園庭の石段からみた情景〜1月の書き下ろし1〜 2012.1.15
<神様のカリキュラム>
 新しい年が明けました。あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。長かったはずの冬休みもあっという間に駆け足で過ぎ去って、僕唯一人調整が間に合わなかった開幕投手のようにぼーっとした頭と動かない身体をひきずりながら、実戦の日々中で再調整を行っている次第です。こうして久々にパソコンを前に文章を綴ってみれば、ひらめきやリズム・テンポにアイディアと全然ダメダメでペンが進まず「だめだこりゃ」と自嘲してしまっているこの週末です。

 同じく新学期を迎え、幼稚園にやってきた子ども達も今週はなんかイマイチ調子に乗りきれない様子でした。それはそうでしょう。三週間もお休みが続いた上にそれがクリスマス&お正月のスペシャルシーズン。この時ばかりにとみんながちやほやしてくれた『パラダイス』から急転直下、ほよよん状態で『修行』の幼稚園生活へと帰って来たのですから。それはきっと無負荷・無重力の宇宙ステーションで生活していた宇宙飛行士が再び地球上に降り立ち『1G』の重力下に身をさらすようなもの。なまりきった身体と心に大いに不安やしんどさを感じる子達もあったことでしょう。僕も同じようなものなのですが。
 二学期の入園からずっと頑張ってきたたんぽぽさんも今週はみんなちょっと調子が出なかったようでした。泣いたり甘えたり失敗したり。そんな彼女達のことを心配するお母さんもありましたがそれが『たんぽぽ・三歳児』、今までが上出来過ぎたと言うものではないでしょうか。「二学期にはそんな素振りも見せなかったのに」と言われるかもしれませんが、ここが一番『その素振り』を出しやすいタイミングだったのです。一生懸命頑張りながらみんなと一緒に『1G』の集団生活の中で心と身体の体力をしっかりとつけてきたこの子達。その実力は誰もが認め、その成長をみんなで喜んだものでした。そんな状態から無負荷・無重力の冬休みを迎え、ゆったりまったり過ごした日々は彼女達にはきっと楽ちん・楽勝だったことでしょう。でもそれも決して間違いではなかったのです。『継続は力なり』と言いますが、一方で『伸ばし過ぎたゴムは切れてしまう』と言うのも自然の摂理。頑張った後のひとやすみは誰にでも必ず必要なものなのです。そうであるならばその後の『心と身体がリズムを取り戻すまでのこんな停滞期』も必然・必須のプロセスと言うことで僕らはそんなこの子達を懐深く受け止めてあげればいいのではないかと思うのです。
 潤子先生ともそんな話をしながら数日子ども達の様子を見ていたのですが、その週のうちに早くもこの子達はみんなあの栄光の二学期のリズムを思い出したようです。前日には涙を見せたあのたんぽぽちゃん。翌日は朝の準備が出来ていないばらばら男子のお荷物を指差し「○○くん、できてないよ」と言いながらいそいそとお世話を焼いておりました。その横顔にはまるで「もう、私がやってあげないとダメなんだから」と言わんばかりではありましたが、なぜか幸せそうにも見えたものです。うーん、こんなに小さくても女の子なんですねぇ。やはり女性は偉大です。

 またクラスの中を見渡せば『ばら女子チーム』が休み明けにカシマシさもさらにパワーアップしてみんなでのおしゃべり井戸端会議に興じています。お帰りの時間でもぺちゃくちゃいつまでも話しているので「おしゃべりしている人、ちゃんと準備出来てるの?」と尋ねれば「できてるー」と涼しい顔。なるほど金曜日の荷物沢山の日であっても、シール帳はもちろんシューズバックからカラー帽子までも完璧にお帰りの準備は出来てます。本来なら自分の事がちゃんと準備出来ている彼女達に僕等も文句を言えたものではないのですが、この子達が声高におしゃべりしているとまだ出来ていない子達への声かけの声も届きません。それならと「自分の準備が出来た人は男の子のお手伝いをしてあげて」と言えば、「はーい」と答えながらそそくさとお手伝いを始めた彼女達。そこいらに放りっぱなしになっているシール帳を拾い上げ、タオル掛けにかかったままのお手拭きタオルを彼らのカバンに詰め込んで、「はい、出来ました!」と『あねさん先生』大活躍。彼女達のおしゃべりを止めさせる為のつもりの声かけだったのですが、ここまでしっかりやってくれちゃうとうれしいを通り越して感心さえしてしまいます。「へー、なかなかやるじゃん」と。
 この子達もかつて『1Gショック』を通り抜けてきた経験者達。四月の入園直後、五月のゴールデンウィーク明け、二学期初めの夏休み明けとそれぞれではありますがそれぞれのタイミングで幼稚園生活の『1Gクライシス』を迎え、涙したりお母さんと離れることが出来なかったりしたものでした。もう当人もお母さん達もすっかり忘れてしまっているでしょうが。でもそれがこうして日常の当たり前になってしまえば「1Gなんてなんのこと?」とそんな涼しい顔でみんな過ごせるようにもなるのです。そしてその重力下で飛んだり跳ねたりしているうちに体力も筋力も自然についてゆくのです。こうした中、早くにステージアップしてしまった彼女達。今回は余裕過ぎるが故のおしゃべりであったことをまざまざと見せつけられてしまいました。実力はすでに『もも組級』。ならば「次に彼女達に課すべきカリキュラムは?」と考えれば、やはり『1G』を少しずつあげてゆくことなのでしょう。『自分のことをちゃんとする』が出来るようになったなら、次は『ほかの子のことも気にかけられるようになること』『その子のために働きかけてあげようとすること』、そんなものを目標と課題にしてゆくことが彼女達の次のスキルアップにつながってゆくのでしょう。今回は偶然の結果としてそういう声かけが出来、それにこの子達は応えてくれました。僕らの意図を超えた神様の与えてくれたカリキュラム。今度はどの子のどんな所を伸ばしてくれるでしょう。僕もちょっと楽しみです。


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