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<すばらしい日々3〜続生物部列伝〜> 話を夜釣りに戻しましょう。自転車をこいで目的地に向かう途中、不意に雨がぱらぱら降ってきました。僕らは自転車のスピードを速め、何とか目的地に滑り込みましたが雨足は弱まる素振りを見せません。しばらく多摩川にかかった東名高速の高架の下で雨宿りをすることにしました。うっすら雨にぬれたこんなときには焚き火をしたくなるものです。誰からともなく「火を起そう」と言い出してみんなで薪拾いを始めました。そんなところに雑木林があるわけでもなく、誰が探したって薪など落ちているはずもありません。懐中電灯を手にうろうろうろつく僕達。「燃えるものなら何でもいいや」と言う心持ちであたりを探しているとダンボールやらサンダルがライトの明かりに照らし出されました。「こんなもんでもいいや」と一歩踏み出すと闇の中からくん!と飛び出してきたものがあったのです。びびりまくったのは当の僕。声こそあげませんでしたがその場に身体が凍り付きます。それを畳み込むようにその飛び出してきた影が僕にまくしたててきます。それは高架の下で寝ていたホームレスのおじさんでした。 その騒ぎに気がついて僕の仲間が集まってきます。その人数に我を取り戻したおじさんは「おまえらこんな時間になにやってんだ?」と前向きな話をしてくれるようになりました。一番怖かったのはこのおじさんでだったのしょう。心地よくお休みのところをライトに照らし出され、誰かが近づいてきたのですから。当時は『浮浪者狩り』等と呼ばれる事件はまだなかった時代ですが、それでも命を張ってそこに暮らしていたおじさん。ばっと飛び起きて相手の出鼻をくじいたものの、十名近くの高校生がぞろぞろ集まってきたのですからびびっちゃいますよね。「たき火をしようと思って・・・」僕の口からこぼれたその言葉におじさんの強張った表情が和らぎます。自分に危害を与えようと近づいてきたのではないということが分かると、おじさんは突然話せるおじさんになってしまいました。「火焚くんならな、これをやる」と言っておじさんが奥から出してきたのは炭でした。「はあ、ありがとうございます」とお礼を言いながら「じゃあ、僕たち釣りに行くんで・・・」とおじさんに別れを告げた僕たちでした。騒ぎの間に雨も上がり、夜空には星まで輝いています。おじさんはごきげんな顔でもと居た闇の中に帰っていきました。まだドキドキしている心臓ともらった炭を抱えながら僕らは釣りのポイントに移動して行きました。もっとも下火を起こすすべを持っていなかった僕たちにとって、おじさんのくれた炭が温かく燃え、暖を取らしてくれることはありませんでしたけれど。 なんだかんだ大騒ぎをしましたがやっとのことで夜釣りの準備にかかることが出来た僕たち。釣りの狙いはマブナや野鯉、吸い込みと言う仕掛けを投げ込みます。らせん状の針金に練り餌をつけ寄せ餌で魚を誘います。寄せ餌ということだけあってかなり匂いのきつい餌が調合され、主成分の練り餌のほかにさなぎ粉だのにんにくエキスのなんたらだの、それらを混ぜ合わせ練り上げた手はその後いくら洗ってもしばらく匂いが取れませんでした。その夜食べた夜食のカップラーメンは直接手に触れていないにもかかわらずさなぎ粉とにんにくのにおいがして気色悪かったことを覚えています。 そうして出来た練り餌を仕掛けにつけ、魚が食いつくのをひたすら待ちます。竿立てなんて洒落た物を持っていなかった僕らの竿立ては自転車の荷台。竿の先に鈴を付け、あたりがくればじゃんじゃん鳴るしかけなっています。リール竿での投げ釣りのコツはガイドを外してフリーになった道糸を人差し指にかけ、竿を振ると同時にその指を外し仕掛けを遠くに飛ばすところにあります。夜釣りの仕掛けもIの監修のもと作られましたが錘(おもり)など結構ありあわせのものを使っていました。ありあわせと言っても吸い込み用の錘ではないと言うだけで、海釣りに使う高価なジェット天秤などが惜しげもなく使われていました。たまたまその時あったというだけのことだったと思うのですが。この高価で重たいジェット天秤、一投目に道糸をぶちきってどぼん!とやったやつがいました(匿名希望)。思いっきり竿を振ったのはよかったのですが掛けていた人差し指を離すのを忘れてしまったのです。本来なら錘に導かれて道糸が繰り出されて行くのですがそこに人差し指のストップが掛けられてしまいました。そのテンションに耐え切れず、道糸切断、錘だけが多摩川にどぼん!。怒り心頭のI。自分の仕掛けを後回しにして仲間の準備をしていたIのところに「ごめん、糸切れた」。「おまえ何やってんだよ!」と怒鳴るIに先に釣り始めた後輩のS、「先輩、もう釣れちゃいましたよ」と釣果を見せびらかすものだから・・・。 またそんなわちゃわちゃの状態でしたが、僕も含めてみんな数匹ずつマブナを釣り上げ、それなりに愉しむことの出来た夜釣りでした。釣りがひと段落すると「ペルセウス流星群が見れるはず」と言ってついてきた天文部の友人達の監修の下、流星観測が行われしばしの間夜空の流星ショーを愉しみました。後から合流してきた仲間たちのおかげで大賑わいの夜釣りとなりましたが、川淵をふらふら歩いていてどぼん!と目の前から消えたやつ(匿名希望)、幸い腰上ほどの深さで流されずに済んだのですが、がいたり。後から勝手に来て勝手に酒を飲み出し、退屈だと自転車でふらふら出かけたあげく血だらけになって帰ってきたやつ(匿名希望)、酒気帯び運転の自転車で転倒しガードレールで足を切ったと言ってました、がいたりetc.。一夜の夜釣りの話にこんなにもおばかが登場するのかと思うほど素敵な夜でした。そんな素敵な仲間に囲まれた楽しい高校生活だったということをみんなが今もなお語り継いでいる One Night Dream のお話でした。 |