園庭の石段からみた情景〜園だより4月号より〜 2015.4.17
<春の息吹に包まれて>
 今年の春は不順な気候が続きまして、急に初夏の暑さが桜の花を満開に咲き開かせて行ったかと思っていたら、今度はカウンターの寒気の訪れで雨・風・寒さの『冬モード』に逆戻り。桜の花をあっという間に散らしちらかして去って行ってしまいました。その後も雨降り続きの毎日で、僕らもなかなかに『春』のリズムをつかめぬまま新学期がスタートしてしまったのでありました。雨が降ったり止んで晴れ間が差し込んで来たり、おまけに午前保育で朝の礼拝前のこの時にしか自由遊びの時間がないと言うこんなような状況下では、子ども達にとりましても『春』のお外遊びを心ゆくまで謳歌出来るシチュエーションにはなかなかなってくれません。そんなジレンマが子ども達の心のリズムもちょっと狂わせているのでしょう。例年以上に登園の朝は「ワンワン!えーんえーん!」の大合唱が幼稚園を賑わせてくれています。それでもいつもならそんな子達の手を引きながら、朝から『お山のお散歩』に繰り出して気分転換を図りつつ、ニコニコ笑顔で戻ってくると言うのが日土幼稚園の専売特許・春の素敵な風物詩であったのですが、その手が使えない今年は朝からあちらこちらで大苦戦。先生達がみんな誰か一人ずつ誰かを抱きかかえているような、そんな様相を呈しています。
 新入園のこの子達、知識や情報を幼い頃から沢山沢山取り込んで『賢さ一杯・お口の方はたいそう達者』な子ども達なのですが、それを生かすすべや心の拠り所を持たずにここまで来たのでしょう。新たな環境や状況と言うものに多大な拒否反応を示しつつ、自分の心をなんとか守ろうとしているようです。でもその新たな環境や状況が自分の興味と好奇心をくすぐりながら、自らの想いを満たしてくれるものであると言うことを感じることが出来たその瞬間、そんな苦悩からきっとぱーっと解き放たれてゆくはずです。それが『経験』と言うものの力であり、それが自分の知識や情報を生きた『知恵』へと昇華してゆくのです。そしてその結果としての成功体験が自分の『自信』と言うものを生み出して、更に先へ先へと自らの足で歩いてゆこうとする力を育んでくれることにもなるのです。また信じる力は不安な想いを乗り越えてゆく勇気を僕らに与えてくれます。「いつも守っていてください」と神様にお祈りしながら『大丈夫、きっと大丈夫』と自分を励まし自分自身を見つめ向き合うことが出来たなら、次の一歩を力強く踏み出す勇気も湧いて来ます。そんな教会幼稚園のキリスト教保育の中で、この子達には心も体も健やかに伸びて行って欲しいと思うのです。保護者のみなさんにはこの一年間、子ども達をどうぞ温かく見守り励ましてあげながら、私達と一緒に歩んで行っていただきたいと、そんな風に願っています。本年度もどうぞよろしくお願いいたします。

 そんな『どんよりモード』の毎日が数日続いた後のある日、やっと晴れ上がった素敵な朝が僕らに訪れたのでありました。登園時はまた『わちゃわちゃわちゃ』がそれなりにあるようなのですが、朝の支度を終わらせてお外に飛び出した子ども達と顔を合わせればみんなご機嫌。みんなそれぞれに自分の好きな遊びに夢中になっておりました。ある子は先生と寄り添いしゃがみこんでダンゴムシ集めに興じていましたし、ある子はお姉ちゃんの横に座り込みベテランさんのような顔をしながら黙々と砂場の砂遊びをしています。そしてまたある子は早速にもも・すみれのお友達と一緒に園庭探検・例の草引き遊びにはまってしまって、「これネギ!」「これはほうれんそう!」、カタバミの三つ葉をつまみながら「これはカイワレダイコン、ちょっと辛いけど」なんて投げかけに大喜び。「これ洗えば食べられるかな?」と言葉を返して来たのであわてて、「お店で売ってるカイワレは食べれるけど、これはだめじゃない?」とフォローアップ。「でも洗えば・・・」としきりに残念そうに繰り返す男の子をまぶしく見つめていたものでした。

 食材についてもよくよく知っているこの子達。でもその情報源はきれいに並べられたスーパーだったり、種別に整理・編集された絵本の中の写真だったり。だからこそ目の前のこれが『何であるのか』と言う学びをこの幼稚園で一杯して欲しいと思うのです。春の幼稚園には細いたけのこ・『破竹』があっちにこっちに生え出して来たり、さくらんぼの木が枝一杯たわわに赤く熟した甘味なその実をつけてくれたり、フキも採っても採っても次から次から生えいずる、そんな素敵なお山がありまして子ども達が遊びに来るのを待っています。そんな自然からの素敵な贈り物を自分のその手で収穫したり、旬のものの『採れたて』をその場でぱくっと食べてみたり、そんな体験と感動がこの子達の心をきっと潤し満たしてくれることでしょう。またフキやたけのこを持って帰り、「お料理して」なんてお母さんにおねだりすることもあるかもしれません。これまたあれこれ調べながら見事に食卓に登らせたなら、親子で嬉しい時を味わうことも出来るでしょう。子どもの興味・好奇心から始まった教材で大人も子どもも共に学び『知識』を『知恵』に昇華できたなら、こんな素敵なことはありません。ある一日の『目の前のこれ』にこんなにも興味を示し感動を表現してくれたこの子達、神様から豊かに与えられたこんなに豊かな自然の中でこの幼い時分にこんな体験を一杯一杯してくれたなら、きっと大人になってもその心に残り続ける素敵な想いを育てて行ってくれると思うのです。その中で『豊かに与えられていることに感謝する想い』『自然を大切にし、自然と寄り添いながら生きる心』を感じ育てながら大きくなって行って欲しいと思うのです。そんな素質に満ち満ちた目の前の子ども達に大いなる可能性を感じながら、やっと暖かくなった陽射しを嬉しく背中に浴びながら、この子達と過ごしている今日この頃です。


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