園庭の石段からみた情景〜園だより9月号より〜 2008.9.26
<学びの秋>
 二学期に入ってひと月、季節は夏から秋に変わりつつあります。礼拝の奏楽を奏でながら静かに目をつぶれば、うるさかった蝉の音が秋の虫達の鳴き声に替わっているのに気付きます。まだまだ陽射しは暑さを感じさせる夏のものですが、季節が確実に変わり行く様をこの自然の中に感じる今日この頃です。

 今年のバザーではお父さんお母さん方にがんばっていただいたおかげでとてもたくさんの収益をあげることができました。この度その収益で運動会に向けたこの時期に運動用教材をいっぱい買わせていただきました。室内用の低鉄棒、立派な平均台、大きな三輪車など素敵な教育備品を揃えることができたこと、心より感謝しています。ありがとうございました。これらのものが早速、子ども達の日常に素敵な変化をもたらせてくれています。
 自然豊かな日土幼稚園、子ども達は自然遊びのエキスパートナーなのですが一方でなぜか運動音痴の匂いがするような気がしてなりません。『危険遊具』として園庭にあった誘導円木型ブランコ、箱型ブランコなどが撤去されたのはもう5年以上も昔のこと。自分の身体を動かしながらバランス感覚を身につけたりボディーコントロールを体得する遊びの機会が格段に減ってしまいました。昔はすべりだいの木の上から垂れ下がる蔦の枝にぶら下がる『ターザンごっこ』なんて遊びも実在し、子ども達は日常の中で腕力やバランス感覚を磨きながら遊んでいました。確かに危険の確率はゼロではありませんでしたが、身体全体を駆使してそんな風に遊んでいたことなど今となっては遠い思い出となってしまいました。
 そんな子ども達にもっと身体を使って遊ぶ機会を増やしてあげたいと、今回室内用の低鉄棒をもも組の部屋の前とホールに置きました。今時の子どもは合理主義です。ちょっとのことのために外に遊びに行くのを嫌がるのです。部屋でまったりとおままごとや工作遊びをしているところに、「外に遊びにいこうよ」と言ってもなかなか乗ってきてくれません。そのくせその気になった頃に『おかたづけ』になると「外で遊べなかった!」と言って怒るのですから笑ってしまいます。そんな子ども達、部屋の隅に置かれた鉄棒にはえらく興味を示してくれています。いつでもちょっとその気になれば挑戦できる便利さと、園庭の低鉄棒より7cm低い鉄棒にやる気を見せてくれています。またフレームの足元に形取られたアーチが前周りの絶好の足がかりとなって自力で回れない子をも奮起させています。これがメーカーの意図なのか、神様が準備してくださった賜物なのかわかりませんが、自分達の日常の中にふと置かれた鉄棒に子ども達はやる気を見せ、毎日喜びながら飛びついています。
 またセットに付いてきた逆上がり補助ベルトも人気の秘密です。今週もも組ではそのベルトを使っての逆上がり、3〜4名の子どもが出来るようになりました。『ほんのちょっとがんばれば出来るようになる』ということが子ども達にとって最大の動機付けとなることをこの鉄棒は改めて教えてくれました。絶妙な『ほんのちょっと』が講じて子ども達はこの鉄棒で毎日くるくる回って遊んでいます。

 また三輪車を巡っても面白い光景が繰り広げられています。もも組の女の子が白砂遊びをしながらおニューの三輪車をご機嫌で乗り回していました。そこへやってきたのはすみれの女の子。「かーしーて」というすみれさんに年長児のプレッシャーを感じながらも、「すみれさんなんだから我慢すれば良いのに・・・」と返すもも女子。結局それですみれ女子は退散してしまいました。「口では負けていないなあ・・・」と笑いながらこの情景を見ていたのですが今度はすみれ女子が僕に訴えかけてきます。「三輪車貸してくれないの!」。なるほど道理を語ったように見えるもも女子でしたが、それで完勝というのも増長の元。今回はすみれ女子の応援を決めて、ももの女の子に声をかけます。「砂遊びをしているなら三輪車いらないじゃん。白砂のところまで乗って行ってすみれさんに代わってあげたら」、「・・・うん」、それですみれさんもめでたく新しい三輪車に乗ることができました。
 お互いに『おりこうちゃん』同士の攻防、なかなか面白いやりとりを見せてもらいました。『年上の子は下の子に優しくしてあげないといけない』という倫理をちゃんと持ち合わせていた双方の女の子。でもそれを強みに、『武器』にしてはいけないということを分かって欲しかったのです。日頃からお家でも「お姉ちゃんは我慢しないといけないのよ・・・」って言われているのでしょう。おりこうちゃんたちはその道理をちゃんと理解して日頃から自制をしているのでしょうが、さかしい女の子ともなるとここぞとばかりそれを逆手に使うことも思いつくのです。なかなか見かけることがない年長児への論理的レジスタンスでしたが次はどんな作戦を考えてくれるでしょうか。
 またばらさん達の中では三輪車の争奪戦が大勃発。そこで乗っている子に運動会用に描かれたトラックを指差して、「一周したら交替ね」と言うと即座に返すばらさん。「しん先生が来るまでは交替なんてなかったのにどうしてどうして一周で交替なの?」、なるほど慣例を持ち出す子ども達。新しく提示されたルールに納得行かないと抗議します。「みんな新しい三輪車に乗りたいんだからちょっとずつ乗って交替したらみんなが乗れて嬉しいでしょう」というと「・・・」、納得したようなしていないような顔。新しい遊具を通じてみんなでいろんなことを学んだ一週間でした。
 そんなこんなであっちこっちで元気に身体を動かしながら幼稚園の子ども達、スポーツの秋を面白おかしく満喫しています。身体と一緒に心もちょっとずつ成長している、そんな素敵な秋の初めです。


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