園庭の石段からみた情景〜10月の書き下ろし〜 2011.10.7
<彼女の幼児体操『エッサッサ』>
 いよいよ週末に運動会がせまってきた今週の月曜日、例年よりも一足早いリハーサルが行われました。当初水曜日に行う予定のリハでしたが、当日の天気予報は雨模様。二日も繰り上げて行われたので『本番に臨む』には気分も仕上がりもまだまだまだ。でも早めに反省・修正が行えたと言う点では、考えようによってはいいテストケースだったのかもしれません。なにしろばら・たんぽぽ組のクラス親子競技などは「このリハーサルの時に初めて本番形式で行われました」なんて一幕も。用具の出し入れやセッティングも含めて僕らにとってはいい練習になりました。
 一方、子ども達はそんなことにも動じることなく、リハーサルが何かと言うことを知ってか知らでか、いつも同様に楽しんでくれていたようでした。そう、いつも体操遊び・運動遊びとしてクラスの時間に体を動かしながら遊んでいた子ども達、その日も嬉しそうに楽しそうにいつも通りやってくれておりました。その分、緊張感がなく「グダグダだった」と反省にあげられていたのですが、まあこの子達はあんなもの。『運動会に喜んで参加する』ことを目標に置いてきたこのクラス、参加種目には喜んで出場し、出番がない種目では『ぶー』って顔で不満を表している子ども達には笑わせてもらってます。例年なら「疲れた!」「やらん!」をなだめながらなんとか参加しているたんぽぽさんもみんなもっと出たくて仕方がない様子。練習の時だけ自分達も参加させてもらうことで満足してくれているようです。このあたり、今年のたんぽぽさんはたいしたものだと感心してしまいます。もっとも一度「やりたい!」と言い出したらなかなか引かないその意志の強さに何かゆくすえ恐ろしいものも感じるのですが、今はこの『やりたい!』の想いがこの子達の原動力。その想いを大切にしながら、みんなで一緒に運動会に向けてがんばっています。

 運動会の練習で毎回必ずやっているのが『幼児体操エッサッサ』。こちらが大きな動きでオーバーにやると子ども達も喜んで、にこにこ笑顔でついてきます。そんな中、一人ぽつんと棒立ちの女の子がありました。体操の意味が分からないのかやりたくないのか、険しい顔で先生の顔をずっと見つめています。こちらも『体操』って言っても「こうやって手をあげて」とか「ここでジャンプして」などと口伝で教える訳ではありません。音楽に合わせて『やって見せる』、ただそれだけ。子ども達には『模倣することによって学ぶ才能』が備わっており、この子達は『マルモ』のダンスなどでもTVを見ながら勝手に振付を覚えてしまいます。毎回その子に向けて大きなアクションで誘ってみるのですが、にこりともしてくれませんでした。
 それがある朝、自由時間に運動会の音楽集を流していた時のことです。『エッサッサ』の段になってあの子が嬉しそうにピンコピンコ踊っている姿を見かけたのです。「え!?」と思いながら彼女のことを見つめていると、「やって!やって!」と僕にもやるように言ってくるのです。そこで一緒にやり始めるとまたまた大喜びの女の子。とうとう最後までご機嫌に『エッサッサ』をやって見せてくれました。これには潤子先生と顔を見合わせて笑ってしまいましたが、「できるじゃーん!」と一緒に喜んであげたものでした。
 それで『めでたしめでたし』だったならよかったのですがこのお話はまだまだ続きます。終わった途端に「もう一回!もう一回!」とぴょんこぴょんこする彼女。この子のやる気とリクエストにお応えして、もう一度『エッサッサ』をかけてやるとまたまた「いっしょに!いっしょに!」の踊りの催促。この子の笑顔に弱い僕はまたまた張り切って『エッサッサ』を一曲踊ります。あの体操、真面目にやると実は結構しんどいもの。『ラ・ラ・ラ・ラ・ライオン』の所など高速スクワットもいい所。「できた!じゃん!」で終わってニコッと笑った女の子。「もういっかい!いっしょに!」。「えぇー!?」。結局その朝、僕は5回も『エッサッサ』を踊る羽目となりました。次の日「なんで体が張っているんだろう?」と思えば唯一思い当たるのはこの『エッサッサ』。ストレッチをしながら一人で笑ってしまいました。
 この年頃の子達には、『きっかけ・導入』が何より大事。「この子が『エッサッサ』をしてくれるようになったのだから僕の努力も報われるだろう」と思いながらその日の全体練習で彼女の『エッサッサ』にチラッと目線を送れば、彼女はまた直立不動の『お地蔵さん』。コントのような落ちに僕も『ほわ・ほわ・ほわ・ほわ・ほわわわーん』となってしまいました。置かれた環境が彼女を緊張させるのか、気分次第で彼女は別人になってしまうのか、見事にちゃんちゃんの結末となってしまいました。さあ果たして本番では一体どうなることでしょう。
 でもなんだかんだ言いましたが、こうやって遊びの中ででも体操をやってくれるようになったのはこの子の大きな成長です。この子達の年頃ってそんなもの。ついこの間まではお母さんと離れられなくって毎朝泣いていたのですから。それがこうやって自分の楽しい・うれしいを幼稚園の中に見出して、「もういっかい!」と喜んでやれるようになったところに僕はこの子の成長を感じるのです。ばら・たんぽぽさん達にとって運動会はあくまで意味付け動機付け。本番で格好よくやって見せてくれるものうれしいことですが、それまでの過程におけるこの子達の心境の変化やがんばりにこそ、見逃してはいけない大切なものが含まれているはずなのです。

 さあ、これがお手元に届くころには運動会は終わっていることでしょう。でももう一度それまでの子ども達の成長と本番での頑張りを思い返してあげてください。そしてそれを一緒に喜んであげてください。これがこの子達にとって、記念すべき最初の運動会の足跡となったのだから。来年の運動会に想いを馳せながら。


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