園庭の石段からみた情景〜園だより2月号より〜 2015.1.31
<僕らの砂場狂想曲>
 一年で一番寒いと言われる『大寒』の頃となりました。今年もまたこの頃に小春日和のお天気を与えられ、子ども達と外に飛び出し元気に遊びまわっている今日この頃です。気温は最高でも10℃程と決して暖かではない気候の中で、春を予感させる穏やかな陽射しに誘われ外で体を動かせば、すぐに心も体も温かく火照ってくるのを感じます。逆に同じ気温でも雨が降って外で遊べないそんな日は、余計に寒さが身に沁みるもの。人の手を遣わずとも色んなことが出来るようになったこの時代、でも自分の体を動かし十分使いこなしてやることによって、余計な物を買わずに済んだり身体能力やスキルが高まったり、この歳になっても自分にとってうれしいプラスアルファがもたらされることを実感しています。でもこれも目の前に子ども達がいるからこそ。子ども達に「こんなの出来る?」「こんな風にやってみれば」と投げかけ彼らの知恵や体力の向上を願うからこそ、自分自身も新たなアイディアやミッションに取り組み、彼らに指針を示せる存在たろうとするのでしょう。そのおかげで久しく進歩の見られなかった自分の不得意分野の能力もこの子達と一緒に成長出来るのですから、『子育て』とは本当は大人のためにあるものなのかもしれません。

 三学期になりまして自分のやりたい想いとイメージを、具現化しようと色々なことをやり始めたすみれ組の男の子達。製作や工作・創造遊びなんかを苦手で通してきた子もあったのですが、この一年で『作る楽しさ・考える喜び』の味わい方を自分達の遊びの中で一杯に学んで来たようです。今回はそれが大きな大きなプロジェクトを彼らに思いつかせたのでありました。「マリオカートみたいなコースを砂場に作りたい。どうしたらいい?」とおもむろに相談してきた男の子。「ゴールも作りたいし・・・」と彼の中でコースを俯瞰で眺めた絵がおぼろげにイメージ出来てる様子。もう一つ彼の中には「水を流してそこを川のようにしてみたい」と言うアイディアもあったのですが、やってみると途中で水が途切れてしまいただの水たまりのようになってしまいます。『水を使って』とのことだったのでまずは物理学のレクチャーから始めた僕。「水は高い方から低い方へと流れるんだよ。まずは山作りからだね」。川を作りたいのに山を作れと言う僕の言葉に『???』の男の子。でも彼のいい所はその言葉を素直に信じて自分の体を動かし始めたところです。「この高い所に水を流すスタートを作って、後はゴールに向って徐々に低く掘ってゆくんだ」。きっと僕の言っている意味も理屈も分かっていないであろう男の子でしたが、周りのちびっこや仲間達にあれやこれや指示の声をかけながら、現場監督をやりながら自分の体を動かし一生懸命働きながら、砂場一杯に大きな大きな水路を切り開いたのでありました。『スタート山』の頂上からバケツに汲んだ水を流し、水が堰き止った所でなだらかに土砂を掘り下げて、下流へ下流へと水をつないでゆきました。ゴール地点には大きな湾もこさえまして、見事な水路が完成しました。そこにみんながおもちゃの船を持ち込んで、上流から水と一緒に流します。流れの高低差を考えながら設計・施工されたこの水路、ちゃんと下流まで船を運んでくれまして、『ゴール湾』には航海を終えた船達がたたずむ素敵な舟だまりが出来たのでありました。満足そうなその男の子、自分達の運河を見つめうれしそうな顔をしておりました。
 そんなロマン溢れたドラマがあった一方、また違ったキャラを発揮してくれる別の男の子がありました。「こんな大工事は人手をかけた方が、一気に楽にちゃちゃっと出来るに違いない」。そう考えた彼の作戦は『バイト募集・人海戦術大作戦』。はるか園庭の遠くまで足を運びながら「アルバイトやる人いませんか?時給千円出しますよー」、そこいらのばらやももの子ども達に手当たり次第声をかけています。「だれもやる人、いないんだよなー」とケレンミたっぷりの人事部長のように嘆きながら辺りをうろうろさまよっている彼。それにしても『バイト』だとか『時給千円』などと妙にリアリティーのある設定を良く良く知っているものだ、と変に感心して彼のパフォーマンスに聞き入ってしまいました。そう言う『なんだかなぁー』ってキャラクター、彼のお気に入りの様だったのですが、だらだらやっていたところを現場監督に見つかっちゃってお小言をいただいておりました。『俺の後について来い!』ってタイプの『熱血現場監督君』にしてみれば、「うじゃうじゃ言ってる間にシャベルのひと掘りでもやってくれよ!」って想いだったのでしょう。勧誘成績も上がらぬままに「とほほ」と現場に連れ戻された『人事部長君』なのでありました。
 またもう一人の男の子、彼は出来た運河をまたいで跳んで、土手をあちこち壊しまわって、手伝ってるんだかみんなのじゃまをしているんだか。それなのに他の子の肩書きがまばゆく感じられたのか、おもむろに言い出した「僕は社長!」。誰に推薦されるでもなく自薦で決めてご機嫌顔。『現場監督君』がぼそっとつぶやいた言葉、「社長って自分から働かないとだめよなぁ」に思わず笑ってしまいました。自分がプロジェクトリーダーだったならまた取り組み方も違ったのでしょうが、『みんなに合わせてフォローアップ』は彼の苦手なポジショニング。発想とアイディアに関しては誰にも負けない『社長君』、最近でもあちらこちらでいい仕事をして僕らを驚かせてくれているのですが、「今回は間が悪かった。また次回、何か閃いた時にはみんなの先頭に立ってがんばってね、社長!」と心の中でささやきかけたものでした。

 そんなこんなのこの子達、それぞれ自分の想いを遊びの中に大真面目に展開しながら自己実現させようとがんばってます。端から見たならゆかいなパフォーマンスなのでありますが、それも彼らが自我を確立してゆく上での大事な大事なシミュレーション。そのやる気を評価しつつ、温かく見守っていたいと思った僕なのでした。


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