園庭の石段からみた情景〜園だより7月号より〜 2015.7.6
<思い出のタイムカプセル>
 今年は雨降りの日が多いせいでありましょうか、初夏と言うにはなんだか涼やかな日々の中、子ども達と『梅雨らしい梅雨』を過ごしている今日この頃です。雨が降っては部屋の中に退散し、雨が上がってはまたお外に飛び出し自然散策に勤しんでいる子ども達。この間は幼稚園の下を流れる農業用水路の『いでご』におたまじゃくしを見つけまして、持っていた飼育ケースの蓋を網代わりに20匹ほどのおたま君達をすくい上げ幼稚園に持って帰って参りました。幼稚園でもおたまじゃくしなぞ見かけなくなって久しいのですが、こんな身近で発見出来たことを彼ら以上に大喜びしてしまった僕。僕らの子どもの頃には自分の生活圏にあんなにも当たり前のように存在していたおたまじゃくし。夏になればどこかしらで捕まえ取って来て、毎年飼育ケースで育てていたものでした。身の回りからどんどん自然が消えてゆきそれらのものを見かける環境が徐々に失われて行ったせいか、はたまた成長してゆくその過程で僕の興味が他のものに移ってしまったせいなのか、大人になってからはまず見かけることも関わることもなくなってしまったおたまじゃくしですが、久方ぶりに自然の中に彼らの姿を見つけた時に感じたセンチメンタルとノスタルジーは僕を幼い頃の素敵な思い出へといざなってくれたのでありました。でもそれは遠い過去である『幼き日々』にそんなもの達と関わり触れ合いながら遊んだ大切な記憶があるからこそ。きっとこの子達もこの思い出をいつか愛しく思い出しながら、この豊かな自然にいだかれ過ごした日土幼稚園での『幼き日々』を懐かしんでくれるのではないでしょうか。そしてそれが小さなもの達への思いやりや、自然を愛する原初の『無垢な心』と言うものを、大人になったこの子達にもう一度思い出させてくれる『心のタイムカプセル』になってくれると、僕は信じているのです。

 そんな梅雨の季節、僕らの遊びの主流となっているのは製作遊びとそれをアイテムに転用してのごっこ遊び。先月のひよこクラブのために作った巨大恐竜達、そのまま『ダンボールゴミ行き』にするには偲びないので、小口にちょんちょん切り刻み頭やしっぽを切り出して、ひもをつけ子どもの腰に巻いてやれば『コスプレ恐竜』の出来上がり。子ども達はそれを身につけ「ガオー!うぉー!」と恐竜になりきって遊んでいます。でも頭やしっぽはその数のみしかありませんで、後からやってきて「ほしい!」と言う子ども達には恐竜の『切り身冊』しか残っていません。僕もどうしたものかと困ってしまいました。そこで苦し紛れにそれを更に細く切り出しまして、輪にして子どもの肩に『たすき』にかけつつ「仮面ライダードライブ!みたいでしょ・・・」。その言葉にニコッと目を輝かせた子ども達。僕的にはあまりカッコイイとは思えない『タイヤをたすき掛けにしたコスチューム』の仮面ライダードライブなのでありますが、子ども達からしてみれば『現役ライダー』はやはり一番の人気の的なのでしょう。『たすき掛け』以外あまり似ているところもない『仮面ライダードライブコスプレ』なのでありましたがこれが売れに売れちゃいまして、たたみ二畳分もあった巨大恐竜が切り身にされて完売してしまったのでありました。
 「やはり仮面ライダーは偉大だ」と思いながらも、この説得力のない製作を持って帰ってお母さんがどう思うだろうと、ちょっと引け目を感じたこの大売出し。お母さん達には顔を合わせるその度に「今度のダンボールゴミで出してくださいね」とこっそりお願いしているのですが、「おもちゃを買わずにすむからいいんです」とおっしゃってくださったお母さんがありました。なるほどその言葉のおかげさまで、「これでいいなら高い値段で売っている『ライダーベルト』なんて要らないんじゃない」なんて改めて思ってみたりもしたのでした。そして更に考察は深まって、子ども達と一緒にする製作遊びのその中で『自分の願いをその場で具現化して見せてくれる』と言うそのことこそが、きっとその喜びの重要な重みを占めるものとなるのかもしれないと思い至ったのでありました。あれこれ買い与えてはすぐ飽きて、要らないおもちゃがごっちゃりとたまってしまうより、その出来るまでの過程を子ども達と楽しんで、要らなくなったり壊れてしまったりしたならばダンボールゴミに一緒に出しつつ「楽しかったね。また作って遊ぼうね」と語りかけることが出来たなら、そっちの方がどんなに素敵な教育・そして親子の関わり合いであると言えるでしょう。自らの手と頭を使って創造することの楽しさを学び、『自分がどうしたいのか』を言葉で伝える『言語コミュニケーション力』をも磨き、物理法則や道具の扱い方のノウハウを実践の中で体得し、使い残したゴミの処分や遊び終わった後のダンボールの処理などにおいて分別や再利用などのエコロジーやリサイクルの概念を学ぶ。たかが『子ども達との製作遊び』なのですが、こんなにも色々と『学ぶこと・教えるべきこと』があるこの遊びとそこから生まれる製作物達はそのための格好の教材だと言えるのではないでしょうか。
 こんな遊びを積み重ねてきたその中で、「できん!できん!」だったこの子達が確かに自らの意思と技術と知恵をもって自分の具現化したいと願う創造物を作り出すことを、楽しめるようになってきたと感じています。これまで塗り絵や切り絵遊び止まりだったこの子達が、「○○が作りたい!」「これをこうしたら?」と一つ上の次元で自分達の製作遊びを創作遊びへと進化させているのです。長い夏休みを前に、「子どもに色々手がかかって憂鬱」と感じられているお母さんもあるかも知れませんが、こんな季節こそこの子達とじっくり向き合いながら『わが子観察』や『わが子研究』を大いに楽しんでみてください。それを日記・写真やブログなんかに残すことが出来たなら、それは立派なこの夏のお母さんと子ども達の成長記。これまたきっと素敵な思い出が詰め込まれたタイムカプセルとなってくれることでしょう。


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