園庭の石段からみた情景〜11月の書き下ろし2〜 2011.11.10
<僕らの学び合い狂想曲>
 今週も気持ちの良い秋の日が続いています。幼稚園までの山道を歩いてゆけば運動靴が朝露に濡れて季節の深まりを感じさせるもの。しかしその朝の肌寒さがちょうど心地良く、子ども達は外遊びで元気に走り跳びまわっています。今週は個人懇談があったこともあって度々お母さん方から子ども達のお家での様子が伝わって来ました。目新しいことを始めた子どもに「『誰に教えてもらったの?』と聞けばみんな『しん先生』なんです」と教えてくれたお母さん。字や足し算までは良かったのですが、食事の後の『お茶でくちゅくちゅ』も僕だと聞かされ、「そんなこと教えてませんよ」とあわてて言い訳したものでした。どれも僕が彼に『講義』として教えた物ではないのですが読んで聞かせたりやって見せたり、無意識でやったことまでも見ていた子どもの心にインプットされて「しん先生に」となったのでしょう。
 一方、お弁当の時間にいち早く食べ終わり歯磨きをしながら僕が受け狙いにやっていたのが『ひげブラシ』。歯磨き粉で顔にひげを書いて遊んで見せたのですがこれに子ども達が大爆笑の拍手喝采。「またやってー」と言う子ども達に「ちゃんと全部食べたらね」と完食への動機付けとして毎回遊びでやっていました。それが何を思ったか真面目ちゃんの女の子、お家の鏡の前で『ひげブラシ』を大真面目な顔でやっていた所をお父さんが見て大笑いした、なんて話も聞こえてきて思わず「すみません」でした。彼女にしてみれば何ともやってみたかったんでしょうね。などと色々自分が子ども達の心に波紋を落とし影響を与えていることを改めて教わった一週間でした。うれしさ反面、「ちょっと気持ちも引き締めて『いい影響』を与えるように子ども達に向き合わなければ」と思っている週末です。でも真面目ちゃんのこんなお茶目な姿はどっちでしょう?『いい影響』と言ったら怒られるでしょうか?

 今週、『ばら・たん組』の子ども達の気を引いた遊びは『大縄跳び』でした。先頃、もも組の子が挑戦し始めた大縄跳びを横目で見ていたばらさんが「わたしもやる!」と言い出したのが事の始まり。ももさんがやるのをじっと見つめていた彼女、イメージトレーニングは完璧だったのでしょう。満を持して「私もやる!」と言ったまでは良かったのですが、最初の一度がなかなか跳べない。「あれ?もういっかい!」「え?もういっかい」と何度も挑戦を繰り返した『彼女の縄跳び・最初の一歩』でした。そもそも頑張り屋の女の子。いつも飛び級クラスの実力者でライバルは自分自身かお兄ちゃん。『自分が跳べないはずがない』と信じていながらどうしても跳べないその最初の一回が跳びたくて、何度も何度も「もういっかい!」と縄跳びに立ち向かって来ました。でもこういう努力家は必ずきっと報われるもの。しばらくそうこうしているうちに、回ってくる縄を上手に跳び越えられるようになりました。「同じリズムで跳んでいたら、僕が縄を上手に回してあげるから」と言った言葉を素直に受け止めてくれた彼女。『トントン・トントン』の二拍子の一定速度でジャンプするコツをつかんだようです。そのリズム感よい彼女の『トントン・トントン』に合わせて僕が縄を送ってやれば、なんと最高記録40回も跳んで見せた彼女。これには僕も感服してしまいました。
 ここで彼女の縄跳び術から考察した縄跳びテクニックについてレポートしてみましょう。ジャンプは大きすぎず小さすぎず、軽く飛ぶのが体力のロスも足腰への負担も少なくてよいようです。その際、足首を上手に使ってつま先を地面の方に残す跳び方がいい感じ。この跳び方だと仮に足の裏に縄がかかっても、そのテーパーがガイドになって縄が引っかからずに回り続けてくれる可能性が高まります。でもそれをなんのレクチャーもなしに自分自身で編み出した彼女の運動センスってなかなかたいしたものだと思うのです。僕だってこうして客観的に見ているから分析できると言うもの。それを誰にも教わることなく自分でやりながら自分の身体をコントロール出来ると言うのは『長嶋タイプ』の天才なのかもしれません。それに比べたら僕なんて『野村タイプ』の評論家でしかもボヤキの専門家なのかも知れません。
 そんな彼女の華麗なる縄跳び術を見ていると、この子達がまだばら組だと言うことなどついつい忘れて次のステップを教えたくなってしまいます。「いーちー」と二拍子で数えるのは結構億劫なもの。それで「いち!に!さん!」の一拍子の一回跳びに挑戦してみました。これは『トン・トン・トン・トン』と一度ずつしか足を着かない跳び方なので二拍子跳びの倍の速さで縄が回ります。でも同じリズムで跳んでいてくれれば回す方が合わせるのでちゃんと跳べるものなのです。この一拍子跳びで難しいのは縄の速さに惑わされて跳ぶタイミングも段々と早くなってしまいがちなところ。リズム音痴君は3回目くらいから早くなってしまって即NG。それを自分のリズムをちゃんとキープできるこの子はちょっとの練習ですぐさまマスターして、これも最高記録33回と言う素晴らしい成績を残し更に記録更新中です。

 こんな彼女の姿を見つめながら、クラスメイトやもも組のお兄ちゃんまで『一拍子跳び』に挑戦し始めました。本当は先に基礎の基礎をやらないといけないのでしょうが、『その気になった時がやれる時』とまたモチベーション最優先の僕はそんな子ども達に付き合って今日も早回しの縄を回しています。やはりやって見せることが一番の教育です。それをやるのは自分でなくてもいい。こんな風に『その気の一番弟子』を育てて、その楽しさをみんなに伝え広めてもらえばいいのです。自分に近い友達が出来るようになってゆく姿が、子ども達にとっては一番の励みとなり自分の可能性を感じられるはず。それぞれの得意なものを伸ばしてやれば、それが周りの友達にも伝播して、またみんなの素敵な成長につながってゆくことでしょう。


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