園庭の石段からみた情景〜冬の書き下ろし2〜 2011.1.10
<やせ我慢のススメ・その2>
 物質的に豊かになったこの時代、『我慢』という言葉はもう死語になってしまったのかもしれません。『我慢』という体験をせずに大きくなった子ども達は我慢がきかないもろい大人に成長してしまいます。勿論それは子ども達だけの話でなく我々大人もしかり。『人はすぐに低きに流れてゆくもの』、人間は楽な方楽な方へとその身をゆだねてゆくものです。その本能によって文明を進化させてきたのが我々人間なのですが、ゆきすぎた文明化は我々自身の感覚や能力を退化させてゆくものであることを忘れてはならないでしょう。
 この文明の進んだ世の中にあって反文明化のモチーフとして『エコ』や『自然保護』と言ったテーマが我々には与えられています。開発主義・大量生産大量消費が人間のメンタルの面でひずみを生むことが叫ばれてきましたが、経済至上主義の下ではただの懐古主義・センチメンタルであると否定され、大勢になることはありませんでした。しかし皮肉にもやはり経済である『エコノミー』がCO2の温室効果問題と相まって社会の重大事に位置づけられるようになると、それに伴い『エコロジー』に関する関心も大きく膨らんできました。本来大量生産消費システムの中ではエコロジーとエコノミーは相反し、エコロジーはコストのかかるものとされてきました。今でも再生紙を作ったりプラスティックを再生利用する方がコスト高になるのはよくよく知られていることです。しかし『節約すれば環境にも優しい』と言うこの当たり前の事実がようやく人の心を動かしつつあるところまでやってきました。ハイブリッドカーの躍進、太陽光発電など非化石燃料利用発電の促進など、商業ベースでのエコは着実に進みつつあります。一方で我慢を伴ったエコに関してはまだまだ一進一退を見せているのが現状のようです。CO2排出量を厳しく規制されている会社などでは社内の冷暖房温度を厳し目に設定することで徹底化されているようですが、家庭レベルでは今のところ義務はありません。そこで『やせ我慢』への挑戦を試みようと思った次第です。
 『我慢』と『やせ我慢』、何が違うかと言えば『我慢は置かれた環境に支配されるものであり、やせ我慢は自分の意思が支配するものである』と言うのが僕の定義です。つまり『我慢』はさせられるもの、『やせ我慢』は自分で挑むもの、と言うこと。『やせ我慢』とは自分で目標を設定し、それに対して自ら挑んでゆく我慢であり、その限界は自分が決めるもの。であるから自分でゲーム性などを持たせながら挑めば意外と続くものだし、「もうダメ」と思えばそこで降りても構わない、そんなものであると思うのです。しかしそのやせ我慢の故に自分の人としてのポテンシャルや精神性の高さを培うこともできる、人にとっては一種必要な修練だとも思うのです。『武士は食わねど高楊枝』、昔のこの国はやせ我慢が美学だった、そんな素敵な時代もあったのですからその子孫の僕らにもできないことではないはずです。

 そんな僕は今、西向きのベランダに面した窓ガラスにもたれながらこの文章を書いてます。天気のよい日には夕刻近くとなると僕の部屋には太陽の陽射しが差し込んで来ます。先程までつけていたヒーターの火を落とし、窓際温室で暖を取りながら書き物をすること、これも僕に出来る省エネなのではないかと思い立ち実践しているところです。ただ今の室温は17℃、陽の当たる窓辺はそれより2〜3℃暖かいでしょうか。窓から見える向かいのヌタ山にかかる雲は見る見るうちに流され形を変えてゆきます。そのせいでしょう、差し込む陽射しは時より遮られそれが続くと段々ひんやりしてきます。それが長く続いたので振り向いて見れば、太陽が背後の山の稜線に沈んでゆくところでした。わずか一時間とちょっとの日向ぼっこでしたが、これも自然をこの身に感じるシミュレーション、太陽のありがたさと暖かさを感じさせてた豊かな半時の時間達でした。
 部屋の暖房は石油ファンヒーターなのですが、この冬は燃費トライアルに挑戦しています。温度設定は『Lo』、つまり最小火力。ファンヒーターの前に座椅子を置いてかじりつくように暖を取っています。この年末の寒波の日々では最高気温が2℃と言う日もありましたが、その時の室温は9℃。ここからヒーターをつけて到達した最高温度は16℃。普段なら2時間もつけていたなら18℃を越えるのでそこで一旦火を止めるのですがその日はどこまで行っても数字は16℃から上がりませんでした。16℃と言う温度は暖かく感じ始める温度で、送風口のところに座っていれば、まあやせ我慢出きるかなと言った暖かさだと言うことが身をもって分った次第です。もう一つ身をもって感じたのは『暖房とは空気ではなく部屋を温めるもの』であると言うこと。2時間かけて18℃まで折角上がった室温ですがやはり換気が必要です。これまではこんなにかけて温めた空気を逃してしまうのはもったいないと思っていたのですが、換気した後にヒーターをつけてみて意外な事が分かりました。室温は一旦13〜14℃まで下がってしまうのですが、再運転後は10分ほどで元の温度まで室温が上がったのです。一度温まった部屋は家具など比熱の高いものが熱を蓄えており、再運転の際の熱量を少なくしてくれたのでした。これまでは運転温度が18℃に設定されていたので急速に部屋が暖房され、そのことを感じることがなかったのですが、設定を『Lo』にしたことにより出力が一定に制御され目標温度への到達時間の差からそのことが分かった次第。もちろん物理や熱工学を勉強している方なら理論上、何て事ない当たり前のこととして受け止められることと思いますが、それを体験をもって理解出来たところに感動があるのです。やせ我慢のご褒美と言ったところでしょうか。やせ我慢の末に得ることは意外と沢山あるようです。そう言うサプライズがあるからこそやせ我慢も出来るのでしょう。


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