園庭の石段からみた情景〜9月の書き下ろし2〜 2011.9.14
<Sweat&Tears>
 夏の名残を惜しむように今週はまた空に入道雲が立ち昇り、子ども達の汗がまぶしく光るお天気続きの日々となりました。しかし湿度はそれほど高くもなく、木陰にたたずめば吹いてくる山風とあいまって涼しささえ感じさせる気候に「これが夏の終りなんだな」と感慨深さを感じます。その日その時の暑さ寒さに一喜一憂してしまう僕達ですが、この先やってくる冬と日土谷の寒さをこんな時にはふと思い出したりするものです。山の木々や雑草達が『自分達の生きている証』とばかりにこの幼稚園を覆い尽くしていた一面の緑との別れがもうすぐやってくることを思い起こせば、名残惜しくなってしまうのは僕だけではないでしょう。子ども時分、毎年日土で夏休みを過ごしていた僕にとって、日土と言えば幾つになっても『夏と自然と子どもの世界』なのです。だから日土の夏が大好き、自然が大好き、ここで汗を流しながら喜び遊ぶ子ども達が大好きです。僕がそうしてここで育ったようにこの子達にもそんな体験を一杯一杯経験して、心のタンクを一杯に満たして大きくなって行って欲しいと願っています。

 たんぽぽ組の通常保育が始まりました。入園式から十日程が経ちましたが朝の受け入れにはみんなそれぞれ想いがあるようで、自分の好きなところで心を満たしてから『たんぽぽ入り』しているのが面白いところです。新館でお姉ちゃんと過ごしてからやってくる子、お家でひと遊びしてから登園してくる子、お母さんとのお別れにひと泣きしてすっきりしてから遊び始める子などなど様々。でもみんながそれぞれ想いを満たして『その気』になってたんぽぽの部屋にやってきてくれているのでその姿をうれしく見つめています。『昨日は泣きの登園だったけど今日はご機嫌でたんぽぽに直行』やそのまた逆もあり、その日の気分なんて子ども達本人にも分からないもの。ならばその子の想いが満ちるまでじっと待ってあげたらいいとそう思うのです。そう、幼稚園が『楽しい場所・安心して過ごせる場所』だということを体験を通してゆっくり理解してくれたならそれでいい。全てはたんぽぽちゃん達の気分次第ですが今はこの子達の想いを大切に受け止めてあげたいと思っています。例年よりひと月も早く始まったたんぽぽ組の通常保育ですから、何も焦ることなどありません。じっくりゆっくり行きましょう。そう、エンジンがかかるまで心が湿っぽいのはこのお年頃の子ども達の共通傾向。でも一度エンジンがかかれば「あなた、さっき泣いてたんじゃなかったっけ?」と突っ込みたくなるほどのお調子モードで大はしゃぎして見せてくれるのもまたこの子達なのです。
 月曜日の合同礼拝が終わった後、たんぽぽさんを引き連れて僕らより先に部屋に戻った『ばら姉さん』達。一体誰が言い出したのか、机に椅子を並べてさっさとお弁当の準備を始めました。潤子先生は教室に戻った後に何かやるつもりがあったようなのですが部屋に戻ってみたらびっくり仰天。みんなお弁当を広げ、お昼の準備をして座っているではありませんか。さらに僕らを驚かせたのはたんぽぽさん達、お弁当を開けて早くもパクパクモグモグやってます。ばらさんは「おべんとうありますか?」の唱和から『お昼が来ました』の歌まで一連のお約束があることを知っているのでちゃんと待っていたのですが、たんぽぽさんは通常保育&お弁当の初日でそんなの知る訳ありません。「お弁当はみんなで『いただきます』ってしてから食べるんよ」と諭したのですがイマイチ納得いかない表情のたんぽぽちゃん。そんな彼女からふと目を移すとまた別の所のたんぽぽちゃんもモグモグやっていて「まってー」とこの子達のフライングを諌めに飛び回った初日のお弁当狂想曲でした。でも「これもこの子達の『やる気・その気』の表れなんだよね」とちょっとうれしい想いに満たされたものでした。「お弁当いやぁー」よりよっぽどいい、なかなか頼もしいたんぽぽ伝説の幕開けです。
 そんなマイウェイなたんぽぽさん達でしたが、でもちゃんと学習も出来るのがこの子達のすごいところ。次の日からは『いただきます』までお行儀よく待つことも覚えてくれてちゃんと座って待てるようにもなりました。これも周りに素敵なお手本となるお姉さんがいるおかげ。一方の男子諸君はパン給食の時に頭にお皿をのっけたり、ソーセージパンを頭に被って「ちょんまげー」なんてやってみたり(まだビニールに入っている状態ではありましたが)、「男ってやつは・・・」なんて思いながら叱りつつもついつい笑ってしまいました。こうしてみればこの子達、全くのイーブンもしくはたんぽぽ女子にアドバンテージって感じで良いクラスになりそうな予感がしています。たんぽぽさんが入ったことによって早くも『お姉さん意識』に目覚めてステップアップしてくれたばら女子、歳下の子を思いやると言うことをたんぽぽちゃんと一緒に生活する中で意識し始めたばら男子(なかなか『ジェントルマン』にはなれないのですがその想いだけは確実に育ちつつあるようです)。そして当のたんぽぽさんはばらさんの姿を見つめながらある時はお手本として、ある時は反面教師としながら幼稚園生活の約束事を学んでくれています。これは本当にうれしい関わり合い、子ども達のまぶしい化学反応だとうれしく見つめています。
 
 夏の名残の残暑の中で、今日も子ども達は鼻の頭に汗をいっぱいかきながら園庭を走り回っています。この子達の心も幼い日の僕同様、日土の夏がきっと一杯に満たしてくれるでしょう。涙を汗に、不安を笑顔に変えながら。涙と汗は心と体の新陳代謝。我慢やクーラーで抑え込むよりびしょびしょ流してすっきりさっぱりしてみれば、思いの外ずっと気持ちのいいものです。Sweat&Tears、流した汗と涙に代わって自分の想いが心を一杯に満たしてくれる、きっときっとそんなものです。


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