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<実録『僕らの夜の幼稚園探検』> おかげさまで今年のすみれ組の『夕涼み保育』(お泊り保育短縮版)も無事に行われ、こんなコロナ禍の状況下にありながら子ども達に非日常の体験をさせてあげることが出来ました。感染リスクを減らす対策を奉じながら、「今のこの子達に何をしてあげられるだろう。させてあげられるだろう」と真理先生が一生懸命考えてくれて臨んだ今年のプログラム。そこからも最初から最後まで降り続いた雨のせいでカリキュラムカットがあったのですが、終わってみれば『子ども達もおなか一杯』の夕涼み保育であったように思うのです。しかもその後の『九州の豪雨災害』のニュースを見ていると、「よくこのタイミングで夕涼み保育が出来たものだ」と神様のお守りを感じます。また『コロナ禍がなかったら』と考えた時、「『さらにここから一泊』なんてカリキュラム、果たしてこの子達に出来たのだろうか?」と言うていのこの子達に、「神様はよくよくご存じです」と言う想いを改めて感じたものでした。 『集合は14:30から』と言う今回の夕涼み保育。待ちきれずに集まって来た子ども達はうひゃうひゃそわそわしっぱなし。期待とテンションは上り調子なのですが、そうそうこの子達はいつもこんな感じ。明るくってノリが良い子達ぞろいなんだけれど、実は虚勢とお調子で自分達を精一杯支えている『撃たれ弱い怖がり』ぞろい。だから二年前の入園当初も誰かが泣き出したらみんなみんなに伝播して、やいのやいのの大騒ぎ。そんなだったこの子達がちょっとずつ強くなって来れたのは12人もいる仲間の力だったのでありましょう。そんなこの子達に園生活史上最大の危機が訪れます。『モンスター』。幼稚園に棲むと言うモンスターの存在を昨年のすみれさんから聞いていたこの子達。それが今年も夜の探検で出会うかもしれないと言うことで、戦々恐々の子ども達。「モンスターなんかいない」と言う子から始まって、「モンスター、怖くない!」「やっつけてやる」と粋がる子まで様々。それなのに「新先生も一緒に行くんでしょ」と保険を掛けようとする子もあって、それぞれが色々な想いで受け止め迎えた『夕涼み保育当日』でありました。怖い想いもみんなでいれば飛んで行ってしまうこの子達。今となって思ってみれば、それであんなハイテンションだったのかもしれません。こうして上々のご機嫌ムードの中、夕涼み保育が始まったのでありました。 さて、開会礼拝からのプログラムはつつがなく進んでゆきまして、いよいよ『夜の幼稚園探検』の時間とあいなりました。「たんけん、いく?」の真理先生の振りにほとんどの子が「行く!行く!」と絶好調。そこまでのプログラムを難なくやり通した自信と自負もあり、この時は本当に勇敢な姿を見せてくれていたこの子達でありました。まあそうでしょう。時間外と言ってもいつも遊んでいるすみれの部屋で灯りも煌々と灯されての活動ですから、「怖い」と言った想いなどかけらもなかったのでありましょう。そこから奥座敷へと目指して探検を始めた子ども達。電気のついていない廊下に、段々とテンションも下がってゆきました。真っ暗闇の中、懐中電灯一本を頼りに歩を進める真理先生と子ども達。「ここがみんなが泊まるはずだった部屋」と奥座敷まで行き着けば、無表情で「ふんふん」とうなずき帰って来た子ども達。すると食堂に一本の階段を見つけます。『真っ暗廊下』だけですっかりビビっている子ども達に「行ってみようか」と言う真理先生。そこから「怖い!」「行かん!」と脱落者が続出。階段の上は母屋の二階になっているのですが、もちろん演出上真っ暗闇。「行く?」「行かん!」、「じゃあ待ってる?」「いや!」とそんな押し問答も繰り広げられる中、階段を上がろうとする真理先生の腕にしがみつきぶら下がる男の子。先生も予想以上のリアクションと自分自身がにっちもさっちも上がれも下がれもしない状況に「(どうしよう)」ってそんな顔。