園庭の石段からみた情景〜園だより2月号より〜 2015.2.10
<僕らの砂場狂想曲U>
 今年の冬は立春を過ぎてからこの冬一番の寒さを感じさせるような寒気が訪れまして、園庭の水たまりにも薄氷を残してゆきました。子ども達はそれをすくい、スコップでコンコンやって割りながら「かき氷!」とうれしそうに遊んでいます。自らの手を凍えさせながら砂場のざるの上に集めた『かき氷』が、ちょっと目を離したその隙に水となって消えてしまい、実に残念そうな切なそうな顔をしていた子ども達でありました。そう、「寒い寒い!」と言ってはみても薄氷がすぐに溶けてしまうほどの陽気なんて、昔ならばもう『春』と呼ぶに十分なものだったのかもしれません。そう、幼稚園の裏でも梅の花もほころび始めました。春と冬の行ったり来たりを子ども達と見つめながら、本当の春の訪れを待ちわびている今日この頃です。

 前回の『砂場遊びレポート』の中ではいい所を発揮することの出来なかった『社長君』。砂場遊びの主役になれずにイジケ顔をしていた彼に向ってある時「社長、何か面白いアイディアない?」とそっと囁いてみました。「面白いことを考えてみんなに『どう?』って言うのも社長の仕事なんじゃない?」と言う提案にすぐにピンと来た『社長君』。すぐに「ここに日土を作ろう!」と言い出しました。探検ごっこが大好きで、地図を描いて来ては幼稚園中を巡り歩いてるこの男の子。今時のロールプレイングゲーム文化の恩恵か、こういう俯瞰で全体を見渡す視野にはよくよく長けているようです。みんなが作った川や山を見つめながら思いついたのは、『3D日土マップ』を砂場に作っちゃおうと言うプロジェクトでありました。それに乗っかってきたのはこれまたアイディアマンのもも男子。「出石寺を作ろう!」とか「鹿島神社を作ろう」とか好き勝手の言いたい放題。教会幼稚園の砂場にお寺や神社を作ることも出来ないのでちょっとドギマギしながら「『いずしやま』にしといたら」と日土で一番高い『山』を提案することでなんとか方向修正をかけた僕でありました。
 自分で言い出せばやっぱりやる気になれるのが人間と言うもの。『社長君』が張り切り出したのを受けて、今取り組んでいる劇に出てくる『木の家・わらの家・レンガの家』をイメージしながら「おうちも作ったらいいんじゃない」なんて彼の耳元でつぶやいた僕。早速みんなを誘ってお山へ材料調達に繰り出して行きました。お山で木の枝・平たい石・落ちているみかん・菜の花の株なんかを拾ってきた僕らは、そこから日土の山作りを始めます。「ここはみかん畑」と言って木の枝とみかんの実でみかん畑を作り、「ここはお花畑」と言って菜の花の株をいくつも砂に埋めてゆきます。やっぱりそんなきれいなイロドリが素敵にその目を引いたのか、すみれの女の子達も集って来まして、それぞれ『みかん山』『お花畑』作りに参画しておりました。瓦のかけらで石の家を作る子ども、去年収穫したお米の『ひこばえ』から稲わらを抜いてわらのおうちを作る子達、そして木の枝を放射状に配置しながら竪穴式住居のような木の家なんかを作る子と、それぞれ「ここ幼稚園」「これが病院」と自分のお気に入りの家作りに興じておりました。初めは「どうしたものか?」と言う顔をする子ども達にちょっとのヒントと『こんな感じ』の最初のお手並みを指し示してあげれば、そこからこの子達の創意と工夫が広がってゆきます。お花畑に看板をつけたいと言う女の子、板材の切れ端を拾ってきて「字を書きたい」と言うので落ちていた燃えさしの墨を渡し「これで書いたら」と僕がアドバイスしたならば、そこに上手に板描きの看板を書いて立てておりました。石で作った『レンガの家』の中に「宝物!」と言って大きな貝がらを隠して嬉しそうに屋根を開け閉めしている子もありました。一人の『社長君』のアイディアから始まった『日土を作ろう!プロジェクト』でありましたが、みんなの想いとアイディアが実を結び、とっても素敵な日土のジオラマが出来上がったのでありました。
 ひとたび時流を掴んだ『社長君』の発想力はみんなの心にまばゆく輝きを放ったようで、今度は「ここに水の流れる所を作ったら、お花畑に自動でお水をあげられるね」なんて言い出しました。それならばと『いずしやま』の山頂から一本水路を切るために、お花畑に向ってゆく砂の上に青図を引いて見せた僕。「ここを掘ってこっちにつなげれば水が流れてゆくんじゃない?」とラインを示して見せたなら一斉にそこを掘り出した子ども達。でもでもただの穴掘りでは水は下流へとは流れて行きません。水をたびたび流しつつなだらかな高低差を保ちながら、また水でトロトロになった泥をセメントのように使って護岸工事も行いながら、新たな水路をみんなで切って行ったのでありました。そして最後に頂上からバケツ一杯のお水を流し込めば、水田のようにお花畑を潤しながら最下流の水だまりまで美しい軌跡を描きながら流れて行ったお水達。それを見届け歓声を上げていた『日土を作ろうプロジェクト』の面々なのでありました。

 こうして『なんにもしない社長』の汚名をそそぎ、みんなの中で自分の個性を十分に輝かせることの出来た『社長君』。自分のアイディアを具現化することによって周りの仲間達を納得させることが出来ると言うことを、学んでくれたのではないでしょうか。『気まぐれ・言うだけ』のやりっぱなしではきっと誰も理解・賛同はしてくれません。「こんな素敵なことが出来るんだよ」と裏付けを示すことで自分の想いもみんなの想いも素敵に現実のものへと昇華してゆけるのです。そのためにまずは一杯お勉強。『どうしたら出来るのか』、その結果を導き出すために僕らに必要なものは知識と根気と探究心。『その気』の次にはそんなもの達を追い求めながら、自己実現のために精進して行って欲しいと思うのです。子どもの遊びや僕らの趣味の探求なんて、正にそのことを学ぶための尊いテキストであるのだから。


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