園庭の石段からみた情景〜園だより12月号より〜 2019.11.26
<どんぐり虫達のララバイ(子守唄)>
 いつの間にやら季節は秋から冬へと移り行き、暦もじきに師走。今年は『どんぐり遊び』が例年にも増して流行りまして、秋には『どんぐりむらフィーバー』で盛り上がったり、どんぐりオブジェ作り・更には『どんぐり馬小屋』まで登場したものでありました。僕らの良いとこ・悪いとこ。『その気』になるのは早いのですが、すぐに立ち消えになってしまうとこ。せっかく自然物を教材に色んな体験を味わっている子ども達なのですが、どうもその後の展開や発展がなかなか見られません。ですから僕らも『どんぐりむら』の絵本を買って来たり、どんぐり達を主役にした聖劇のお話を作ってお誕生会で披露したり、テコ入れや新たな投げかけでこの子達の想いをゆすってみるのですが、想い通り・手応えに満ちたリアクションを手にすることはなかなかもって難しい。そう、子ども達自身が『自然物』なのですから、それで当たり前なのです。それでも今年の『どんぐりビッグウェーブ』をもうひとつ更なる幼児教育につなげたいと、試行錯誤と努力を日々積み重ねている所です。

 こんなデジタル・バーチャルの現代にありまして、どんぐりが大好きな子ども達・そしてお母さん達が多いのは本当に喜ばしいことだと思います。やっぱり『実体』を持った物とのふれあい無くして、僕ら・そして子ども達の心は動かないし成長してゆきもしないと思うのです。『情報処理』でしかないバーチャルは、効率を求め煩わしさをことごとく排除してゆこうとするのに対して、自然のどんぐりは何がどうなるか分からない。だからこそ感動(狂喜乱舞?)や学びにつながるのです。
 つい先日、ある子が瓶に詰め込み蓋をしっかり閉めておいたどんぐりが大変なことになりまして、カビが生えるわ・どんぐり虫が出て来るわ・もやしみたいな根っこが生えて来るわで、大騒ぎをしたものでありました。その子にしてみれば、大事にしまっておいたどんぐりがどうしてそんなことになるのか理解出来ません。声を荒げて「なんとかしてー!」と大騒ぎしておりました。でもどんぐりは生き物・自然物です。密閉した瓶の中に入れてあったら、蒸れるし温められるしで十分な湿度と温度を与えられ活性化するのでありましょう。頭では分かっていても僕にとっても初めての経験でありまして、その子と一緒に『仕分け』をしながら彼女の大切な『どんぐり救済プロジェクト』に勤しんだものでありました。最後に仕分けし終わった『カビどんぐり』とどんぐり虫の入ったビニール袋を切なそうに見つめるその子のまなざしに、ゴミ箱に捨てるつもりだったのが出来なくなってしまった僕。外に持ち出し、山端の土に帰してやりました。ビニールの口を結んでゴミ箱に捨ててしまったなら100%死んでしまうこのどんぐり&どんぐり虫。でも自然に帰してやることで、そこで芽を出すかもしれないし、土の中に潜って成虫になるかも知れないし、他の動物の食物となるかも…。文字通り自然に帰してあげたのですから、そこからは自分次第。それが『自然に生きる者』の生きる道。僕らに採られた時点で本来は自然界から淘汰された彼ら。僕らは生きる糧(喜び)として、はたまた子ども達そして自らの学びのためにこのどんぐり達を採って来ました。それは神様が与えて下さった豊かなる恵みなのでありますが、欲望やエゴに任せて必要以上に採り、その命や可能性を奪うことは罪なのかも知れません。先日声優さんが亡くなったアニメ『ルパン三世』の石川五ェ門の決めゼリフ、「無益な殺生はせぬ」。これは『生きる者同士の理』を言い表しているのだと思うのです。ですから彼らを自然に帰したその時に、ちょっと心のくびきが軽くなったような気がした僕なのでありました。

 さて、そんな生き物に対する僕らの想いを幼稚園の子ども達も感じてくれたのでありましょうか。もも組では最近盛んに『どんぐり虫育成ファーム』が運営されています。この子達がこの秋に一杯遊んだどんぐりの中からやっぱり出て来ました『どんぐり虫』。最初は大騒ぎしていた子ども達であったのですが、いつしかそれが愛しさに変わってゆきまして、クラスでどんぐり虫を飼うことになりました。このどんぐり虫、巷ではたいそうな嫌われ者で、「出て来たらイヤだからどんぐりを煮沸します」なんて話も聞くほど。でも煮沸して死骸がいつまでも中にとどまっているどんぐりより、大きな穴が開いて虫が外に出て行ったことを証ししているどんぐりの方が良いのではないかと僕などは思うのでありますが、嫌なものは嫌なのでしょう。それに対してもも組の子ども達。どんぐりから這い出てきたどんぐり虫を見つけると、優しく摘んで掌に乗せ、『どんぐりファーム』に運んでゆくのです。『どんぐり虫』とみんなが呼ぶこの虫の正体。それはゾウムシと言う小さな甲虫の仲間で、長いくちばしが象のように見える可愛いあいきょう者です。僕もこの幼稚園でその成虫を数回しか見たことがないのですが、なるほど『象虫』です。「この幼虫がその『成虫ゾウムシ』になるのを見てみたい」と言うことで美香先生を始めとしてもも組さん、一生懸命お世話をしています。僕も飼育方法を知らないのですが、すべりだい上の朽木の木くずを集めて飼育ケースに入れていた先生と子ども達。なるほど甲虫ですから幼虫の間はカブトムシと同じようにこう言うものを食べて大きくなるのかも知れません。その辺は情報収集能力に長けている美香先生ですからばっちり調べた上でのトライなのでありましょう。僕もこのゾウムシが成虫になってこの子達の笑顔が自慢げに光り輝くところを見せてもらうのを、心待ちに楽しみにしています。
 こうして秋が終わったと言うのに今年のどんぐりプロジェクトは半年間の延長更新となりました。こうして自然の中で子ども達の想いと学びがつながってゆき、その中でこんな風に気付きを得てゆくことこそ、日土幼稚園の専売特許。そんな保育を大事にしてくれる先生達(本当は『うら若き乙女』なのに)に心より感謝です。


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