園庭の石段からみた情景〜7月の書き下ろし2〜 2011.7.10
<夏バテ注意報>
 「まだか、まだか」と思っていた今年の梅雨明けですが、「今日、梅雨明けが宣言されました」の言葉をリアルタイムで聞き逃すとなんともすっきりしないもの。お泊り保育の宿直で幼稚園に泊まったその日に四国地方の梅雨明けが宣言されたそうで、待ちに待っていたはずの梅雨明けを「あー明けちゃってたのね」とそんな感じで翌日のニュースで聞いた僕でした。そのテンションの低さにはもう一つ理由があって、そのお泊り保育の途中でどうやら風邪をひいた模様。この週末は熱によるだるさとのどの痛みに苛まれながらも、「あと42時間で治すには」と処方された薬をきちっと消化しながら、「汗をかこう」と長袖のスウェット上下を着込んで寝ていました。
 もらった頓服の熱さましを服用すると1℃程熱が下がるのですが効果が切れればまた元に戻ってしまいます。こんな時にふと思うこと、「日本人は1億人以上もいるのに平常の体温が36℃±1℃に収束しているのはすごいことだな」と言うこと(外国のことまで調べる元気もありませんでした)。それに対して国内の最高最低気温を調べてみるとおよそ−40℃〜+40℃。環境の外気の変動の大きさに対して健康な人間の体温の変化の小さいこと。それほど我々には高性能な温度管理機構が備わっているのです。また逆に言えばそれだけ僕らの身体は内的変化に対してはセンシティブだと言えるのでしょう。1℃体温が上がっただけでもうモウロウとしてしまいますから。体内の温度変化を極力押さえる為のシステムが僕らには神様から与えられているのです。こうしてみれば健康な身体のありがたさが身に沁みて感じるもの。そしてこんな時には体調不良の子ども達が感情のコントロールが出来ずにぐずぐず言い出す気持ちが分かるような気がしてくるから不思議なものです。学期の終わり頃には身体の疲れから気持ちのテンションが落ちてくる子が出てくるもの。そんな時はまずは身体をゆっくり休ませてあげてください。体調が整い心も落ち着いてきたなら、また自分から走り出したくなってくれるはず。そんな心の体力がこの一学期の間にこの子達にはついてくれているはずだから。『がんばった・成長した・ちょっと疲れたからひとやすみ』、この三拍子のリズムを刻みながらこの子達はこれからも成長して行ってくれることでしょう。『がんばらなければ成長はない』でも『疲れた時には休ませてあげて』、とこの頃合いを見計らうのが結構難しいかもしれませんが『疲れた時にがんばれ』と言うのはNGワード。なんかいつもと様子違うなと感じた時には心も身体もゆっくりと、どうぞ休ませてあげてください。
 そういう僕はと言えばおかげさまでその後30時間で熱の方は平熱範囲内に入ってきました。のどの痛みはまだ少し残っているのですが、熱が下がってきたと言うことは僕の身体が熱を上げて攻撃していたウィルスが減少してきた証し。なにより「もうだめ!」だったテンションが再び戻ってきて、今週は諦めかけていたウィークリーの仕事もいくつか手がけることが出来ました。「僕もあともう十日は踏ん張らないと」、と気合いを入れ直しているところです。

 前置きが長くなりましたが(どっちが前置きかおまけか分かりませんが)今週のばら組の様子、ある日のお昼時、みんなで食事をしていた時のことです。毎度のお弁当狂想曲、「おー、もうこんなに食べちゃったの!お兄ちゃん!すごい!」とやっていると「うん、ぼく、おにいちゃん!」とご機嫌笑顔で答える男の子。近頃『お兄ちゃん』の讃辞にようやく喜びを感じ始めたこの子の成長をうれしく見つめていると、別の子が「ぼくもたべてるよ、おにいちゃん!」とうれしそうに続いて来ました。こんなにして影響しあいながら励まされながらみんなで一緒に成長してきたのがこのクラス。「いいねえ、この感じ」と思っていると最初の男の子が急に憤慨し始めました。「ちがーう!ぼく『が』おにいちゃん!」。その言葉の真意が汲み取れない他の男の子達が「ぼく『も』、おにいちゃん!」といつものノリで続きます。それを聞いてますます「ちがーう!」と息を荒げる男の子。みんなは「みんなお兄ちゃんだよね!」と『一緒にお兄ちゃんになれること』を喜びに感じているのに対して、彼にとってのお兄ちゃんとは『唯一無二』の存在なのでしょう。他の友達が『お兄ちゃん』になると言うことは『自分はお兄ちゃんになれない』と言うのが彼のロジック。『が』と『も』の違いの認識と言う日本語の難しさの問題もありますが、お兄ちゃんと二人兄弟の彼にとってお兄ちゃんとはただひとりだけなのです。「お兄ちゃんはひとりだけじゃなくて、がんばった人みんながなれるんだよ」と諭したのですがとうとう最後まで納得出来なかった男の子でした。でも概念の構築とはそういうものなのでしょう。自分の世界が広がって人との関わりが深まってゆくことにより、それまでの思い込みが校正され正しいものの見方や概念が身についてくるのです。その情報が更新される際、彼のようにフラストレーションに苛まれることもあるのですが、これもまた皆にとっていろんな意味でのお勉強となることでしょう。

 今週までに4人のたんぽぽさんの9月入園が決まり、それをばら組の子ども達にも事ある毎に伝えて来ました。ばらの子ども達は自分より小さな子が入ってくるのを楽しみにし、「お世話してあげる」と張り切っています。この3ヶ月間、『自分の事が自分で出来るようになりました』『人のお世話も出来ちゃいます』『お当番だってちゃんと出来ます』と確実にステップアップしてきたこの子達。この次の『小さい子のお世話もしてあげられます』は自分を名実共にお兄ちゃんお姉ちゃんに昇華しうる何よりのミッションとして受け止めているようです。今はこの子達のこの思い、大切にそっと見つめていたいと思うのです。『がんばれる時はがんばったらいい』、『がんばり疲れたら一休みしたらそれでいい』、僕もそうやってがんばってきたから。


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