園庭の石段からみた情景〜2月の書き下ろし4〜 2012.2.25
<子ども達の『物語』>
 朝晩はまだまだ寒い日が続いていますが、昼中の晴れた日に日向に飛び出して遊んでみれば、あったか太陽の日差しに春の訪れを感じることの出来る今日この頃。そう、春はもうすぐそこまで来ています。幼稚園でも今週は一年の集大成、『春の音楽発表会』が行われ、子ども達が一年分の成長を僕らにしっかり見せつけてくれました。『音楽会』の練習では、ついこの間まで「やるのやらないの」言っていた子達が自分の順番になるとそそくさと舞台に上がり、堂々と台詞や歌を口ずさんでいるではありませんか。毎回『子ども達の成長』とは言いながらも、そんな姿を見つけたならついつい笑ってしまいます。「できるようになったじゃない」と。そうそう、子どもなんてそんなもの。「やって」と言えば「やらん!」と言うし、放っておいて見ていれば楽しそうにやってる友達につられてその気になっちゃうし。でも最初はきっとそれでいい。年長くらいにもなったなら、周りの期待を自分の糧に変えてがんばることも出来るようになるのです。でもまずは舞台に上がるところから始めなければきっと何も始まりません。逆に言えば上がれるようになったなら、そこからは自分の自信の積み重ねが自然なスキルアップを導いてくれるはず。「あの時、あんなにも喜んでくれたお母さんの笑顔がもう一度見たい」とか「すごかったぞー、上手だった!」と褒めてくれた父さんの言葉に『自分を認められる』ことの喜びを感じたりしながら。舞台の上で緊張しないはずはありませんが、それでもそんな想いが自分の背中を支え、意地も見栄も張りながら頑張れるようになってゆくのです。そう、だからこそお母さん達の励ましや評価が大切なものとなるのです。舞台は本番の一発勝負です。のれないことも失敗する事もあるでしょう。でもそこに至る道のりやがんばり、舞台の上での子ども達の様子を交えながら、終わったあと一緒に語らい労ってあげてください。それが子ども達の次の頑張りの源となるはずだから。

 さあ我らが『ばら・たんチーム』、その本番当日は朝から不穏な雲行きの子が3名ばかりありまして、「うーん、まずいかなぁー」と思ったものでしたが、なんとか上手に上手にご機嫌をうまく乗せながらなんとかスタンバイにまでこぎつけました。それにしてもこの子らの「おかーさん」の声を聞くとこちらもドキッとしてしまいます。それでもクリスマス祝会に続いての『なんとか軟着陸』にほっとしたものでした。発表会の『ご機嫌お天気予報』も「晴れ時々曇り、嵐の確率30%」、って所まで来れたでしょうか。運動会や敬老参観日の事を思えば、大いに成長してきてくれたものです。あの時は大嵐が荒れまくって、お母さん達も『取りつく島もなすすべもなく』って感じでしたが、この子達、ここまで出来るようになりました。ただ『舞台にあがる』それだけのことなのですが、それがこの子達にとっては大変なこと。この日、一つ目の地雷を何とか回避して、今年の音楽会が無事に始まりました。
 いよいよ『てぶくろ』本番の段となりました。練習では大声でシャウトしていた子ども達ですが、彼らにとってこれが劇の初舞台。大勢のお客さんの前でセリフを語ると言う未知なる体験に遭遇した訳です。いつもの経験上、練習でどんなに怒鳴っていても本番には良く見積もって三割引。自らの緊張と会場の雰囲気になかなかいつもの自分が出せないものです。さて本番、お調子たんぽぽちゃんがお休みで、たった一人になってしまった女の子がトップバッターです。本当にこの子には色々とお気の毒だったのですが、それでもひとりで一番長いセリフをしっかり言ってくれました。お母さんは謙遜の念もあって「小さな声で…」と言っていましたが本番の独り舞台のトップバッターであれだけ言えたら上出来です。とにかく彼女のがんばりのおかげで劇が無事にスタート出来たのです。
 次も危うい『きままカエル軍団』。やる気満々で「ぴょん!」と舞台に上がってくれた姿を見た時には、これまたほっと一安心。この子達、『てぶくろ』のあっちにこっちにふらふらひょろひょろやりながらも最後まで舞台の上に立って、ちゃんと『ぴょんぴょんがえる』を演じてくれました。もっとも本当のてぶくろの中に暮らしていた寄せ集まりの動物達だってお行儀よく鎮座しているはずもないでしょうから、あれはあれで演出効果としてプラスだったのかも知れません。あれだけふらふらしていながら毎回の「ぴょんぴょんがえる!」のセリフの時にはぴょんと立ち上がって『ぴょんぴょんがえる君』になれるのだから実に不思議なものです。聞いていないようで聞いている、不思議な集中力を披露してくれたかえる君達でした。
 その後も動物達のパフォーマンスは次々と続きます。かわいこちゃん達の可愛い素振りの『速足ウサギ』にスキップ上手の『おしゃれぎつね』。いつもノリノリの登場で、音楽の最後に必ず間に合わない『灰色おおおかみ』。いかにも猪突タイプの『牙持ちいのしし』コンビにのっそり演技に磨きのかかった『のっそりぐま』チーム。それぞれ自分の個性をその役に投影したような見事なキャスティング、でもこれは子ども達の立候補だったのですが、舞台に素敵な花を咲かせてくれました。そして見事だったのが段々調子に乗って行った、「くいしんぼうねずみ」から始まる自己紹介のくだり。最後はみんな大きな声でそして流れるように滑らかにセリフを連ね、お客さん達の溜息を誘っておりました。あの場面は中々見事な見せ場となりました。みんな練習してきたもんね。うん、とっても素敵なセリフ回しでした。

 こうして無事に終った『てぶくろ』の劇、練習から本番までを振り返ってみれば、その中でしっかりと成長してきた子ども達の姿がありました。彼らは初めて『パフォーマンス・表現出来る自分』に気づいたのです。それを糧にこれからもきっと頑張ってくれることでしょう。そう、この子達の『物語』はここから始まるのです。


戻る