園庭の石段からみた情景〜9月の書き下ろし1〜 2011.9.10
<はじめの一歩・再びの一歩>
 新学期がスタートしました。ばら・たんぽぽ組に新たに5名の新入児を迎え、また他の子ども達の夏休みにおけるパワー充電上乗せ分とあいまって、なんだか嬉しいにぎやかさの中でのリスタートとなりました。始業式・入園式は『晴れの日』。そんな慣習など知るはずもない子ども達ですが、なぜか初日のテンションは高いもの。久々の幼稚園ということもあってそんな不思議な雰囲気で始まった2学期でした。
 今学期の初めに自前の幼稚園バスが間に合い、2日から運用を開始しました。それに合わせて新しいバス利用者もぐんと増え、バスの中は連日大賑わいです。初日はなんだか不安そうな顔をしていた子や、「この子バス大丈夫かな?」とこちらが気遣うような子達も、数回乗っているうちに「全然へっちゃら、バス楽しい!」って顔を見せてくれるようになりました。「ついこの間までお母さんと離れられなかったこの子が」と思えば、なんだかうれしいやらおかしいやら。でも子ども達の成長ってこんな風に『ある時、ぐん!』ってものなのだと言うことを改めて教えてくれた幼稚園バスとこの子達でした。そう、何かに想いを支えられた時、子ども達は僕らの想像以上に頑張ることが出来るものなのです。その『何か』を日常の中から探して投げかけてあげること、それが僕らに出来る最大のそして最高のお仕事なのです。やらせて出来るようにしてあげる力は僕にはきっとないけれど、『やりたい、出来るようになりたい』と願えるきっかけを一緒に探し想いを育ててあげることは出来るから。子ども達一人一人の顔をじっと見つめながら、いつもそんなことを考えている僕なのです。だからぼーっとした顔をしていることも多いのですが。

 幼稚園が始まった最初の一週間、子ども達にとっては久しぶりの『最初の一巡』の日々となりました。これまでのんびりまったり過ごしてきたこの子達が、急に園生活のど真ん中に飛び込んできたのですからその生活リズムの変化に戸惑いを覚えた子ども達も多かったことでしょう。不安は脳みそで感じるもの、安心は経験することによって体得するもの。僕らでもそうですが新たな生活の中で『○○しなくちゃいけない』と言う想いは大きなプレッシャーに感じるものです。実際には『しなくちゃいけない』状況ではないことも自分でそう思い込んでしまうのが真面目な人と言うもの。『そう出来たらいいね』と言う理想を『出来なかったらダメ』と解釈してしまう不器用さが自分自身にプレッシャーをかけてしまうのです。一度そう思い込んだ子に対して「出来なくてもいいんだよ」と言葉を投げかけてもなかなか受け入れてもらえません。そんな時にはじっくりと、『やってみたらできちゃった』をもう一度体験によって思い出すのがいいでしょう。
 これまで難なく出来ていた事が、夏休みと言うインターバルによって連続性を途切れさせてしまったがゆえに、もう一度向き合おうとした新学期には脳みそから不安心理が発信されプレシャーを生み出します。この時完全に全てから逃避してしまうと出来るはずの事さえも出来なくなってしまうかも知れないので「途中でいいから自分の出来るところまでやってごらん」、「ここまででいいよ」と定量的にノルマを切って子ども達に投げかけを行っています。それはごくごく低いノルマ設定。でも『やってみたらそこまで難なく出来ちゃった』と言う体験が自信を生み、「もう少し先まで」と言う意欲を駆り立ててくれるのです。そのサイクルが出来上がれば、自分の想いでちょっとずつちょっとずつこの子達は先に歩いてゆけるはず。そうやって自分を取り戻してゆければいいのです。お母さん達にしてみれば「また一学期の最初に戻っちゃって」と心配されるかもしれませんが、一度ここまで歩いてきた道のりだから日常を取り戻せればきっときっと大丈夫。ゆったり受け止め抱きとめてあげてください。2学期の最初とは子ども達にとってそんな時期なのです。

 一方、新入りのたんぽぽさん達は今自分の居場所を探して幼稚園をあっちこっち遊び歩いています。うれしい時にはにこにこ笑い、ご機嫌な時にはあちらからぺらぺら話しかけてくれ、男の子とけんかしてはぷんぷん怒り、お姉ちゃん達の中に交じって砂場で砂遊びに興じたりしています。彼女達も新しい生活の中で頑張っているのです。午前保育のたった3時間の間ですが、子ども達にとっては初めての独立独歩の3時間。思う存分好きなだけ遊んで体力を使い、沢山のお友達の中に身を置いて緊張することもあるでしょう。でも気分が乗ればお姉さん達が楽しそうに踊るダンスを見ながら自分も一緒にくねくねやって嬉しそう。またたんぽぽになったばかりだというのにお友達のお世話を焼いてシール帳にシールを貼ってあげたりするところなど、「小さくても女の子だなぁ」と思わせるような微笑ましい光景を見せてくれています。自分もさっき泣いていたと言うのに人のお世話はしてあげたいんですね。それもこれも幼稚園と言うみんなの集団に中にいるからこそ体験できること。自分の想いを体現しながらたんぽぽさん達は幼稚園で頑張っています。だから「おうちに帰ればお昼寝ぐっすりです」なんて報告も聞こえてきます。それはとってもいい傾向。身体を一杯動かして、心に色んなものを感じ取り、ご飯を食べて一杯お昼寝出来たなら、それがこの子達の身体のそして心の体力をつけてゆくことになるのだから。幼稚園で頑張った分、おうちではちょっとお疲れ甘えんぼモードになっているかもしれませんが、「がんばってきたね」とこの子達のことを受け止めてあげてください。おうちでの心の充電を糧に、子ども達はまた幼稚園では少々の意地と見栄を張りながらがんばって見せてくれるでしょう。だから疲れた時には一緒に一休みしてあげてください。『がんばって・休んで』のらせん階段をゆっくりゆっくり上りながら、この子達は一歩一歩しっかりと大きくなって行ってくれることでしょう。


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