園庭の石段からみた情景〜12月の書き下ろし1〜 2011.11.30
<窓際のコンダクター(指揮者)>
 先週末から変に暖かな陽気が続き、季節の足取りもちょっと足踏みひと休み。幼稚園の煉瓦蔵を覆い尽くしている蔦の葉も朱色まで行って止まってしまいました。寒いのは程々がいいのですが、あの煉瓦蔵と蔦が夕陽を浴びていっそう赤く染まるあの情景は毎年毎年のお楽しみ。北風木枯らしが吹きすさべば一晩で裸ん坊になってしまう蔦の葉なので、「早く赤くなって」と今年も心待ちにしているところです。紅葉は朝晩にきゅっと冷え込んで日中との寒暖差が大きくなればなるほど見事に赤くなると言う話。なので「朝晩寒く、昼間は蔦とお外遊びの子ども達の為に暖かくなって」と勝手なことをお祈りしている今日この頃です。

 今週も子ども達、元気にマラソンを走っています。ふと前を見てみればいつも喧嘩ばかりの男の子と女の子が手をつないで一緒に嬉しそうに走っています。最悪な出会いと第一印象のせいだったのでしょう、事あるごとに喧嘩していた二人がいつの間に…と思わず笑ってしまいました。ご機嫌な時にはこうして一緒に連れ添って、かっとなったら今でも泣いて騒いでの大喧嘩。「しょっちゅう喧嘩している割によくよく一緒にいるもんだなあ」と思っていたのですが、引き付け合うものがあったのは確かなようです。知る人ぞ知る昔のトレンディードラマ、『カンチとリカ』の『東京ラブストーリー』を地で行くような急接近の二人を興味深く眺めておりました。
 最近では礼拝やお帰りの時間にも連れ立って『グレートエスケープ』のお二人さん。お調子さん同士で大脱走しては潤子先生を怒らせています。しかしこのお調子同盟を攻略するのはさほど難しくはありません。狙い目は『気まま気まぐれ』彼女の方。勝手が好きなくせに変なところで『おりこうちゃん願望』があるこの女の子。今まで自分が大騒ぎしていたくせに、礼拝の段になると「心もしずかに!」と大真面目な顔でみんなに言って回わっています。クラスの礼拝の時に「お祈りの時にはお口も心も身体もちゃんと静かに準備して」と言った僕の言葉が彼女の中に妙に心に残ったよう。だからおさなごへの声かけ・言葉かけは大切なのです。いつどんな言葉がどのように心の中に芽を出すか、それは神様にしか分からないのだから。
 さてそんな彼女の方を「○○君だめよねえ、△△ちゃんはおりこうだからちゃんと出来るよね」と一本釣りで引き抜けば、「そうよ、わたしはおりこうちゃんだもの」と彼を置き去りにしてみんなの元に戻ってゆく女の子。彼はひとりあぜんと彼女の後ろ姿を見つめています。こちらの男の子、やいやい言う割には一人ではなんにも出来ない意気地なし。わざと「さあ、一人で遊んでいていいよ」と言えば決まって「いやー」とクラスのみんなの所にすごすご戻る体たらく。「ならば最初から飛び出さなければいいのに」とも思うのですが、とりあえずはクラスへの引き戻し作戦は成功です。でもどちらが言い出したのかは分かりませんが『お気の毒』なのはきっと彼氏の方でしょう。この歳で早くも彼女の気まぐれに翻弄されているのですから。

 毎日の自由遊びの時間には僕は外で子ども達と遊んでいるのですが、最近お部屋遊びに残っている子達への置き土産として『ばら・たん組』の合奏でやる『きよしこのよる』をリピートモードでかけてゆきます。『お手本仕様』と言うことで伴奏の他にカスタネット・鈴・タンバリン・トライアングルが入っている音源で、キーボードのSDカードに入れてあるのでいつでも再生出来るようになっています。クラスの練習ではカスタネットと鈴の二編成で合奏をやっているのですが、音源に入っているタンバリンとトライアングルがやりたくて仕方のない子ども達。「ちゃんとやるなら」との約束で潤子先生に楽器を借してもらい、キーボードの前で曲に合わせて「たん!ちーん!」自主練習やっています。
 ある日、僕がブランコの前で外遊びの子達と遊んでいると、部屋の窓際にタンバリンを持った女の子の姿が見えました。窓越しにうっすら伴奏の音も聞こえてくるのですが、どうもそれとちょっぴり合っていない様子。窓の外からタンバリンの「たん!」のタイミングで叩くしぐさを送ってやれば、それに気づいた女の子。最初は僕の大げさな身振り手振りが面白かったのか大笑いしていましたが、段々と「これに合わせて!」と言う僕の想いを感じ取ってくれた様子。僕の手振りに合わせて「たん!」のリズムを取り始めたのでした。カスタネットがお休みの一拍目をタンバリンが「たん!」とやるのですが、いつもと真逆なリズム取りに初めは困惑していた彼女。でも慣れてくるとちゃんと一拍目の「たん!」に合わせてタンバリンを鳴らすことが出来るようになって来ました。鈴の段になるとタンバリンは全休符のお休みとなるのですが、そこもパントマイムのジェスチャー指導。「おやすみ、しー」とやればちゃんとお休みして待ってくれた女の子に「なかなかやるじゃん!」とうれしくなってしまいました。そう、これぞ本当に『好きこそものの上手なれ』です。

 そんな彼女に影響されてか、今日も窓際では子ども達がタンバリンとトライアングルをみんなで交代しながら『わいのわいの!』やっています。自分の想いから『自主練』に取り組んでいるこの子達。本番でもきっと素敵な演奏を聞かせてくれることでしょう。やらされながら「これでいいの?」と心配顔で演奏する合奏より、キラキラ笑顔で嬉しそうに楽器を叩いている演奏の方がきっときっと素敵な音楽を奏でてくれるはず。『音を楽しむ』と書いて音楽です。そして素敵な音だからこそ楽しいと感じることも出来るはず。自分の「やりたい」の想いを基に、素敵な音をつむいで楽しめるようになるようにと、今日も『窓際のコンダクター(指揮者)』はそっと遠くから子ども達にメッセージを送り続けているのです。


戻る