園庭の石段からみた情景〜園だより10月号より〜 2012.10.25
<運動会の置き土産>
 運動会に秋祭りと秋の大物行事も終わって、ちょっと一息ひと段落。冬に入る前の優しい陽射しと澄み渡った青空が心地よい山里の秋を、子ども達とゆったりのんびり過ごしている月の終りです。しかし『まったり気分』で過ごしているのは僕らだけなのかも知れません。運動会をやり遂げた子ども達、急に自信とやる気が沸いてきたようで(出来ることなら本番に間に合わせて欲しかったと言われてしまう子達もあるかもしれませんが)、運動会遊びにみんなして喜んで興じています。

 このところクラスの枠を超えて運動会ダンスをみんなで踊るのが大ブレイク。「すみれのダンスしたい!」「年下の男の子、踊りたい!」と次々そしていきなり出されるリクエストを受けて、僕がポケットから取り出すのは折りたたみ傘程の大きさの携帯用SDプレーヤー。USB端子で充電出来る電池いらずの優れものです。液晶表示が一切ないので頭出しは手探りスキップとなり運動会本番では使えませんが、外遊びに持ち出すには軽くてとてもいい機材。ホールやお外で子ども達に音楽を投げかけながら一緒に遊ぶ際に大活躍しています。
 ある雨の日、ホールで遊んでいた時のことです。最初はダンス遊びに満足していた子ども達でしたが、そのうち『運動会ごっこ』と言う新たなお楽しみを見つけ出した様子。音楽係の僕に「最初の礼拝からやって!」と言って来たのでした。プール監視委員のようにホールの檀上に陣取りながら、後ろの方で子ども達がやりたい放題し始めるのを見つけるとマイクで「そこ、危ないことしないように!」と声掛けをしていた僕。そのマイクに目をつけたすみれの女の子達が仲間を集め、『運動会ごっこ』らしきものを立ち上げたのでありました。「私は美和先生!」「私は恵先生!」、子ども達はそれぞれなりたい先生役を決めながら、その隊列の先頭に立って引率したりマイクを持って司会をしたり、先生になりきって『運動会』を進行してゆきます。「礼拝を始めます!」「讃美歌、ちからを歌いましょう」、次々流れてくる奏楽や讃美歌に応じながら司会者役の女の子がすまし顔で全体に声掛けをしていました。すっかり先生になりきってしまった彼女。「私もやりたい!」と伸びてくる手をかいくぐりマイクを放さず讃美歌を熱唱するその姿に思わず笑ってしまいました。お家ではよくよくしゃべる『おしゃべりさん』なのに幼稚園ではついこの間まではもじもじおっとりと微笑んでいた彼女。突如何のスイッチが入ったか、その大変身ぶりがおかしくもありうれしくもあり、ついつい笑いながら見つめておりました。
 『観察が趣味』と言われてしまうほどに、人や人のやることをよくよく見ているのが好きな彼女。その観察力がこの秋実を結び、大きな花を咲かせました。運動会のダンスだってどのクラスのモノでも誰より上手に踊って見せます。司会のセリフも完璧。さらに応援合戦の文句までも全クラス分ちゃんと言ってのけるのです。きっと僕なんかよりも流れもセリフも自分の中に入っているのでしょう。自分がそのことに『秀でている』と言う手ごたえを何かの瞬間にふっと感じた彼女。それまでは『みんなの後ろからついてくるような子』と言うイメージが強かったのですが、この運動会の季節を通じて掴んだ自信は彼女を大きく変えました。ばらさんを引き連れて「みんな、私の言うことをよく聞いて!」と指導するその姿は、何とも凛々しく堂々としたものです。やはり好きなものこそ上手なれ。これまで『インプット』ばかりだった彼女。自分の心が興味を示したものを自分の身体をもって体現する『アウトプット』を出せるようになったその結果、本当に自分の好きな事は何なのか、そしてそれが出来る自分の実力にも気がついたのでしょう。このことが彼女に大きな自信と喜びを与えてくれた、そんなうれしい成長だったと思うのです。

 その運動会遊びの中で変化と成長を見せてくれた子ども達が他にもたくさんありました。練習の時にはダンスや体操が嫌でやらなかった子達にも今頃マイブームが訪れています。ディズニー体操の中、『ドナルドのツイストジャンプ』が出来なくてやろうとしなかった男の子はきっと今週のことでしょう、見事にそのジャンプを習得してぴょんぴょん嬉しげに跳んで見せてくれています。またこれまでは「みんなとダンスはちょっと」と言う感じだった女の子もたんぽぽちゃんがリードするダンスチームのメンバーに加入し、たんぽぽダンスから始まってばら・もも・すみれまで全曲をご満悦に踊って遊んでいます。「えー、踊ってるじゃん」と思わず驚いてしまいましたが、このダンスへの興味とそれを楽しいと思える心の発露はきっとこれからのこの子の成長の大きな糧となってくれることでしょう。運動会は終わってしまいましたが『運動会』はただの『見世物』ではありません。子ども達の成長のきっかけとなる動機付けのカリキュラムであるべきもののはず。今までの自分には出来なかった事、自分がやったことのなかったことに挑戦してゆく場が運動会への道のりなのです。だから決して「遅かった」とは言わないであげてください。ここまでの取り組みとそのがんばった結果として、この子達は今こうして自分の未知なる領域へ一歩も二歩も踏み込むことが出来るようになったのですから。
 そんなこんな感じで運動会が終わった今頃、『運動会遊び』が更に熱を帯びてきたことを嬉しく感じています。練習には『ノルマ』もありますが、今は『自分のやりたい想い』だけがそのフィーバーの原動力。こんな風に子ども達の心に楽しかった想いが残ってくれたからこそ、この今と言う時に運動会遊びに夢中になれるのだと思うのです。『やらされるだけ』の運動会だったなら、本番が終わってしまえばこれ幸いと二度とそんな遊びをすることはないでしょう。そう言う意味において、今年の運動会は大成功だったのではないかと嬉しく思っている今日この頃です。


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