園庭の石段からみた情景〜09秋の書き下ろし3〜 2009.10.15
 <たんぽぽさんの大冒険>
 今年のゆっくりペースの季節の移り変わりが台風18号の到来で急に二つほど早送りされたような今日この頃。例年より寒くさえ感じるようになってきました。季節とはどこかで何かの拍子につじつまが合うように出来ているものです。幼稚園でも秋の自然遊びが真っ盛り。毎日くるみを拾ってたわしで磨いたり、お山にお散歩に出かけてどんぐりを捜しに行ったりと、自然に恵まれた山里の秋をみんなで満喫しています。

 たんぽぽさんが今月から通常保育の仲間入り、お昼も一緒に食べて2時の降園が始まりました。多少の好き嫌いもありますが、まだお弁当や給食も始まったばかり。機嫌よくお昼を過ごすことを目指してみんなでがんばっています。初めてのサンドイッチの日、「キュウリ食べれん」とある子が言いました。まあ最初から無理強いをしてもしょうがないので「のかしたらいいよ」と言うとその子は自分でサンドイッチの中のキュウリを抜き出しました。自分でキュウリをのかしたつもりになってその後大きく口を開けてサンドイッチをほおばったその子。実はキュウリはもうひとかけ入っていたのですがそんなの知らぬ存ぜぬでぱくぱく食べてしまいました。「おいしかった?」と尋ねると「うん!」。「まだキュウリ入ってたんだけど」、「???」。「食べれたね」、「大丈夫だった!」。そんなものかもしれません。自分でのかせたという自己暗示に加えマヨネーズで味の変わったきゅうり、本当に偶然の重なりなのですが何の拍子か食べれてしまいました。でもこれがきっかけで食べれるようになってくれたらうれしいことですし、献立作戦いかんによっては食べれるようになるかも知れないとうれしい発見をしたサンドイッチの日でした。

 たんぽぽさんの午後がそこから始まります。どこのクラスよりも先にお昼を食べ終え、「まだ歯磨きしてないでしょう」と言うじゅんこ先生の腕をかいくぐって遊びだすたんぽぽさん。「じゃあ歯磨きした人からお外で遊ぼう!」と声をかけるとたーっと歯ブラシを持って洗面所へかけてゆきます。なんとも現金な子ども達。でもそれほどみんなお外遊びが大好きなのです。
 歯磨きを終えてお外に出れば園庭を木陰が覆っています。しばらく部屋でじっとしていたせいもあり少々肌寒く感じるので子ども達を連れて砂場上の井戸のところに上がります。ここはちょうど日当たりの良い日向で、頭の上には大きなくるみの木。ということはこの季節、足元にくるみの実がごろごろ転がっています。そこにバケツとたわしを持ち込んで「くるみ拾いする人?」と持ちかけます。子ども達は大喜びで足元のくるみを拾い始めました。くるみって最初からあんな硬い殻で落ちていると思っているお母さんありませんか?あれはくるみの種の部分。くるみの実は青梅のような果実をつけた実でそれが木から落ちてくるのです。最初は青梅のように硬かった実がだんだん黒ずんできてふかふかになってきます。それを通り過ぎると今度は乾いてからからぱりぱりになってゆくのです。どの状態でもその実を剥けばあの硬い殻をもったくるみが現れます。それも黒いアクと筋に包まれてなんとも不気味な異形をしています。それをバケツに集めて回るのですがやっぱり現代っ子の子ども達。黒くなった実やからからになった実には触りたがりません。「きもちわるい」、「きたない」というのが彼らの言い分。まあそうでしょうね。こういう違和感や嫌悪感が人間の衛生に関する防衛本能なのですから。だからお菓子でさえ食べたことのないものは口にしたがらない最近の子ども達です。
 そんな子ども達の目の前で皮を剥き中のくるみを取り出します。そしてそれをバケツの水に付け、たわしでごしごしこすります。するとあんなに不気味で気持ち悪かったくるみの実がきれいな黄土色に輝きだすのです。それを見つけた子ども達の目も輝きだします。「ぼくもやる!」とたわしとくるみを握り、くるみ磨きを始めました。みんなで陽だまりにしゃがみこみながらごしごしごしごしくるみ磨き。なんとも心地良い小春日和の陽射しを浴びながら一心にくるみを磨きます。ある子が落ちたての緑のくるみの実を拾ってきました。どんなに黄土色に輝いていても丸々とした果実のついた緑色のその実は何よりも素敵に目に映ります。みんな「みどりがいい!」の大合唱。でも落ちている実はみんな黒ずんでしまっています。「みどり!みどり!」の声に応えてあげようと緑の果実を探しますがなかなか見つかりません。ふと上を見上げるとまだ木の枝にたわわに実ったくるみの実がついていました。くるみの実はバナナの実のようにひとところからいくつも生えてついています。高枝バサミでひとふさ切り取ると十も二十も実をつけた枝が取れました。「みんなでわけっこするんだよ」と言うと「うん!」とみんなで一つずつ分け出しました。その日はそれぞれピカピカと黄土色に輝くくるみの実と青々果実のくるみの実を意気揚々とお家に持って帰った子ども達でした。

 こうしてたんぽぽさん達の通常保育第一週が過ぎてゆきました。お弁当が始まっただけでなく午後も目一杯遊んで帰る子ども達。ももさんについて近所をお散歩一時間なんて大冒険もやってのけました。みんなお帰りの車の中で『すやすやお昼寝入り』しているそうで、使い切った充電式電池のようにぱったりエネルギー0となっています。それでも毎日幼稚園を楽しみに喜んできてくれるたんぽぽさん達。子どもの想いとは何よりも強い大きなエネルギー源となることを改めて僕らに教えてくれています。充電池も使い切った方がいっぱいいっぱい充電できるもの。この子達も毎日いっぱいいっぱい充電チャージして素敵に大きくなってゆくことでしょう。


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