園庭の石段からみた情景〜園だより6月号より〜 2018.5.25
<かわゆい僕の彼女達の愛情表現>
 今年の季節の巡りは、とっても象徴的で印象的。何かとその時々の季節感を僕らに伝えてくれようとしている気がします。今年は朝から晴れ渡った日が多く、子ども達は元気にお外に飛び出し遊んでいます。陽が高くなるのと比例して気温も上がってゆくのですが、園庭を吹き抜ける五月の風が僕らの心と身体をクールダウンもしてくれて、気持ちの良い初夏の陽気を存分に味あわせてくれています。そのおかげさまで子ども達は元気エネルギー一杯なのですが、僕ら大人はと言いますとしばらくすると疲れと暑さに日陰が恋しい想いが芽生えて参りまして「ちょっとここらで小休止」。グラウンドに六畳敷ほどの木陰を作ってくれるまでに大きくなった桜の木の下に陣取って涼みます。ほこり対策に水撒きをしたその湿り気が気化熱を生み出し幾分気温を下げながら、爽やかに吹き抜ける乾いた風と相まって贅沢な心地良さを僕らに届けてくれるのです。これぞ5月と言う情景を醸し出してくれています。
 かと思うとひとたび雨が降り出す段となりますと、潤いに満ち満ちた梅雨入りの頃の様相に早変わり。日土の山の新緑を伝って来るマイナスイオンに満たされた空気と風が、乾いた心と体を潤してくれるようなそんな満たされた心持ちにさせてくれるのです。昔、学生時代の仲間達と訪れた噴火による入島規制がかかる前の三宅島(ちょうどゴールデンウィーク前後の今頃の季節だったのですが)で感じたあの『豊かなる大自然の雰囲気』(雰囲気と言っても『ムード』ではなく化学用語で言う『何かしらの成分を含んだ気体』)を再び味わうことが出来たような、そんな気分にさせてくれるのです。そんなデジャブを懐かしみながらこの『雰囲気』に浸っていたのですが、ぽつりぽつりと現実に雨が降り出せば、時より豪雨を伴いながら丸一日にも渡って降り続くと言う梅雨末期さながらの降りっぷりに僕のセンチメンタリズムも吹き飛ばされてしまいます。このような季節の情景の一つ一つが、『この季節らしい季節感』を一杯に感じさせてくれる、そんな夏の入りとなっています。

 こんな今年のお天気模様を投影したのでありましょうか、今年の新人君達の様相も実に印象的。朝からカラカラっと晴れたご機嫌模様で登園して来たかと思いきや、お母さんと離れる一瞬にわんわんざざーんと土砂降りに泣いて、しばらく経ったらまたケロケロっとした顔で遊び笑ってくれるのです。ですからどれがこの子の本当の想いで今のコンディションであるのか量りかねているところ。でもよくよく考えてみたならば、どれもその子にとってのその時々における真実なのかも知れません。入園からひと月半、幼稚園の中でそれぞれの『楽しい』を見つけ段々と好きになって来てくれた子ども達。お母さんと一緒の朝の登園もご機嫌のうちにやって来てくれるようになりました。そう、その時は期待と楽しみに満ち満ちた嬉しい時をお母さんと共に味わいながら幼稚園の坂道を登っているのですが、新館のエントランスで『入るの入らないの』の段になると段々と気分が下向きに。「よっしゃー」のスイッチが入る前にお母さんとの惜別時を迎えまして土砂降り涙となるのです。しかし梅雨の雨もしとしとしんみり降るよりも、ざざっと降った後の方がカラッとさらっと晴れるもの。この子達の場合もそうなのかも知れません。お外の自由遊びが始まりまして園庭でふらふらしている僕を見つけますと、「いひっ!」って顔でつかつかやって参りましてちょっかいを繰り出しては「あははは!」と笑って立ち去ってゆく彼女達。でもこうしておしなべて見てみたならば、もう概ね大丈夫でありましょう。これからも泣いて笑ってを自身の園生活におけるルーティーンといたしながら、僕をカラかいつつケラケラ笑ってくれることでしょう。

 ばらの女の子達にはそんな風にあしらわれている僕。お外遊びに誘いに行く時にもバイキンマンのテーマを口ずさみながら「はっひふっへほー」とおちゃらけモードで彼女達の遊びの輪の中に入ってゆくのですが、「きゃー!」と言いながら逃げるのかと思いきや「げしげし!」とパンチキックを繰り出してくる女の子達。かわゆく「きゃー!」なんて言うくせに、女子とはまったく恐いものです。これは彼女達の愛情表現なのか正当防衛なのか分かりませんが、それにしても加減のない攻撃にある時「いたいんだよ」としげしげその顔を見つめながらある女の子に訴えかけました。その時はそれで終わった僕と彼女であったのですが、それから彼女が変わったのです。ある時僕を見つけるとそれまでと同じようにつかつかつかと寄って来て、黙って僕の頬をなでなでしてくれました。「ありがとう、○○ちゃん優しいね」と声をかけると嬉しそうに微笑んでくれた彼女。そう、この子の『げしげしキック』は僕への愛情表現だったのです。ただ嬉しい想いをどう表現したらよいのか分からなかった彼女。この時、キックではない何かで想いを伝えようとした彼女はとっさに『ほっぺたなでなで』を思いついたのでしょう。それが僕には心地よく、癒されている感じが彼女にも伝わってくれたのでしょう。まったく男ってやつは幾つになっても相手がどんなに若くても、優しくされると嬉しくなってついついデレデレになってしまうもののよう。それから彼女は僕のところにやって来ると必ず『ほっぺなでなで』をしてくれるようになりました。そんな彼女のなでなでは瑞々しいマイナスイオンのようなすがしさで僕の心を潤してくれています。こうして彼女は相手への愛情表現の作法と喜びを、こんな関わり合いの中から学んでくれたのでありました。この子達の天性のかわゆさもあいまってこんな彼女達に手玉に取られている僕。ホントに今年の新人君・ちゃん達はそれぞれ、素敵な感性とそれに基づく輝きがとっても印象的な子達ぞろい。神様がこの子達に与えて下さったそんな輝きにそっと寄り添いながら、これからも一緒に歩んでゆきたいと思ったものでありました。


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