園庭の石段からみた情景〜10月の書き下ろし3〜 2011.10.21
<『ばら・たん組』の大冒険>
 気持ちの良いちょうど頃合のいい気候が続いている秋の幼稚園です。子ども達は園庭で鬼ごっこをしたり裏山で虫取りをしたり、思い思いの『想い』のままに遊んでくれています。今はがんばった運動会からのクールダウン。やりぬいた自信と頑張ったことによって知らず知らずのうちに我が身についたスキルが、この子達を新しい自分の世界へといざなうのに『ちょうどいい』、そんな季節なのかも知れません。

 そんな今週の月曜日、ばら・たんぽぽ組の子ども達がお散歩に出かけることになりました。こういう時の『言い出しっぺ』はいつも潤子先生。その日の気分で突然「おさんぽ!」とか言い出す潤子先生にこちらは「ちょっと待って、今日はすみれ組を取材に行くから…」とやりくりを考えながらお散歩の為の調整を行ないます。いつもそれなりの『理由付け』や『理屈立て』が出来ないと重たい腰の上がらない僕と、「やりたい!」だけで詳細な計画やディテールなんかは「あんたが考えて」(口では言いませんが)と言う感じの潤子先生の担任・副担任コンビは相性としてはもしかしたらいい方なのかも知れません。
 予定していた自分の仕事を片付けて、いざ『ばら・たん組』(焼肉じゃありません)の先頭に立ってお散歩に出発です。まずは子ども達と「大冒険に出発だぁ!おー!」と気合を入れてからそれからみんなで歩き出しました。『大冒険』と言う言葉が子ども達の心の琴線を奮わせたのか、なんかみんなノリノリモードにスイッチオン。幼稚園の門を出た松岡の小道をみんなで意気揚揚と上がっていきました。梶谷岡への登り坂を左に上がってゆけば、それがこのあたりの最大勾配の傾斜道。大人でもしんどい道を子ども達は「きゃーきゃー!」「ひゃーひゃー!」「この坂、つかれるぅー!」と言いながらそれでもうれしそうに登ってゆきます。子ども達にとってこんな一つ一つが大冒険。『大冒険』と銘打ったその時から子ども達の心に『大冒険の魔法』がしっかとかかり、多少の負荷が心地よく、それに対してがんばっている自分が誇らしい、そんな想いでこの岡を登っているのでしょう。ただの松岡の生活道が子ども達に夢を与えてくれた、そんなひと場面となりました。
 坂を上がりきった左手は八幡浜幼稚園がお芋を植えている芋畑になっているのですが、さっき上がってきた道からはちょっと高台になっています。『大冒険第2弾』にひらめいてしまった僕はおもむろにその斜面を上り始めます。その高さ1m弱と言ったところでしょうか。突然進路を変更し、草に覆われた斜面を登り出した僕を見ながらあぜんとする子ども達。でも僕がまた「大冒険!」と声をかけると、みんなきらっと目を光らせて登り始めました。尻込みをしている子には手を差し伸べて引っ張りあげ、自分で行こうとする男の子などはずり落ちない様に軽くお尻を押して支えてやれば、ばらの元気男子から腰の引けたたんぽぽさんまでみんな傾斜を上って上の畑にたどり着きました。みんなして上がり着けば子ども達の声がまた高まります。興奮気味にわいのわいの言いながら僕らは更に先へと歩を進めたのでした。

 幼稚園の舗装道を降りてきて、次に挑戦したのは『肝試し』。清水の『五右衛門風呂』の風呂小屋がそこにはまだ残っているのですが、使われなくなって5年以上も経ったせいでしょう。焚き口の風除けもいつの間にか崩れかかって『おんぼろ屋敷』の様相です。その前をみんなで通って、「お化け屋敷だぞぉ」と脅し文句をかけながら肝試しをやってみました。子ども達も薄気味悪さを感じながらも、その横をみんな駆け抜けます。誰一人後戻りしてよけて通った子はありませんでした。それにはちょっと感心してしまいました。怖がりぞろいのこの子達が、たいしたものだと。
 最後は『台』と呼ばれる高台の上に上ります。ここは病院の屋根の高さほどもある高みなのですが、病院の久和先生がそこに家庭菜園を作って野菜達を育てているところ。子ども達は一々感動しながらその高台の畑を見渡しながら歩きます。その『台』から続く本当に小さな小さな小道を歩いて降りようと歩を進めたのですが、道幅30cm程しかないその小道いっぱいに敷き詰められていたのが銀杏の実。小道の真上にそびえたつイチョウの木から落とされた銀杏が足元一杯に転がっていました。この銀杏、実はかなりの『くせもの』で匂いが臭い。今時の子ども達、銀杏の匂いなどに触れたことがないのでしょう、「くさいくさい!」と鼻をつまんでの大騒ぎ。しかもこの銀杏、果肉のついたまま坂道に散りばめられていたならば、滑って足をすくう元になるのだと言うことにこの日僕も初めて気が付きました。「こういう滑りやすい下り道はトラクションコントロールが重要」と、僕は重心や体重移動に気をつけながら歩を進めたのですが、そんなこと分かるはずもない子ども達。元々のへっぴり腰に加え、手は鼻をつまんでいるので腕でバランスを取ることも出来ません。「そんな歩き方なら百発百中で転ぶんじゃない?」と思っていたところに尻餅さんが続出。かわいそうによりにもよって銀杏の上にべっとりと座り込んでしまった子ども達。「おしり気持ち悪い!くさーい!」と半泣きで坂道を降りてゆきます。見るに見かねてそんな子ども達に手を差し伸べてあげれば、藁にもすがるように僕の手を取ってなんとか銀杏の地雷地帯を通り抜け行った子ども達でした。んー、銀杏恐るべし。あの日、子ども達が持って帰った『うんちくさい』お着替えズボンはおもらしではなく銀杏でした。お洗濯、お手数おかけしました。どうもすみません。
 そんなこんなもありましたが、なんとか『大冒険』をやってのけた子ども達。その顔は実に誇らしげです。こんな経験を繰り返しながら、きっとこの子達は日土の自然に育まれながら、心も体も大きくなって行ってくれることでしょう。理屈ばかりの『頭でっかち君』ではなく、感性勝負の『おおらかな心』の素敵な大人に。


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