そんな先生を後にして、勇敢なる先行部隊が真っ暗な二階に駆け上がってゆきました。「へー、すごいじゃん」と思いながら見つめていると、「なんか光ってる」と青ざめた顔で降りて来る女の子。そんな状況の中、勇猛果敢にも駆け込んで『お宝に取り付いた』と声を上げる子ども達のあとを追いかけて、カメラも暗闇の中に入ってゆきます。モニターに映ったのは色とりどりに輝くわっかわっか輪っか。『ひとり一つずつ』と真理先生が準備したケミカルライトの腕輪だったのですが、先に乗り込んだ子達が全部ぶん取って来てくれまして、階段の下にいた『二階まで行けなかった子達』にめでたく『山分け』となったのでありました。普段なら『全部全部』『自分自分』のこんな彼らの行動、「一個ずつでしょ」とたしなめられるものでありますが、そんな彼の行動が『怖くて宝を取りに行けなかった友達のため』になるなんて…。僕らにとっても予想外のことでありました。これこそが人間の多様性。『みんなが同じに同じことが出来ない』そんな時、普段ならば『調和を乱す行為』として正されてしまうようなこんなことも、一人一人の個性や独創性が神様に用いられて全体の危機を救うことになるのです。全員が同じように動く『集団におけるおりこうちゃん』だったなら、きっとこの時点でこの探検部隊は全滅していたことでしょう。生物の進化・歴史はそう言うことの繰り返し。だから効率的に画一的に発展・進化して行った生物や文明は、『彼らの想定外』の事態の前に滅んで行ってしまったのです。そんな子達の大活躍によりまして、最初のミッションをクリア出来たすみれさん達でありました。 これでなんとか夜の大冒険が終わったかと思いきや、『モンスターの手紙』が出て来て次なるミッションを告知します。『宝は小さい子達の部屋』と言うなぞかけに、「ホールだ!ひよこクラブはホールでやっているから!」と名推理を見せる男の子。思惑と違った回答に進路修正を試みる真理先生。「幼稚園にも小さい子がいるんじゃないかなぁ…」のつぶやきに「ばらさんの部屋!」と食いついて来てくれた子がありまして、「みんなでばらさんの部屋に行こう!」と言うことになりました。せっかく終わったかと思ったのにまたゴールが遠のいて「いやだぁ」と言う声があちらこちらで響きます。先に先に行きたいグループは掛かり気味に行こうとするし、行きたくない派はもう足が進まない。すみれ組分裂の危機であります。そんな時、「ほら、今日の最初に『みんなで助け合ってがんばってゆこう』って言ったじゃない」と今回の夕涼み保育・さらには脈々と受け継がれて来たお泊り保育のスピリットをもいちど子ども達に投げかけます。すると「はっ」と我に返りなんとか持ち直したみんなの想い。なんとかかんとかみんなで新館まで行くことになりまして、『夜の幼稚園探検・企画打ち切り』の大ピンチを乗り越えたすみれさんでありました。 さてさて、まだ薄明るさが残る、ついこの間夏至を過ぎたばかりの夕暮れ時。母屋よりよっぽど明るいお外に飛び出してほっと一息ついたのですが、新館のエントランスの所までやって来ると、なんかいつもと様相の違うばら・ももの部屋。真っ暗な上に何か怪しげな灯りが垣間見えます。そんな中、ばらの部屋に飛び込んだ子ども達。薄暮に照らされほんのりと景色が浮かび上がる教室で、これまた次なる手紙を見つけました。そこには『友達と宝をももの部屋まで取りに来い』と言うメッセージ。ご丁寧に一緒にチームを組むメンバーまで書いておりまして『演出の匂い』が立ち込めるのですが、そこは素直な子ども達。誰も何も疑うことなく、3人ずつ探検に挑むことになりました。まずトップバッターで向かいましたのは、あの母屋の二階に真っ先に飛び込んでゆき、取れるだけのケミカルリングを取って来たあの男の子のいるチーム。勇敢なる彼をして「こわいー」「行きたくないよ」と言わしめた漆黒の闇が広がるももの部屋。真っ暗な中で何も映らないビデオに録音された彼の饒舌なる『あたふたパニック一人語り』が僕らに状況を解説してくれます。「はやくおいで」と言うモンスターの声に「ん?まみせんせい?」