ひとり股旅、心の軌跡(ローカス)          2009.8.27
<'09夏・帰京5〜豊多摩高校生物部列伝> 
 今年もいよいよあの仲間達と会える日がやってきました。豊多摩高校生物部同期の飲み会の日です。僕からの発信はいつも日土発のE−MAIL。『何日何時に麓屋に集合』と送りっぱなしで、返事が来ないやつはほっといて自分は旅に出てしまいます。ケイタイを持たない僕にそれ以降連絡を取るすべはありません。まあそれもあるのですがいちいち一人一人に「何日、大丈夫?」なんてアポを取るのがなんか気恥ずかしくてイヤな僕。「今年会えなかったらまた来年」という想い、テレなのか怠惰なのか、そういうのに一生懸命になるのはイヤなんです。いつも当たり前のように一緒にいた仲間達と当たり前のように会う。その距離感こそが僕らが長く続いているゆえんでしょう。だから「お前とはもう会わない!」なんてことになったことはないし、「今年は会えなかった」と言って嘆いたこともない。「残念、また今度」でまた一年が過ぎてゆくのです。これって毎年同じように咲く草花に、毎年同じようにカメラを向ける僕の性分そのものなのかもしれません。「今年撮れなければ、また来年」。それでいい、きっとそれでいい。
 ところがその数日前、懐かし巡り歩きでふと通りかかった約束の店、『麓屋』の扉に貼り紙を見つけました。『6日から16日まで夏休みです』、これにはあせりました。集合の当日、お店が休みであることがここに来て発覚しました。次の週、麓屋に飲みに行って分かったのですが、マスターの伊勢さん、今年の夏休みはアマゾンに行っていたそうです。この人もツワモノ。アマゾンまで行って食材や料理の研究に勤しんできたとは。豊多摩生物部の血は争えません。「これって食べていいの」みたいな不思議アマゾンアレンジの料理を肴に、後に今年も麓屋で一杯やりました。
 話は戻って、当日店が休みの旨を早速Iに告げると「連絡しなくっちゃ」と携帯電話を取り出します。こういうところは僕よりずっと気が利くI。矢継ぎ早に同期のメンバーに電話をかけだします。でもみんな呼び出しがかかると「はい」と僕に電話を渡すのです。「そこまでしたら出てくれたらいいのに」、と言いながらも電話を受け取り「もしもし、黒田です」と呼びかけます。Iもそういう人です。お膳立ては全てちゃんちゃんとやってくれるのですが、最後のところでは人に花を持たせるというか、前に出るのが嫌いというか。僕らの仲間はそんなのばっかり。でもそれが僕らのバランスなのでしょう。発信者と電話口の声の主が違う不思議な電話ですが相手も慣れたもの。「なに黒田、まだケイタイないの?」とか言いながら懐かしの声を聞かせてくれるT。「あれから連絡こないからさあ」とか言う声に「おまえ、メールの返事もよこさないくせになに言ってるんだよ」と返す僕。僕らはみんなお互い様。連絡が来なくて淋しかったら自分から連絡して来ればいいのに。でもそんな僕らでもちゃんと会える不思議。合間を埋めてくれている仲間達に感謝です。そんなこんなでみんなに連絡が取れ、今年は高円寺で集ることになりました。

 高円寺、ここも僕らの活動範囲だったのですが駅の周りの風景を鮮明には覚えていません。いつも通過するポイントだったのでしょうか。時代と共に店の興り廃れはあるにしても、駅の周りにこんなに沢山の飲み屋があるとは知りませんでした。高円寺、昔から貧乏ミュージシャンと貧乏お笑い芸人の住み着く町。飲み屋街は必須アイテムなのです。時間よりも早く着いた僕とIは飲み屋街の斥候に出かけます。これもIの性分。僕が時間より早く着いたなら、改札を出たところの壁際に立って改札を通り抜けてくる人の波をぼーっと眺めていることでしょう。眺めている割に待ち合わせの相手を見逃していることが多いのですが。余った時間はまったり過ごす、それが僕の性分。Iはというと下調べに出向き、良さそうな店をチェック。あげくの果てには10%割引のチラシなんかもらってきて、実によく動き働く人です。一回りしてから僕らは待ち合わせの改札へと向いました。
 そこにひとり、またひとりと仲間達がやってきます。みんな「おー」とか「よう」とか言いながらやってきて久々の再会を喜んでいます。ここでも人の流れに飲み込まれないように遠目に離れて待つ僕に、改札近くまで出向いて行ってみんなを迎えるI。フォワードとバックのように棲み分けられたこのコンビネーション、自然にポジション取りが行われる習性というのは本当に面白いものです。そこにやってきたT。Iの横を通り抜け、僕を見つけてやってきます。「そこにIがいたろう」というと、「あれ、やっぱりIだった?」とか言ってわざとらしいおとぼけをかますT。彼も照れくさいんです。面と向って「やあ、久しぶり!」なんて言うのは。僕らの仲間はこんなのばっかり。こうして去年は集れなかった僕らは、2年ぶりの再会を果たすことができたのでした。

 Iが目をつけた焼き鳥屋に直行した僕達。「どこがいい?」と聞けば皆「どこでもいい」と答えるのは分かってます。そこでIの斥候情報が僕らを導きます。宮崎地鶏の店になだれ込み、まずは再会の乾杯。飲んで食べて「お台場の等身大ガンダムを見に行った」だの「ケイタイ国盗り合戦で何国盗った」だのわいわい話す話題は中高生レベル。時々飛び出すのも高校時代の与太話。そんな中、「ジムに通って6kgやせたんだ」というMに皆が「えらい」の歓声をあげます。高校時代、運動など連想もさせなかったMがこの歳になって挑んだ自己啓発。思わずまばゆく見上げてしまいました。そんなMに触発されたのでしょうか、僕も日土に帰ってから自主トレ自転車ライフに挑んでいます。そんなMはI達に教えてもらったケイタイ国盗り合戦サイトにはまり、休みの日は東京をふらふらさまよっている様子。幾つになってもこんな風に影響しあっている僕らは本当に素敵な仲間だと誇らしく思うのです。


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