園庭の石段からみた情景〜園だより6月号より〜 2009.6.5
<雨あがりの幼稚園に>
 今年は毎年訪れる梅雨前の暑い暑い日々がなかなかやってこず、子ども達の水遊びもイマイチ盛り上がりに欠けるよう。お天気続きの園庭に撒く打ち水もまだ肌冷たく、本格的な水合戦にはなかなか持ち込むことが出来ずに過ごした六月の月初めでした。そんな子ども達が始めたダイナミック遊びは砂場でいそしむ湖作り。大型シャベルを振りかざし、砂場に広大な穴ぼこを掘り広めそこに水を流しこみます。遊具洗いのためタライにためた水を空っぽになるまで自分達の湖に運び込む子ども達。砂に染み込む水と運ぶ水のいたちごっこでなかなか一杯にならない湖。不満顔で引き上げてゆく子ども達の渋顔を横目に笑いながらも、砂場道具洗う水をすっかり使われてしまい後で一人とぼとぼと洗わされる羽目に。「やられた・・・」。

 雨あがりのある日、砂場にかけてあったブルーシートに一杯、水がたまっていました。子ども達の作った湖の跡に水がたまったのです。いつもなら側溝に流す砂場の水ですがふと思いたち、子ども達を呼びに行きました。「おっきなみずうみ作れるよ!」。子ども達が集まってきます。その目の前でシートをひっくり返し、その水を流し込もうとしたのですが一杯にたまった雨水はその重さのゆえにがんとその場にふんばってなかなかシートを動かさせてくれません。それでも四隅を手繰りながら少しずつ、こぼれないようにそっと湖のくぼみに水を流し込んで行きます。するとシートの水は勢いよく流れ出し、子ども達の湖を満々と満たしてこれまで見たこともないほどの大きくて深い湖を作りあげたのでした。
 それに大喜びした子ども達。水に船を浮かべたり、湖の岸辺をシャベルで削って拡張工事に励んだり、みんな思い思いに遊び出します。広がった岸をまたいでジャンプして見せれば「僕も出来る!」、「僕も出来る!」と真似する子ども達。誰か「ぼっちゃん!」とはまってくれないかななんていたずら心一杯に見つめていますがなかなかやらかしてくれません。「僕も出来る!」と言うだけあってさすがさすがの子ども達。でもしゃがみこんだお尻がどっぷりと水に浸かっていたなんてご愛嬌もあったりしましたが、そんなことに全く気づきもせずに砂場遊びに夢中になっていた子ども達でした。

 この季節、雨あがりの山道を歩けば破竹のたけのこがいっぱいいっぱい顔を出しています。今年の5月は雨が少なくたけのこの収穫量も例年ほど多くなかったのですが、雨の日が増え出した先月末から今月に入って山探検に出かけた子ども達の戦利品もだんだんと多くなってきました。これぞ自然の摂理。たけのこも雨を待ちわびていたのです。たけのこを取りに行きたい男の子は「今日雨が降ったからたけのこ取りにいこうよ」などとたけのこ掘りのベテランのような口ぶりで言ってのけます。自然育ちが板についてきたなと頼もしくその弁を聞いていました。
 ばら組さんのお帰りはこのたけのこをめぐって大騒ぎ。みんなで取ってきたたけのこをホールの階段の前にまとめて置いておいたのですが、「おっきいのがいいの!」とだれのかれのかまわず持ってゆこうとする子。自分のたけのこを取られて大いに憤慨している子。たけのこをバッグに入れようとしたのに大きすぎて入らず、「もういらん!」とひとりぷんぷん怒ってしまう子。もうお帰りと言ってかばんをしょって出てきたのに持ち帰るたけのこを手にした途端また皮をむき始めてしまう子、などなど。時と所かまわず見ている者を楽しませてくれるたけのこ君達でした。

 またある雨あがりの日、雨に打たれて落ちたのでしょう、門の前にたくさん桜の木のさくらんぼが落ちていました。それを見つけた子ども達。今年の流行に乗っかってこれもジュース作りで遊び始めました。食用のさくらんぼよりふたまわりほど小さな桜の実、その外見はブルーベリーのよう。その実の汁もきれいな濃紺のワイン色。菜の花、野イチゴに続いてこれもジュース遊びの食材となりました。始め、ペットボトルに水と一緒に入れてシェイクしていた子ども達。やわらかな実とは言ってもそれではジュースは絞れません。透明な水の中にただただころころ沈むさくらんぼ。次に子ども達が考えたのは文字通り手搾りジュース。手のひらや顔や洋服まで真っ赤に染めながらさくらんぼを搾ってジュースにしていました。そこに突如訪れる文明開化。子ども達が考えたのか、偶然編み出したのか、はたまた先生の考案か、ナイロン袋に水とさくらんぼを入れる子ども達。ビニール越しにさくらんぼをつぶせば手は汚れず、汁は散らず、口を縛ればそのまま持って帰れるという大発明を考え出したのです。搾ったジュースのビニール袋を持ってきて「縛ってください」と子ども達。口が縛られ見事に完成したビニールジュースを意気揚揚と部屋の中に持ち込もうとします。それを見てあわてて持ち込み規制をかける教師達。部屋の中で爆発させたらえらいことです。そんな心配どこ知らず、ご機嫌笑顔でさくらんぼジュースを抱えて帰った子ども達でした。

 そんなこんなで雨あがりの幼稚園にはいつも素敵な何かが待っています。子ども達はそれを自分達で見つけ出し自分達の遊びに昇華して行くのです。有り着せの遊びを大人から与えられ満足するのではなく、自分の想いを自然の中に映し出しそこに自分の喜びを表現できる心、そんなROCK SPIRITS をこの子達は生れ持ってきたのかもしれません。雨あがりの園庭を見つめながらそんな子ども達の真っ直ぐな想い、どこまでもいつまでも真っ直ぐ育って行って欲しいと願っています。幾つになっても子どものように真っ直ぐだったあの人の歌を口ずさみながら。


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