園庭の石段からみた情景〜園だより11月号より〜 2013.11.18
<回想・研究大会自然保育>
 おかげさまで私立幼稚園の研究会も大盛況の内に終わる事が出来まして、秋の終わりの季節を子ども達とゆったりとゆっくりと過ごしている今日この頃です。「他園の先生が来られるから」といつも以上に保育環境や教材・用具などの点検・整理整頓を考え見つめ直しながら準備をして来た半年間。動機は『見栄』だったり『担当園としてのノルマ』だったりと決して誇れたものではなかったのですが、これが自園の環境と自身の保育を見つめ直す良い機会となり、良い学びの時を与えられたように感じています。『日土幼稚園の保育とは』と改めて問われた時に、園児数も少なく近代的で全てに満たされた施設で保育が行われている訳でもなく、何をもって他園の先生方や保護者の皆さんに日土幼稚園の素晴らしさを謳い、「だから日土幼稚園に来て下さい」と訴えることが出来るのかと言う事を考えながら研究会までの日々の保育をイメージし歩んで来た毎日でした。当日本番が10月終わりでお得意の『虫捕り』や『色水遊び』などの自然遊びも時期を過ごし、「何もお見せするものなど無いのでは」と言う心配もありました。しかしその日そのとき限りのこれ見よがしなプレゼン用の『自然遊び』など出来なくても、日土幼稚園には神様が与えてくださる自然の恵みが一年中、その様相を様々に変えながら常にそこに存在しているという事を伝えることが出来たなら、それだけで良いのではないかと思ったのです。そしてそれを受け入れ自らのイメージとインスピレーションから遊びへと転じてゆく子ども達がここにこうしている限り、他では見ることの出来ない素敵な遊びがきっと展開されると信じながら、その時々に出来る遊びを子ども達と一緒に考えながら、それをめいっぱい楽しみながら春から夏の季節を過ごして来たのでした。
 毎朝、登園した後には子ども達とカエル君・サワガニ君のお世話をし、夏の虫が一杯いる頃には捕まえた後にも子ども達の生き物への興味と関心が発展してゆく様にと図鑑でその種を調べたり、絵に描いたり塗り絵をしたりしながらその特徴について観察・記録してみたり、そして切り紙で虫達の形をかたどりながら『ムシムシランド』と名付けた自身の昆虫のイメージや世界を表現する遊びを試みたりと、ただの虫捕りで終わらない様に子ども達に色々な投げかけや提案をしながら過ごして来たものでした。また元気に伸び過ぎて枝切りを余儀なくされてしまった園庭の桜の枝と、幼稚園で採れたどんぐりや青桐の実・胡桃の実を使って作った秋のオブジェ『まめまめランド』造りも子ども達の心にヒットしまして、いろんな子達がふっと僕の所にやってきては「まめまめランドやりたい!」とボンドを塗った桜の枝に木の実達を上手にくっつけて遊んでおりました。細い木の枝の上です、ボンドがあるとは言っても上手にバランスを取ってやらないと「たらーん」とまめまめは下に落ちてしまいます。特に大きく重い胡桃の実やどんぐりなどは難易度が高く、子ども達もあれやこれや頭を悩ませながらあっちにこっちに乗っかる場所を探しておりました。そのうち「木の又の所はなんか落ちにくい」とか、「二つ寄り沿わせながら乗っければ落っこちない」とか、自分達なりにノウハウや裏業を編み出しまして、木の実鈴なりの『まめまめランド』を幾つも幾つも完成させたものでした。

 さてそのようにしながら迎えた研究大会当日は、神様に守られお天気も上々の過ごしやすい暖かさの朝となりました。子ども達はいつもより早い登園のおかげで遊ぶ時間もたっぷりあります。僕は自分の朝の準備を終えた子ども達と一緒に『飛べ!ちょうちょ』や『ムシムシランド』を作りながら過ごしました。『飛べ!…』は広告紙のくるくる棒に紐と蝶の切り抜きをくっつけひらひら飛ばせながら遊ぶもの、『ムシムシ…』はサンドイッチの空きパックを虫かごに見たて昆虫の切り抜きを入れて遊ぶもの。子ども達はそれぞれ好き好きに切り抜きの昆虫に顔を描いたり模様色を塗ったりと、みんなの準備が終わるまでそんな遊びを一緒にしながら朝の時間を過ごしました。そんな僕の所に外遊びを待ちかねたばら組の子ども達がやってきました。「しんせんせい、おそといこうよ!」。こうして子ども達が朝の準備を終えたのを見計らい、満を持して外遊びに出かけて行ったのでした。
