
<クリスマスの物語>
 クリスマスシーズンを迎え、子ども達、毎日楽しそうにクリスマスの準備をしています。クリスマス礼拝の式順から始まって聖劇に歌・合奏とみんなでやる練習は山のようにあるのですが、自由遊びの時間にも製作の飾りつけに合奏遊びと、子ども達の中でクリスマスが『自分達のお祝い』に昇華しているうれしい姿を見せてくれています。これが子どもの素晴らしいところ。楽しいことにはとことん夢中になれる、そんなこの子達のイノセントワールドを見ているとこちらまでうれしくなってくるアドベント週間でした。

 クリスマス礼拝の華はなんと言っても聖劇です。ちょっとおませな女の子などはばら組の時からマリヤさんに憧れ、年長の聖劇を真似して遊んでいます。『私が!』タイプの子などはマリヤさんから天使からひとり何役も演じてひとり芝居を完成させてしまうほど。まったくたいしたものです。そんな子達の姿は「やってる、やってる」と思いながら見ているのですが、ふと目に留まるのはちょっと違う子。いつもはもじもじ恥ずかしがりやで、「○○してください」ってお願いに来る声も小さな女の子。でもその子が舞台の上でセリフを任されれば大きな声で「・・・らっしゃい」と演技をしているではありませんか。これにはびっくりうれしい笑みがこぼれてしまいます。何が彼女をそうさせるのでしょう。
 ひとつ思うにこの年頃の女の子の場合、普段おとなしい子ほど変身願望が大きいのだと思うのです。いつも素敵なお姉さんになりたくって、憧れるのはおっちょこちょいな『キュアドリーム』ではなく容姿端麗の『キュアアクア』。そんな女の子に与えられたセリフが「○○なさい」という優しいお姉さんの言葉。深層心理の中の彼女の欲求と与えられた役がぴったりマッチした瞬間でした。普段は謙譲の美徳を抱いている控え目なこの子の心を、このセリフはきっと解き放ってくれたのでしょう。大きな声で朗々と、そしてうれしそうに語ってみせるこの子の姿が本当にまばゆくうれしい限りでした。
 このことは劇の中だけで終わりませんでした。聖劇の練習が始まってから、この女の子の声が大きく自信に満ちたものに変わってきたことをいろんなところに感じました。毎朝ぽーっとして登園してきていたこの子が毎日朝からハイテンション。友達にも大きな声をかけて遊んでいる姿を見受けます。幼稚園の発表会などの行事には『子ども達の成長をお母さん達に見てもらう』と言うひとつの趣旨があります。でももうひとつ、この行事が子ども達の新たな成長のきっかけとなるように投げかけを行ってゆくこと、それが大きな大切な趣旨なのです。それは教師の思惑によるのものと、そうでないものとがあります。教師がそれをねらって投げかけても往々にしてその通りにはうまくいかないもの。でも一方で思いも寄らぬ成長の糧となってくれることもあるのです。今回はまさしく後者の方でした。こんなことをねらってこの子にこの役を任せた訳でもないし、この聖劇によってこの子がこんな成長を見せてくれるとも思いませんでした。聖劇だけに『神様の御心』と感じるのは僕だけではないでしょう。

 また別の女の子、どうも意中の役になれなかったようです。天使や星になりたかったその子がどうして自分はなれなかったのか聞いてきました。「マリヤさんや天使ってどんな人に見える?優しい素敵なお姉さんでしょ。今年のマリヤさんや天使さんはどう?素敵なお姉さんだよね。お姉ちゃん達もマリヤさんや天使になりたくって、素敵なお姉さんになりたくってこの一年がんばってきたんだよ。役だけ素敵なお姉さんになってもダメなんだ。普段から心から優しいお姉さんになれたら先生やみんなが○○ちゃんに『マリヤさんして!』、『天使さんやって!』って言ってくれると思うよ。だから○○ちゃんもこれから一年間、優しい素敵なお姉さんになれるように、みんなに優しくなれるようにがんばっていこうね」、と話す言葉にいつになく神妙に耳を傾けてくれていた女の子でした。
 なれなかった物理的な理由は別にあったはずです。キャスティングのバランスやすみれ・ももの年功序列、演技力などなど。でもそれを説明することはこの子にとって何の意味も持たない、何の糧にもならないことなのです。それよりもせっかくこの子が抱いたこの想いをどう次の成長に昇華させていってやるか、それが大事だと思ってこの子にはこういう話をしました。この僕の想いがこの子にどれだけ伝わったかは分かりません。でもそれはこれから一年間のこの子の歩みの中に見て取れることでしょう。心なしかそれからこの子の友達に対しての関わり方が柔らかくなったような気がするのはきっと気のせいではないでしょう。

 このようにしながらクリスマスを迎える準備をしてきた子ども達。一人一人の子ども達がそれぞれの想いを胸にがんばってきました。ここに紹介できなかった子ども達一人一人にもクリスマスに向けての物語があったはず。お母さん達にはどうぞその過程を思い起こしながらみんなのクリスマスを一緒に振り返ってあげて欲しいと思うのです。本番がうまく行った行かなかっただけでこの子達のここに来るまでのがんばりを切り捨ててしまわないでください。このように子ども達の想いとがんばり、そしてその結果を自分の言葉で織り上げて行ったなら、この子達の毎日はもっと素敵にドラマティックなものとなってくれると思います。それはお母さんと我が子のかけがえのない成長記としていつまでも心の中に残るしょう。そんな物語を紡ぎながら、これからも子ども達と一緒に歩いて行って欲しいと願っています。


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