園庭の石段からみた情景〜園だより11月号より〜 2009.11.23
 <対決!たんぽぽKIDS>
 急に寒さが増し加わった今日この頃、僕も冬用のジャンバーと襟巻きの完全防備に衣替えしてウエスト1mの上半身真っ黒の雪だるまと化しています。皮の薄い僕にとってこれからの季節は手ごわい季節。部屋の中でじっとしていては凍えてしまうのでさっさと外に飛び出して、陽の光と自身の運動量で身体を温めています。初めは僕も陽だまりの中で暖を取りながら子ども達のブランコ遊びなどを見つめているのですが、サッカー小僧達がやってきて「勝負!勝負!」と言い出せば、それから逃れられはできません。サンダルをスニーカーに履き替えて徐々に本気モードへとシフトアップしてゆけば、体の芯から熱を帯びてくるのが分かります。そうすれば5枚の服を重ね着していた雪だるまがたまねぎの皮を剥くように、一枚そしてまた一枚と脱ぎ連ね、最後は初秋の格好、下着に長袖シャツの2枚だけと元のスリムな体格にモデルチェンジ。多少ののど痛などはありますがそこで体力任せにふんばって、おかげでこの冬も風邪知らずに元気に過ごせています。子ども達のための外遊びが実は自分自身のためだったなんて、子育てなんてそんなものかも知れません。

 潤子先生が『子育てフォーラム』で出かけた金曜日、一日たんぽぽ組の担任を任されました。おりこう組でスタートしたたんぽぽさん、こちらも「一日くらい」と高をくくっていたのですが、2ヶ月の園生活を経てなかなかのつわものに育ってきてくれました。ある日、お帰りの準備がなかなかできず、「早くお帰りの準備をなさい!」と言われた○○君。次の日はお弁当が終わるとさっさと片付けに入り、かばんをしょって午後の時間を過ごします。「おかたづけ!」の声がかかるとニヤリと笑って「文句ないでしょ」って勝ち誇った顔。何でも出来る○○君、やるかどうかは気分次第。でも人に言われればなおさらやる気がなくなってしまうという幼い頃の僕自身を見ているようでなんともおかしくなってしまいます。そんなたんぽぽさん達とのがちんこ勝負を楽しみに挑んだ一日でもありました。
 先ずは朝のお片づけから。先に来て遊んでいる友達に気を取られ、なかなか自分のことが出来ない○○君。先手必勝と『僕がやっちゃおう!』作戦で挑みます。放り出されたかばんを手繰り寄せながら、「今日のシール、僕が貼っちゃおう」と聞こえるようにわざとらしく言ってのけます。「○○君には無理だからねー」とかばんをまさぐる仕草を演じるとたーっと駆け寄って来る○○君。「だめ、ぼくので!」とかばんをひったくります。「だってわかんないでしょう、今日がどこか」、「できるー!」で押し問答。僕からシール帳をひったくった○○君はその日の場所にちゃんとシールを貼ってのけたのでした。その後も「タオルは無理」、「コップは僕が!」と『やっちゃおう作戦』を仕掛けるとまんまと自分からちゃんちゃんやってくれた○○君でした。キツネとタヌキの化かしあい。今日のところ、まずは一勝。

 次の対戦相手となったのは△△ちゃん。ホールで運動遊びをしようとみんなで出かけたのですが、△△ちゃん、履いたシューズの左右が違っていました。一応運動遊びなので「右左が違うとこけたりするから良くないよ。履きなおして」と言った言葉が彼女の感に触ったようでなかなか応じてくれません。何度か押し問答をしていると△△ちゃん、「いやあー」と泣き出してしまいました。なだめながら声かけをしても取り付く島もありません。別にシューズくらいで泣き出す子ではないのです。『だめ』って言われたことにプライドが傷ついたのでしょう。すると今度は彼女、「お弁当早く食べたい」と泣き出しました。自分が否定されたことに対する補填として少々無茶な要求を提示し、それを相手がどう扱うか見ているのです。おそらく打算的な感慨からではなく、無意識のうちに自分がどれだけ受け入れてもらえるのかという相手の愛情のバロメーターを確かめたかったのでしょう。「これが終わったら食べようね」、まだ十一時前でもあり彼女の思惑も読んで取れたのでそう答えたのですがそんなことで納得してくれるはずもありません。みんながマットでコロコロやっているのに自分は「絶対にやらん!」とストライキ。僕も「これは持久戦だな」とそんな彼女を眺めます。なかなか手ごわい抵抗でしたが僕らは僕らでマイペース、他の子達は機嫌よくマットでコロコロやって遊んでいました。
 「じゃあ次に」と鉄棒を持ち出すとぽっと△△ちゃんの表情が変わります。日頃から鉄棒に興味を示していた△△ちゃん。いそいそと自分からシューズを履き直して鉄棒の前に並びます。自分の番になれば上手にくるっと回って見せてくれました。「あれ、△△ちゃん上手ー」とほめてあげたなら今までのことは全てなかったことのごとく。急に機嫌よくなって運動遊びに参加しだしました。△△ちゃんに気付かれないように笑いをかみ殺すのに大変でした。お帰りの時間、たんぽぽのみんなに「今日泣いた人?」と尋ねたなら△△ちゃん、その日の自分のことを「△△ちゃん、シューズでえーんってなったのよねー」とケロッと言ってのける愛らしさ。そんな素直なところがこの子の素敵なところなんだよなと思いながら、△△ちゃんの言葉を聞いていました。

 そんなこんなの一日でしたがたまのたんぽぽさんだからでしょうか、僕はたっぷり楽しませてもらいました。でもこれが日常のことだったらと思えばお母さん達の『とほほ』が聞こえてくるようです。でもでもこれが三歳児。すぐすぐの結果を求めればイライラもするでしょうが自分は自分のマイペース、こっち主導のペースで関われたならもっとこの子達と楽に愉しく接することもできるでしょう。『あせらずはやらずしっかり子どもを見つめながら』、それが子育てのコツのようです。


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