と一瞬我に返った彼だったのですが、答えてくれぬ闇の声にすぐに『怖いモード』に回帰して、「行きたくないって!」とまたまた取り乱し始めます。往年のドリフのコントを見ているようで思わず笑ってしまいそうになる僕。そこから先に進まず、「この企画、今年はここで終わり?」と思った頃、別の男の子が意を決して先に進み始めました。こう言う時には無口ながらも不言実行の行動力で魅せてくれるこの男の子。とうとうモンスターの待つところまで進みゆくことが出来ました。そんな彼の後を追って、行ったり戻ったりを繰り返しながらとうとうモンスターまで行き着くことの出来たこの子達。「ひとりずつ名前を言いなさい」と言うモンスターからのミッションに「〇〇です!」と答える子ども達。真っ暗闇の中なのに、モンスターの声掛けに「はい!」と最敬礼で受け応えする彼らの言葉から直立不動の大真面目な顔が想像出来て、またまた笑ってしまいそうなっちゃう僕。こうして「怖いのによく来た」とモンスターからもお褒めの言葉をいただいて、お宝をもらって帰って来たのでありました。 次のグループはあの母屋の階段で真理先生にしがみついて大泣きだった男の子のいるグループ。別の男の子が「モンスター!」と威嚇がてらに怒鳴ったならば「バン!」とでっかい音で返して来たモンスター。そこで彼の虚勢は終了、それから全くの無口君になってしまったのでありました。このグループは真理先生の付き添いのもと探検に出発したのですが意外や意外、みんなが行き渋る中、あの一番怖がっていた男の子が先頭に立って進んでゆこうとするではありませんか。これには僕も真理先生もびっくりで、「すごい!」と大絶賛の声掛けで彼の勇気を後押ししたものでありました。この男の子、先ほどもうすっかり泣きつくしてすっきりしてしまったのでありましょうか。このチームは彼の勇気に導かれ、見事お宝をゲットすることが出来たのでありました。 さて、三番手グループはひとたび順調にモンスターの所まで歩を進めたのでありますが、暗がりの中でモンスターと遭遇した男の子が「おわぁー!」と恐怖で振り回した手がモンスターに命中。それに驚いた彼が逆走を始めまして、みんなでスタート位置まで戻って来てしまいました。叩かれ損のモンスター、お気の毒。でもそれで怖さが最高潮となってしまったこの子達。するとある女の子が「しん先生がおらんと無理」とけなげなことを言ってくれるので、いい歳したおじさんがその気になってしまいまして、「じゃあ先生が先に行こうか」と狭い机の下の迷路に潜り込みます。それでなんとかみんなで再びモンスターの所まで帰って来ることが出来たのですが、「こう言うことがとっさに言える女の子ってかわゆくて、きっと将来モテルんだろうね」と5歳の少女の掌の上で転がされた自分を笑ったものでありました。 さあ、最後は待たされた分、入る前から大泣きしていた子達のグループ。これも真理先生が付き添って行ったのですが、もう「わーの」「きゃーの」の大騒ぎ。ひとしきり叫んだ後で、ライトに照らし出されたモンスターの正体が『ゴリラのお面』だったことに気付いたからでしょうか。少し落ち着きを取り戻し、モンスターと会話を交わしてお宝をゲット、出口まで帰ってゆくことが出来たのでありました。 こうして僕らの『夕涼み保育』は終わりました。探検をやり遂げてお帰りの時間を迎えた子ども達は燃え尽きた『矢吹丈』のよう。それでもお守りくださった神様に感謝のお祈りを献げ、お母さん達の元へ帰ってゆきました。そこで眞美先生・美香先生を見つけた子ども達。口々に「あれは眞美先生と美香先生だった!」と軽口を残して行ったのは大泣きした後の照れ隠し?いっとき泣き通しの入園当初に戻っていたこの子達が、ちょっと粋がったすみれの姿に戻った瞬間でありました。みんなよくよく頑張りました。短時間で中身の濃い『良い蜜』が具現化された今年の『夕涼み保育』。沢山のことを学び、今の自分とも改めて向き合うことの出来た、そんな素敵な時間だったように思います。でも大泣きさせちゃってごめんなさいでした。 |