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<思い出はご褒美プレゼント> 今年の冬は去年の帳尻合わせのつもりなのか、これぞ『暖冬』と呼ぶにふさわしい暖かさ。幼稚園では門前の川津桜が例年より3〜4週間も早く咲き始め、嬉しい春の到来をそっと僕らに告げ知らせています。この川津桜、平成17年度の卒園生が残した卒園記念樹で、冬の寒さに耐え忍んでいるこの季節の僕らに春への希望を思い出させてくれる、そんな花を毎年つけて見せてくれています。『取材』と言うことで卒園記念樹の植樹にずっと付き合って来た僕。それぞれの記念樹を見てもそのむこうに懐かしい卒園生の顔を思い出すから、季節季節のその情景にこんな想いとまなざしを向けたくなるのでしょう。今では二十歳前後にもなるであろうあの子達を6歳当時の幼顔で思い出すのですから、彼らにとっては失礼極まりない話なのですが。でも「すぐにおなかが痛くなっちゃって、僕の膝にちょこんと座りおなかに手を当て温めながら『だいじょうぶだよ』と言いつつ一緒に過ごした女の子。どうしてるかな?」などと言う懐かしい記憶があの子達一人一人に残っているからこそ、園庭に植えられた記念樹達は僕にとって特別な存在として、いつまでも生き生きと芽を出し葉を広げ花を咲かせているように感じることが出来るのかも知れません。 さて、そんなセンチな思い出から現実へ想いとまなざしとを戻してみると、今しがた花をほころばせ始めた子ども達の瞳の輝きに気が付かされます。一月に入って目白押しだった行事や音楽発表会の準備に向けてお片付けの時間が早くなったのでありますが、お天気にも恵まれて短いながらも毎日お外で自由に遊べたそのことがこの子達の想いを上げてくれたのでありましょう。朝も早々と登園しそれぞれの準備もちゃっちゃとやり終えて、外遊びに飛び出す子ども達。去年の秋頃は自分の生活ルーティーンもまだまだつかめずに、朝のお片付けに膨大な時間を費やしていたこの子達の姿からは想像し得ない、そんな進化・覚醒ぶりに驚かされるばかりです。そしてまたそれぞれがそれぞれの想いを持って遊びに取り組んでいる姿がとても印象的。飛び出して来るなり仲間を集い『ハンターごっこ』を始める一団があるかと思えば、きれいに直してもらったジャングルジムの中に潜り込んで砂遊びを始める女の子達。また寒くなってからはめったに獲れなくなったサワガニを求め、『あの栄光をもう一度』と言わんばかりに毎日マンホールを覗き込んで「蓋をあけて!」とおねだりして来る男の子達。蓋を開けた途端、何本もの腕が底へと延びてたちまち水を濁らせて「とれなかった!」と残念がるのでありました(カニ、元々いないんですけど…)。かと思えばサッカー対決を申し出て、僕と『大人対子ども』の勝負に挑んで来る子ども達。これまでは大きなクラスの子達が多かったのでありますが、最近はばらの女の子までもやって来て「いーれーて」とサッカーフィーバーに馳せ参じています。もっともその子は「私は新先生チーム」と強い方に入るしたたかさの持ち主で、みんなの暗黙の同意を取り付けるその力量と押しの強さは「さすが女の子」と思わず笑ってしまいます。年中男児がそれをしたなら「子どもはみんなこっちチームで!」とみんなから言われてしまう所を何も言わせないオーラが彼女にはあり、またそれを受け入れられる優しさを男の子達は持っている言うことなのでしょう。彼らは「ばらの女の子一人くらい」と思っているのかも知れませんが、なかなかどうしてその彼女。前線で僕が抜かれてゴールまで相手がフリーになった時にもその前に立ちはだかって、男子のシュートを阻止することもしばしば。『大人対子ども』と言いながら『1対多数』の構図は僕にとってもなかなか厳しい条件なのですが、そこで助っ人として大活躍してくれている彼女なのでありました。 そんな外遊びの最後に今学期からマラソンが取り入れられまして、お片付けと同時に集合のBGM(ハム太郎)・そしてそれに続いてマラソンタイムの音楽(ミッキーマウス・マーチ)が流れ始めます。集合のBGMの間にお片付けを終え、ジャンバーを脱いでスタートラインに並ぶ子ども達。僕らが口で「あれして」「これして」言うよりもよほど自発的にお片付けに取り組んでくれるその上に、更に音楽だと残り時間の配分も分かるのでしょうか、終盤に差し掛かると子ども達の動きもスピードアップしてちゃんとマラソンスタートの音楽が始まる頃にはすべての準備を終えて先生の号令を待ち望むそんな姿を見せてくれています。そして本題のマラソンの方でもみんな一生懸命園庭を走り、こけたりぶつかったりして時々泣く子もありながら、でもそこから先生や友達から差し伸べられた手を握り再び走り出すのでありました。走り終えた子ども達が口々に何周を走ったと競い合うのですが、「23週!」とあまりに適当なことを言うので笑ってしまいます。去年の体育会系がそろったすみれさんでも最高14週と言うのが園としての公式記録。それを破れそうな子達も何人かいるのですが、この冬が終わるまでにもっと走りの実力をつけてから、彼らには本当の記録更新に挑戦してもらいたと思っています。 こんな具合に元気に外遊びを堪能している子ども達。最後のマラソンが体力的にも想いの面でも、「やりきった!」と言う満足感を満たしてくれるのでしょうか。マラソン後に「遊び時間が短かった!」と言って来る子達はあまり見かけません。そしてその後のクラス活動も、高まったテンションとここで分泌されたアドレナリンによって意欲的に行われているみたい。そんなこの子達の輝きを見つめながら、一人一人との愉快な関わりの数々を噛みしめながら、その情景を思い出へと昇華させている僕なのですが、またいつかひょんな拍子に彼らの『物語』を思い出すことでしょう。神様から・そして日土幼稚園を守って来た先達から託されたこの仕事を、コツコツと・でも精一杯続けていることへの何にも代えがたいご褒美として。 |