 外には早くも縄跳びや鉄棒で遊ぶ子ども達が繰り出して、その周りに人だかりを作っていました。そんな様子を横目にしながら歩く僕の所にばらばらとやって来ては「おやまに行こうよ!」と誘う子ども達に、「『行きたい人集合!網と籠を持って整列!』って言って来て」と伝えたなら、みんなわらわら集まり出しました。いつもの『ムシムシ君』を中心に十人程の子ども達が僕の元に集まり、胡桃の木の下から山を見上げていた先生方に「ご一緒しませんか」と声を掛けお誘いしながら、僕らはいつものお山に登って行ったのでありました。虫網を担いで意気揚々と山を上がる子ども達ですが、なるほど二週間前まではあれほど沢山飛んでいた蝶やバッタも数える程にしか姿を見せてくれません。でもそれならばと、先ずは井戸の上辺りで胡桃の果実を拾い集めます。子ども達も喜び勇んで「くるみ!くるみ!」とそこら一面に落ちている胡桃を拾いそれぞれ持っているバケツや虫かごに入れてゆきます。またそのあたりに群生していた草花をひとつふたつ摘みまして「はい、これアカマンマ。こっちは狐の尻尾みたいでしょ、キツネノマゴ」。前にも解説しながら草花を摘んで歩いたのを子ども達は覚えていたのでしょう。「これこれ、アカマンマ!」、「きつねのしっぽ僕にもちょうだい」、そんな素晴らしいコメントをご披露しながら、他所の先生達にも「ほら、アカマンマ」なんて得意げに見せびらかせたりもしてくれながら、無作為の山散歩を想いのままに素敵に演出してくれます。また柿の木の上に昨日見つけた鳥の巣を指差しながら、見知らぬ先生に「あれ鳥の巣!」とガイドを買って出てくれた男の子もありました。誰が演技指導したのであろうかと言わんばかりの子ども達の大活躍に支えられ、楽しい山歩きから帰って来た僕らでした。

 いくら公開保育の時間が短いと言っても、裏山に登って降りてだけでは他所の園外保育と変わりません。要項の中にも『自然物から遊びを創造してゆく』ことを保育指針として謳っており誰かが何かにつなげてくれないかと思っていたところ、すみれの男の子が『ブラックジュース造り』を提案して来ました。これも先日来の自由遊びの中から派生して来た新たな遊びだったのですが、胡桃の実を果実ごと水につけると胡桃のアクが溶け出して水を真っ黒に染めてしまうことを僕らは発見したのでした。ふるいでガラをこし、色水だけを上手に集めペットボトルに詰め込めば、コカコーラ並に黒いブラックジュースが出来あがります。これが色水遊びの主戦力・ヨウシュヤマゴボウが盛りを過ぎてしまった10月の終わりに突如現れた救世主となりました。『黒』に惹かれるのはやはり男の子なのでしょうか、そのブラックジュース造りが始まるとばらからすみれまでの男の子達がたらいの回りに集まって来て、ジュース造りに興じておりました。ペットボトルに3本も4本もブラックジュースを詰め込む子ども達、自然遊びが次につながった一場面でした。
 大賑わいのブラックジュース造りもしばらくすると「これ僕の!」、「僕が欲しいの!」でもめ出しました。最初から参画しジュースを作って遊んでいたすみれの男が「僕のジュース、ばらさんが盗った」と訴えて来たのです。「こんな大勢の先生達が見ている前でもめなくとも良いのに」とも思った僕でしたが、これまた要項に『いさかいの中にこそ関わり合いがあり、それが子ども達のつながり・学びへと昇華して行く』と書いたことを思い出し、すみれさんにひそひそ耳打ち。「ブラックジュースって作っている時が楽しいんでしょ。出来ちゃったらもうあげちゃっても良いんじゃない。次はこの胡桃をピカピカに磨いてまめまめランド造りやらない?」。その言葉で納得してくれたすみれさん。出来たブラックジュースを全て無条件にばらさんに譲渡して、たわしを握りながら次の遊びに参画してくれたのでした。ペットボトル4本分ものブラックジュースを全部譲ってもらったばらさんも満足気。あどけない笑顔で「ありがとう」と言いながら夢中でジュース遊びに勤しんでおりました。
