園庭の石段からみた情景〜5月の書き下ろし4〜 2011.5.21
<「僕ら!」が僕らの合言葉>
 今月のひよこクラブとお誕生会に向けて僕が準備をしてきたプログラム、今週はそれをばら組の子ども達と一緒にやってみました。例年とは違い、クラスを持って大きなメリットに感じられるのは自分のクラスの中で『お試しプレゼンテーション』ができること。いつもはたいがい一発勝負だったのですが、クラスの中で子ども達と一緒に遊んでみれば、見えてくるもの『改善点』。多少の修正を加えながらプログラムを詰めてゆけたので今回は余裕も出来て大いに助かりました。もう一つ良かった点、事前にやってみることでばら組の子ども達の理解度・参加意欲アップにもつながることが分かりました。やはり保育の基本は『習うより慣れろ』、一番最初の導入時の反応はルールの理解を含めて今ひとつだったのですが、何回かやっているうちにこれらがみんなのお楽しみプログラムとなりました。
 みんなの一番人気は『狼と七匹の子やぎ』をモチーフにした『とんとんおおかみゲーム』。みんなで変わりばんこに狼と子やぎになって、「ただいまー!」と狼が入ってきたら子やぎは逃げ出す・狼は追いかける、と言うゲームを楽しんでいます。周りに置かれたイスに座れたら子やぎはセーフ、それまでに捕まえたら狼の勝ち、とそんなルールで遊んでいるのですが、このルール理解が最初は難しかった。狼が狼を捕まえたり、逃げなくてはいけない子やぎが狼に抱きつかれ捕まえられてプンプン怒って大憤慨、なんて珍プレーも続出。「まあ、ばら組の一学期はこんなもの」と最初は思ったものでした。しかしこの子達の順応力はたいしたもの。何日かやっているうちにみんな上手に狼・子やぎになって追いかけっこが出来るようになりました。イスは人数分以上あるので楽々逃げられるようになっているのですが、この数が減った中で出来るようになればこの遊びはイス取りゲームに発展・応用できてしまいます。この子達のこれからの可能性をいっぱいに感じ、ちょっとうれしくなってしまいました。
 狼が恐かった女の子、前に潤子先生が出してきた狼人形が恐かったようで、「おおかみ」と聞くと最初はびくっとした表情をしたものでした。でも彼女も「ありゃ、ばれちゃった」とおふざけ顔でおちゃらけるずっこけ狼に段々と心を許し、今では「おおかみゲームやる人?」と問えば「はーい!」と手を挙げてご機嫌顔で狼役をやるようにもなってくれました。もっとも自分が子やぎの時には後ろのイスの位置を一番最初に確認し、始まる前からおしり半分逃げ出す用意をしています。『おおかみ役』『子やぎ役』『ごっこ遊び』と言うものを理解し「だいじょうぶなんだ」と言うことが理屈では分かってきたのですが、それでも追いかけてくるものは恐いと言う児童心理か女心?。そんなものとも折り合いをつけて段々と色んなものに対して大丈夫になって来れたこの子の成長をうれしい想いで見つめています。そう、『お母さんがいなくても大丈夫』、『一人でお泊り大丈夫』、『出来ないことにもがんばれるから大丈夫』、これみんなこのことの延長線上にあるもの達なのです。

 クラスの中でもがんばれるようになって来ました、子ども達。朝のお片づけはまだまだ声かけ&チェックが必要ですが、それでもそれで出来るようになって来ています。朝来たらみんな放り出して遊び始めていた男の子達、僕が朝のバスから帰って「おはよう、あれ?出来てるの?」と問えば自信満々「うん!」の答え。「えー」とシール帳やらタオルやら、ひとつひとつチェックしてみれば『全部出来てる百点満点』。「すごい!」と一緒に喜び合ったものでした。お弁当の後の片付けも、がんばって食べている子の付き添いで座っている僕の所にやってきて「遊んでもいいですか!」、なんて殊勝なお言葉でしょう。前は「ダメ!」って言ってもそれがうれしくって飛び出して行ってたこの子達が、『自分がちゃんとできること』の喜びを感じ、がんばることが出来るようになったのだとうれしく思ったものでした。そこからタオル掛けを見渡せば、まだぶら下がっているコップ入れの巾着がありました。「あれ、歯みがきした?」と尋ねれば「あっ、そうだった」と素直に歯みがきに走ります。『気がつけば出来る・やろうとする』、これは本当に大きな成長です。ちゃんと歯みがきを済ませ巾着をかばんにしまったところを見届けて、「はい、全部出来た!がんばった!遊んでおいで!」とその子を送り出してやりました。満面の笑みで積木コーナーに走って行った男の子、本当に大きくなりました。
 一方、まだ食事の終わらぬ子ども達も席についてがんばっています。それでも最後の方に食のペースが落ちて来ると子ども達に激励の言葉をかけるのですが、子ども達の心にヒットしたのが「早く食べて、僕らは遊びに行っちゃおう!」でした。食事中の仲間がそこに数人いるのですが、『遊びに行っちゃう方の僕ら』になりたくて、もうひとがんばり出来るのが子どもと言うもののようです。みんな「僕らは行っちゃおうねえ!」とうれしそうに言いながら、ぱくっとお弁当を口に運びます。そう、『先生と一緒の僕ら』になりたくての迎合主義か、はたまた残された者の中からの離脱願望か、『良い方の自分』になりたい心理がこの子達のモチベーションを後押ししているのです。これが過剰化するとまた『僕はいい方』『あの子は悪い方』と言う『児童性相対性理論?』を生み出す土壌になってしまうかも知れません。でもさっきの子のようにまずは『がんばれる自分・出来た自分』に喜びを感じる体験がこの子達にはなにより必要だと、みんなで「僕ら!僕ら!」と言いながらがんばっています。そう、みんなが『僕ら』になれたなら、誰も仲間外れは出来ません。自分のことが出来たなら、他の子を思いやる余裕も優しさも生まれてくるはず。そうやってクラスはみんなで励まし合いながら研鑽し合いながら、個人であるこの子達を高めてゆくのです。がんばりや思いやりと言った素敵な心を育みながら。


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