園庭の石段からみた情景〜園だより7月号より〜 2011.7.16
<寝る子は育つ>
 時より蝉の鳴き声も聞こえるようにもなり、ようやく梅雨明けを実感している今日この頃です。『蝉の声』と言ってふと思うのは、最近の蝉、どうも『ねぼすけ君』が多いのではと言うこと。睡眠時間が足りなくていつまで経っても起きられないのか、はたまた蝉の世界にも幼稚化が進み、「ずーっと眠っていたいのにー」と土の中で地団太踏みながらバブバブ言っているのでしょうか。まさかねぇ。
 つい数年前までは7月に入るか入らないかの頃になると梅雨明けの如何に関わらず、蝉がうるさいばかりに鳴き始め、毎週録音していた『みんなのうた』の讃美歌のバックにはその声が必ずと言っていいほど入っていたものです。それが最近では「まだ鳴かないねえ」と子ども達と夏の風物詩を待ちわびています。でも今年はそんな「蝉の声がどうこう」などと言う年寄りくさい僕のつぶやきに目を輝かせてうなづいてくれる『蝉友達・セミトモ』の女の子がいて、「今時の子ども達も捨てたもんじゃないな」とちょっとうれしくなっちゃっています。彼女、お家でも高い木に留まった蝉の姿をいつまでもいつまでも首の痛くなるのも忘れて眺めているのだとか。しばらくじっと見つめた後で家に駆け込み、図鑑を持って出てきた時には蝉はすでに飛んで行ってしまった後だったそうです。でもこういうところも含めて、やっぱりそういう子は大好きです。目の前にあるものをじっと見つめる、感じることが出来る、よく観察する、よくよく興味を抱く、辛抱強く関わることが出来る、これらのことができるこの女の子はきっと素敵な子に成長してゆくことでしょう。何かに夢中になれる子は、どこか輝いているものです。そしてその想いと力はこの子をこれからの人生の中でずっと支えてくれる一生ものの財産となるでしょう。お母さんからしてみたら「別に虫でなくてもいいのに」と思われるかもしれませんが、決して虫だけのことではありません。これから色んなものに興味を示し、そこからいろんな物事を自分の中に吸収しながら成長して行ってくれることでしょう。

 今月は幼稚園時代の一大イベントとして、すみれ組のお泊まり保育が行われました。ばらの時から『わらわらわちゃわちゃ』だったこのクラス、「本当にお泊まりできるのかなあ」と思いながら見つめていたのですが、「意外とあっさりできちゃった」、そんなお泊まり保育でした。近年の蝉に寄せて表現してみれば『すみれになってもまだ鳴かないバブちゃん蝉』かと思っていたこの子達が、実はちゃんと土の中でしっかり大きくなっていて、その実力を大いに見せつけてくれたって感じでしょうか。「いつのまに!」のサプライズ、これは本当にうれしい成長でした。
 まずは「おとまりせん!」、途中で「かえる!」って子が3人位出るんじゃない?って思っていたのですが、午後の3時に集まってきた子ども達は元気元気。ちょっとオーバーテンション気味のところが「大丈夫かな」とさえ思われたのですが、みんなこのお泊まり保育を楽しみにしてくれていたようです。思い起こせば数々の武勇伝を持ち合わせているこの子達。牛鬼が怖くて泣き出しちゃった女の子、牛鬼の居る屋根裏の下で寝るの大丈夫?。『はしっこ』をちゅうちゅうしないと眠れなかった男の子、さあ今夜は『はしっこ』なしで挑むのかい?。言い出したら自分を抑えることのできないこの子達、お泊まり保育本当に大丈夫?。などと思ってもみたのですが、子ども達に「大丈夫?」なんて言ってあおってきた割には「なったらなったでこの子達の経験として保育に生かせばいいんだから」と、最終的には能天気に構えていた僕でした。そもそも『大丈夫』とはなんぞや?何の問題も起きないこと?全てのスケジュールが計画通り行えること?いえいえ、色んな事が起こる中でそれを教材にこの子達が一回り大きくなってくれること、それがお泊まり保育の目的なのだから。担任の先生は「何事も起こりませんように」とお祈りしてたでしょうが。
 お泊まり保育、開けてみればすんなり順調に進んでゆきます。毎年よくある『お料理で指切っちゃった事件』や『花火でやけどしちゃった事件』もなくほっと一安心。お料理に関してはみんななかなか上手な包丁さばき。意外な一面を見せてもらった気がして「へー、やるじゃん」と感心してしまいました。夜のお楽しみではみんなが頑張って準備してきた成果を見せてくれて、舞台の上でチームワークなんてものも感じさせてくれました。どっちかと言うとこの子達、これまでは『口先達者・耳年増・イヤミーちゃん』で、相対的に自分が評価されるための足の引っ張り合いをわちゃわちゃしていた感があったのですが、今回の練習ではみんなで時間になると誘い合って自分達で集まり励まし合いながら練習や準備をしていた姿を見せてくれました。こういう姿を見て、「あーこの子達、すみれになったんだなー」と思ったものです。この仲間意識もお泊まり保育があったからこそ。お母さんやお家の人が誰もいないお泊まり保育。でも仲間達は誰一人泣き言を言っていません。そんなクラスメイトに励まされ、勇気をもらい合いながらこの子達はお泊まり保育に挑んでゆきました。そういう中でこそ改めて感じる仲間の大切さ。「今はこの子は出来ないけれど、一緒に支えてあげよう。一緒にやり遂げたいんだ」と言う想いがきっとこの子達の心に芽生え、この仲間意識の成長を促してくれたのでしょう。やはりお泊まり保育とは『出来る・出来ない』ではなく、『やってみるもの』なのでしょう。

 お泊まり保育の最大のハプニングは夜のお楽しみの時間、ある女の子がおねむになって先に寝ちゃったことでしょうか。はしゃいではいても緊張していたのでしょう。宵っ張りの今時の子よりかわいらしくっていいじゃありませんか。そう、子どもなんて『よく寝よく食べよく遊び』してくれさえすれば、ちゃんと大きく素敵に育ってくれるもの。そう、みんなちゃんと確かに素敵に大きく育ってくれています。


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