園庭の石段からみた情景〜10月の書き下ろし4〜 2011.10.29
<北風と太陽>
 毎朝寒さに身を震わせるような時節となりましたが、幼稚園までやって来れば暖かく降り注ぐ陽の日差しと子ども達の熱気で、徐々に自分の体にも火が入ってゆくのを感じる今日この頃。朝の準備を終えてお外に元気に飛び出せば、すぐさま僕も子ども達も重ね着した上着を「暑い暑い」と脱ぎ出す始末。心と身体の元気がなにより健康の源なのだと、嬉しい想いで子ども達と身体を動かしながら遊んでいます。この目の前の子ども達がいなかったら、きっと僕などきっともっと不健康なんだろうなと思いながら。この子達と一緒に居られることを感謝しながら。

 さあ今週の『ばら・たん組』は子ども達の成長と変化を具現化した形で色々と見せてくれた一週間となりました。二学期のリスタートから二ヶ月が経とうとしている月末ですが、子ども達の勢力図や同盟連盟関係にも面白い変化が見られるようになって来ています。クラスの中で「きーきー!」言ってたたんぽぽさん、なんか一通り集団の中で自分の想いを発散させたのが良かったのか、今週はなんか落ち着いた感じにもなって来て、泣いているばらさんのそばにとことこと寄って行っては「ないてるねぇ、かわいそうよねぇ」とよしよししながら慰めてあげている姿をよくよく見かけたものでした。その慰めてあげていた相手と言うのがあの前に大喧嘩した男の子だと言うのがなんともおかしいところ。『無垢』と言うのは良くも悪くも美しいものだと改めて感じさせてもらっています。
 また自分のやりたいようにやれないと感情を爆発させていた男の子は最近女の子達と上手に遊んでいます。お互いにお気に入りの『にゃんこごっこ』が良かったのか、互いに『なでなでよしよし』し合いながらかわいいにゃんこになりきってうれしそうに遊んでいます。この男の子、『人に優しくされること・人に必要とされること』の嬉しさをこのコミュニケーションの中で学んだのでしょう。「この子達のために」と正義感に燃え、今では張り切って彼女達の『用心棒』となって『大活躍?』しています。お部屋遊びの中でも『領土問題・遊具の所有権主張』から女の子グループと男の子グループのもめごとがしばしば発生。まだフェミニズムのかけらも分からぬ『あだあだやいやい』の男の子達、やめときゃいいのにご自慢のブロックの武器を振りかざし彼女達に向かって威嚇します。気弱な男ほど武器を手にするとそうなってしまうのは何故なんでしょうね。まったく男って奴は、要反省。しかし一枚上手はやはり女の子。自分達だけでは旗色が悪いと判断すると、別の所で遊んでいたあの『用心棒』の彼を呼びに行って助けを求めるのです。客観的な状況など何も分かるはずもない彼が大憤慨してやってきます。実にこの子、『いいひと』なんですよね。「俺の彼女に何をした!」と言わんばかりの剣幕で「だっだっだ!」とやって来るものだから、またそこでひともめひと喧嘩。いらぬお説教をもらう羽目となるのでした。なんともお気の毒なことです。喧嘩っ早いのは褒められるものではありませんが、『誰かのために』と言う想いはこの子の心の成長の奇跡。今まで『自分と自分以外』と言う構図でしか友達と接することの出来なかった彼が、『自分の仲間』と言う概念、そして『仲間との絆』を大切に感じられるようになった、それは本当に嬉しいことだと思うのです。後はその感情の表現の仕方をお勉強してゆくことがきっと必要なのでしょう。
 でもそれに味を占めたのは彼女達。ちょっと男の子達との間に軋轢が生じようとすると、「○○君呼ぶよ」と脅し文句。そんな彼女達を「女だなあ」と思い見つめながら、そんな時は「それってどうなの?」と横やりをちょっと入れてやっています。するとバツの悪そうな表情ですごすごと退散する彼女達。女の子も自分の『武器』を手に入れると使ってみたくなるのかも知れません。双方とも正面から話し合えばいいのに、僕らが間に入った時には一緒に仲良く遊ぶことも出来るのに、それが3歳児の姿なのかも知れません。でもそうやって相手との関わりを学びながら、『折り合い』と言うものを自分達で体感しながら、きっとこの子達は大きくなってゆくのでしょう。「ならばこれも必要なその過程」とすぐにも止められる体勢を取りながら、この子達の姿をちょっと離れたところからにやにやしながら眺めている僕です。

 また以前にもお話した『お調子わんこ』の男の子。みんなから指摘されるとへそを曲げて自分でもにっちもさっちもいかなくなってしまうのですが、今回新たな試みで『北風と太陽作戦』に挑戦してみました。その日のお帰りの時間、いつもと同じように鞄の準備が出来ない彼に向かって、「あれ、○○ちゃん、今日はがんばってるじゃん!(なんにも出来ていないのですが)。あと鞄が出来たら今日はシール帳一番だぁ!」。ちゃんと出来ている子からあげる約束にしているシール帳、いつも出来ない彼は決まって一番最後なのですが、その言葉に俄然やる気になった男の子。一目散に鞄掛けに飛んでゆき、鞄を取り水筒をひったくって僕の前に『ちゃんとお座り』。にこにこ笑顔でしっぽをプルプル振りながら、その日は一番にシール帳をもらうことが出来ました。それにちゃんと待っていたみんなも文句を言わずに、「○○ちゃんすごい!よかったね!」と声をかけてあげていました。この子達、なんて『いいやつ』なんでしょう。本当にこのクラスのこんなところが大好きです。みんなそれぞれ素敵に大きく、心も身体も育ってくれています。このこと、神様に感謝です。
 子ども達の成長に伴ってこんな新たな軋轢や変化も生じてきていますが、それも全て次の成長の為の大事な教材。そこからまたみんなで学び合いながら大きくなって行って欲しいと願っています。ことのほか怪我や事故には気をつけているつもりですが、お母さん方もこんな僕らと子ども達の事、どうぞ見守っていてください。


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