 胡桃磨きを始めた男の子の周りに見学の先生達が集まってきます。「磨いたら、ほらこんなにピカピカになるんで」と自慢気に話す男の子。僕も果実のついた胡桃の実を先生達の前で割って見せて、「この中の種に当たる部分、これがいつも見る胡桃なんですよ」と説明したなら「へー」とどよめきが起こる見学者ご一行様。親子の行商実演販売の様に、日土幼稚園の自然遊びをプレゼンさせてもらった僕らでした。
 磨き上げた胡桃を丸井戸の上に干すかたわら、僕は園舎から作りかけの『まめまめランド』とまめまめである青桐や数珠玉・どんぐりとゴム系ボンドを持ち出して、またまた次の遊びである『まめまめランド造り』を始めたのでありました。いつもの様に桜の枝にボンドをそっと乗せてやれば「やりたい!やりた!」と小まめをつかんだ子ども達の手が伸びて来ます。これがまた先程のメンバーとは違うばら組の女の子達で、どこから見ていたのか始まったばかりの『まめまめランド』に参画して来て違った賑わいを見せてくれます。上手にバランスを取りながら、大きな胡桃やどんぐりなども乗せる場所を見定めながらそーっと乗っけてゆきまして、『まめまめランド造り』をお披露目してくれたのでした。またそこに居合せたムシムシ大好き君が「これにカマキリを乗っけようよ!」と言い出しまして、「それじゃあ」とはさみと折り紙を取りに戻った僕。今度は切り紙の実演販売が始まりました。いつものごとくムシムシを切り上げて「欲しい人?」と尋ねれば「はい!はい!」と飛ぶように売れてゆく切り紙達。すぐさまそれで遊び始める子、『まめまめランド』の枝にくっつける子、自分の掌にしっかりしっかり握り締めている子と様々ですが、そんな様子を楽しそうに眺めていた先生達。カマキリ・カブト・クワガタ・ちょうちょに最新作のカミキリ虫まで、切り上がるたびにお客さんを沸かせてくれた僕らのムシムシ遊びでした。子ども達の想いのままの言葉から次へ次へと流れる様につながってくれた僕らの自然自由遊びでしたが、そこでちょうどタイムアップのおかたづけ。満足気に外遊びを切り上げてクラスの時間へと戻って行った子ども達でした。

 そんな風に繰り広げられた公開保育・僕らの自然自由遊びでしたが、先にご報告させていただいたように、他園の先生方からも大好評で研究協議の時には身に余るお褒めの言葉をいただきました。自分達の保育を見つめ直す時を与えられ、他園の先生方にも『日土幼稚園の自然保育』を紹介・提案させていただき、内容の濃い学びの時となりました。そして当の子ども達はと言えば、今でも山散歩に繰り出すたびに「あっ!アカマンマがいっぱい!」とか「キツネノマゴ咲いてるね」。ひとたび覚えた草花の名前がうれしくてうれしくて、それを使ってみたくて言ってみたくて仕方がない様子。でもそれこそがこの子達の学びなのです。教科書や図鑑に載っている知識や名前を片っ端から覚えたところで、目の前の赤々と花をつけているアカマンマや、狐のしっぽを思わせるような丸みを帯びたキツネノマゴに気付きも感動もしないような子どもを育ててみたって、それが一体に何になるのでしょう。この感動こそが新たなる興味・価値観・文化・そして文明を開拓してゆく源となるのです。おかげさまで今回のことで少々腕の上がった僕の虫スケッチや切り絵達は、更にエスカレートしてゆく子ども達の要求に応えるべく、日夜努力と進歩を続けているところ。そんな僕の絵や切り絵を真似て自分で虫の絵や切り絵を描き作って来てくれる子も増殖中。共に学び進化を続けている教師と園児のうれしい素敵な関わり合いは今もなお続き、そしてきっとこれからもこのような関わりをもって僕ら教師は日土幼稚園の保育を、素敵で自由な自然保育を力強く守ってゆくことでしょう。


戻る