園庭の石段からみた情景〜10月の書き下ろし2〜 2011.10.15
<たんぽぽレジスタンス運動>
 運動会当日は皆さんのお祈りが天に届いたのでしょう。好天に恵まれて心地の良い汗を心と体にかきながら、みんな精一杯がんばって見せてくれた素敵な秋の一日となりました。応援に来てくださった皆さん、本当にありがとうございました。ばら・たんぽぽ組の子ども達もみんなそれぞれ、自分にとっての『初めての運動会』とちゃんと向き合っているうれしい姿を見せてくれました。お母さん達にとって、本番での『出来た・出来なかった』はあったかもしれませんが僕らから見たこの子達はみんな本当に一生懸命がんばっていました。大勢のお客さんを前にして大いに緊張してしまった女の子、敬老参観日の時はお母さんがいることでぐだぐだになって良いところを見せることが出来ずに終わってしまった男の子、ダンスの練習では「わたしはしません」となかなかやる気モードに入ってくれなかったたんぽぽさん。そんな子達が本番の自分の出番になったなら、誰より張り切って嬉しそうにやってくれていたこと、それがなんかとても嬉しかったです。『その気』になりさえすれば元来の真面目さが後押しをして、僕らの期待以上にがんばってくれるこの子達。二学期が始まってからのひと月ちょっとの月日を振り返りながら運動会での彼らのことを思ってみれば、大変な大活躍だったのではないでしょうか。あの参観日やぐだぐだリハーサルのおかげ?で大きな伸び代を与えられたこの子、見事に本番での勝負強さを証明してくれたものでした。もっともクラス担任の潤子先生の立場になってみれば、あらかじめもう少し見通しがついてくれたなら心持ちも楽だったでしょう。でもでもこの子達の進化・覚醒はある日突然、伸び代だって無限大。僕らはただただ一生懸命やりながら、この子達の成長を神様に祈っていればいいのでしょう。それはいつだって僕達が生み出すものでは決してなく、神様によって与えられるものなのだから。

 運動会明けの今週は園行事や天候不順もあってお部屋で遊ぶことが多かったのですが、近距離から子ども達のやりとりを眺めていたおかげで、色々目新しい人間関係や子ども達の様子が僕の視界に飛び込んで来ました。まずは『やりたいやりたい』が功を奏して自分に自信をつけたたんぽぽさん。自分達からお気に入りのばらさんをパートナーに指名して嬉しそうに遊んでいるのを見かけました。そのペアーを見たなら、どうもお相手はどちらかと言えばまだ『しっかりお姉さん』ではない自分に近しい『ほわんほわんちゃん』。お世話を焼いてくれるお姉さんは嬉しいけれど、自分のことが出来るようになってきた彼女達にとっては少々煙たくなってきたのでしょうか。これまた『一緒に遊んでいて嬉しい相手』とはちょっと違うよう。運動会や定番のダンス曲が流れ出したのを聞きつけると、一緒になって「わーきゃー!」言いながら大はしゃぎしている気の合う仲間同士で嬉しそうに遊んでいました。
 『入場行進』から『幼児体操エッサッサ』・『マルモの唄』に『トントンおおかみ』まで、「もう本番も終わったのでいいでしょう」と僕がちょっとおどけて踊って見せれば子ども達も大喜びでついてきます。こんな少々ユーモラスな第2次運動会ブームが立ち上がったこの一週間となりました。雨の日のホールでもそんなこんなで再びの運動会ごっこで盛り上がれば、みんな汗だくになるほどの大フィーバー。「暑い暑い!」とシャツ一枚になってしまったので「風邪ひくといけないから、お着替えしておいで」とばらの部屋に着替えに戻らせたものでした。

 ダンスのように何人ででもみんなで楽しさを共有できる遊びはこのように仲良く遊ぶことも出来たのですが、物が介在する遊びでは所有権や順番を巡って突如喧嘩が始まります。初めは『おとなしかわいかった』たんぽぽさんに対して『私はお兄さんお姉さん』の自負を持ってがんばっていたばらさん達も、たんぽぽさんの増長に多少苛立ってきた様子。たんぽぽさんの横暴にお姉さん達は倫理と理屈をもってたしなめの言葉を送るのですが、そんなものに聞き従う彼女ではありません。一部のばら男子などに至っては感情のままにブチ切れて、お互いに泣き出すまでの実力行使のマジ喧嘩。四捨五入すればよっぽどたんぽぽさんの方に近い彼らに我慢を求めるのは酷と言うものなのかも知れません。でもこうやってぶつかり合って擦れあってゆくことでお互いのとんがったところが段々と丸くなってゆくはずだと、少し離れたところからこの子ども達の『いさかい』を微笑ましく見つめています。
 人間関係とは面白いもので、たんぽぽさん達も もも組にいるときはおとなしい良い子ちゃんで過ごせるのだそうです。周りのももさん達がみんなして譲ってくれるので、彼女もそれを感じて「自分も良い子でいたい」と願えるようなのです。それが大勢のばら組を相手に回したなら、誰かに一言「ダメ!」と言われた瞬間に疳の虫に火がついて、ヒステリックな大立ち回りを演じてしまうのでしょう。女心とはこんなお年頃から難しいもの。先に譲られれば はかなげにしとやかに譲り返し、否定されれば「化けて出てやる!」と言わんばかりの荒れ荒れ模様のブリザード。でもでも人間なんてきっと多かれ少なかれそんなもの。だからこそこの子達にも譲り合いの想いを大切に感じて欲しいと願うのです。きっと時間はかかるでしょうが、こんな関わり合いを教材に、この子達も もも組くらいになった頃には多少分かってくれるようになっていてくれることでしょう。

 さあ、いよいよ秋も深まり秋の実りを感謝する季節が近づいて来ました。この子達も一杯に陽の光を浴びて素敵に大きくなりました。そんなこの子達の秋の実りを日常の中で一緒に探してみてください。きっと素敵な足跡が見つかることでしょう。


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