園庭の石段からみた情景〜園だより4月号より〜 2011.4.23
<お弁当狂想曲U>
 今年もお弁当が始まりました。今年度は幼稚園第2週目からばら組の通常保育・お弁当給食開始にも挑戦。先週はまだ『涙ちゃん』が何人もいてこのような状態で二時までの保育なんて大丈夫?と思ったものでしたが、今週に入ってみれば確実に涙は乾き、素敵な笑顔も見られるようにもなりました。意外だったのは『涙ちゃん』達、実は午後の方が機嫌がいいということ。お弁当を終えて歯磨きを済ませるとあの『涙ちゃん』が僕の所にやってきて「あちょぼ!あちょぼ!」と満面の笑みで手を引くのです。「もしかしたらお昼ごはんをおなかに入れて、心もおなかも満足してからの方がこの子達は機嫌がいいのかも知れないなあ」と新たな発見に、新たな考察を加えてみたりもしたものでした。そんなうれしい発見はありましたが、やはり手ごわい子ども達とのお弁当バトル。今年もお弁当狂想曲が始まりました。

 先週末、すみれ組のお弁当の時間を持つことがあったのですが『さすがはすみれ』、みんなちゃきちゃき食べてさっさと遊びに出かけました。最後に一人の男の子と僕が部屋に残ったのですが、「この部屋で君のお姉ちゃんと、やっぱりこうしてお弁当狂想曲を繰り広げたんだよなあ」とひとり感慨にふけりながらこの子を見つめていたものでした。「さてと」とお得意のお弁当食べさせテクニックを駆使しての完食プロジェクトを開始。「まずはお弁当マジック」と苦手だと言うレタスで『鮭ご飯巻き』を作り挑戦させてみました。「お姉ちゃんもこれで食べられたんだから」と言いながら無難に口にレタス巻きを運んだ男の子を見つつ「なんだ楽勝じゃん」と思ったものでした。横で待つこと2〜3分。確かにもぐもぐやっている様子を見ながら「もうお口の中、空っぽになったかな?」と口の中を覗き込むとしっかり緑色がごっそり残っています。「お茶飲んだら、お茶」とその子を促すとお茶を飲むのですが全然緑は減りません。こんなこととは思わずたっぷり口の中にレタス巻きを入れてしまったので飲むに飲み込めない男の子。そこからその『緑』戦うこと十数分。何度お茶を飲んでも見事にお茶だけ漉し飲んで、緑はちょっとも減りませんでした。いつものノルマがわからないのでどこまでがんばればいいのか検討をつけかねていましたが、そろそろ時間もいい頃合。「あの針が9になったら僕もお外に遊びに行くよ」と告げた途端、彼は一大奮起して「ふんぐっ!」。「おっ!」と口の中を覗き込んで見れば見事に空っぽになっておりました。「やったジャン!」と一緒に喜んであげれば彼もまんざらでない顔を見せてうれしそうに笑ってくれました。そうは言ってもまだまだお弁当は残っています。『鮭ご飯もあまり・・・』と言う様子の男の子に、「じゃあ残りの葉っぱは今日はよしとしよう。ご飯だけがんばって食べよう」と次の作戦、『鮭ご飯で魚釣り』をやってみました。『「食べろ」と言えば食べられない、「食べられない」となると食べたくなる』という児童心理に基づき鮭をお箸でつまんでその子の口の前を行ったり来たり。それにぱくっと食いつきながら(僕は時々それをよけながら)、なんとか鮭ご飯を全部食べ終えることが出来ました。「さあ、片付けておいで。早く遊びに行こう」と促すとその子はうれしそうに飛び出して行きました。それからお片づけまで20分ほどでしたが、それでもいつもより長く遊べた男の子は自分のがんばりを誇らしく、お外遊びをうれしそうに満喫していました。まだまだ実力実績をつけるためには一杯いっぱいがんばりが必要でしょうが、今日のこの『やった!感』がこれからの心の励みになってくれたならうれしいことです。

 一方これ以上に悪戦苦闘はばら組弁当。みんながちゃんと座っているのは最初の5分ほど。食べ飽きたり、食べられないものに遭遇するとすぐにその場をエスケープ。『「ごちそうさま」までちゃんと座ること』、『苦手なものにも挑戦だけは試みること』、この二つを目標に子ども達と組み合ってみたのですがなかなかどうして思うようには行きません。『やっと一人を連れ戻してきたと思ったら隣の一人がいなかった』と言うもぐらたたきゲームのような有様で、思わず笑ってしまいます。「昔は畳にちゃぶ台、正座やあぐらで囲む食卓だったから座れていたのだろうか」なんて忙しい最中に思い浮かんでくる考察に、「そんな暇ないだろう」と我に返りまた逃亡者を追いかけに出かけます。これもきっと西洋式文明の『イス』と『自由さ』の中に含まれる負の遺産。今の時代、『和式』がいいこともあるようです。
 そんなこんなしていると向こうの方から「わーん!」と泣き声が聞こえてきました。「どうしたの?」と振り返れば「たべれん!」と女の子が顔を真っ赤にして泣いています。お母さんが一生懸命作ったきれいに彩られたお弁当、それを一つも手をつけないまま泣き出したのでした。潤子先生が寄り添って声をかけますが、一向に泣きやみません。僕らもどうしようもなくしばらく泣いていたのですが、別の子にお弁当を食べさせるのに四苦八苦している間にいつの間にかふっと泣き止んで静々とお弁当を食べ始めたのでした。一杯泣いてすっきりしたのでしょう。大声で泣いておなかもすきました。あれよあれよと言う間にぐずぐずやっている隣の男の子を尻目に、完食してしまった女の子でした。これにはみんなびっくり。『食べてみたらたべれちゃった』と本人も不可思議な顔をしていました。でもみんなで喜んであげたらその子も本当にうれしそうな顔で笑ってくれたのでした。

 そんなこんなのお弁当狂想曲は始まったばかり。僕らはこうやって繰り返し繰り返し創意工夫と努力をもって、『食事を教材にした教育』を積み重ねて行くのです。結果はすぐには出ないでしょう。でもこの食育が子ども達の心と身体を育てて行くのです。ご家庭での食事でも毎回ひとつずつ目標を持って挑戦してみてください。


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