園庭の石段からみた情景〜園だより2月号より〜 2022.2.12
大きくなった『がらがらどん』
 今年は大寒過ぎに寒さの緩んだ日々が訪れて、梅や寒桜がほころび春の到来を予感させた一月の終りとなりました。それが節分あたりからまた冬に逆戻り。今年になってはじめて見初めた薄氷や幼稚園バスのフロントガラスの凍結に、「やっぱり冬の終りにはまだ早すぎたのね」と自分の感性の性急さをおかしく思ったものでありました。そう、子ども達と雪遊びも氷遊びもまだしていない今年の冬。「寒い寒い」と言いながら、大雪が降って子ども達と喜び遊んだ数年前に感じた寒さから言えば「まだまだこんなもんじゃない」って感じのはず。でもあの時はバケツに張った厚さ数センチの氷の塊越しに見えるお互いの顔を見つめて大笑いしたり、山まで続いたウサギの足跡をみんなで追いかけ崖を登ったり、そんな楽しかった思い出が勝って寒さに凍えていた記憶がありません。そんなあの子達ももう小学校の中学年。巡りゆく時の速さを感じつつ、真理先生と懐かし話に花を咲かせたものでありました。それだけ心身共に僕もまだまだ若かったのか、はたまた雪に誘われ外に飛び出し遊び得た運動代謝が身も心も温めてくれたのか、もうひと昔も前となったあの冬に想いを馳せる今日この頃。今年のように地味に寒いシーズンの方が冬の冷たさを一層感じるものなのかも知れません。でもでも心も体も健康でなければ外で体を動かし、自身の『内燃機関』に火を入れることも出来ません。こんなコロナ禍の中にあって、またこんな風邪のひきやすい季節にあって、こうして神様によって健康を与えられ元気に遊びながら過ごせていることに改めて感謝です。

そうした寒い日が続く中、和彦さんが久しぶりにヤギをジャガイモ畑の所まで連れ出して来てくれました。翌週することになったジャガイモ植えの為、畑づくりをこの日始めたのですが、ヤギ達もそれのお手伝い。ちょぼちょぼほどしかない下草ですが、それでもムシャムシャと食べてくれるヤギ子ちゃん達。この冬数回にわたって畑に立ち入り、草を食べ糞を落として行ったヤギ達のお手伝いの成果と、耕運機を駆使して土を耕してくれた和彦さん・そして畝づくりに精を出してくださった久保田さんのおかげさまで、今年も良い畑が出来ました。ヤギの姿を園庭から見つけた子ども達。早速この丘の上までやって参りました。これまた久方ぶりに柵越しではない至近距離でヤギと相まみえたこの子達。いつもの柵越しでは感じないヤギの重量感にちょっと腰が引けています。それはそうでありましょう。ヤギが一歩前に歩み寄ればもう至近距離のゼロレンジ。子ども達は更に大きくなったヤギの迫力にちょっとタジタジと言ったところ。手を伸ばせば餌となる草木が茂りに茂っていた夏秋の頃とは違って、何もあげるものもない子ども達。ヤギも現金なもので「なにもないの?」って顔であまり子ども達に興味を示さず近寄っては参りません。そんな均衡の中、ヤギ同士がじゃれ合いを始めました。互いに頭をぶつけ合っての力比べ。身体こそ茶色のさくらチョコちゃんの方が大きいのですが、気の強い黒色のハートちゃんも負けていません。ひと頃は力負けし尻尾を巻いて逃げていた時期もあったのですが、最近では一歩も引かず果敢に自分より大きなさくらチョコちゃんに向かってゆくようになりました。まあこれは姉妹同士の力比べなのですが、その姿を見ていると幼稚園の子ども達の姿とダブって見えて来ます。
 よくよく喧嘩し合う子達は、実は興味の対象も好きな遊びも似通っていることが多いもの。だから生息エリヤが近く、よくよく喧嘩にもなるのです。最初はエゴのぶつかり合い。自分の意を通すために言葉や実力行使の応酬で、泣いたり泣かされたりすることも。しかし、そうやって本気の相手の実力や想いを感じ合いながら、「なかなかやるわね」「あ、今日は引いてくれたのかしら?」などと言うリアルなやり取りをした間柄でなければ得られない貴重なコミュニケーションを分かち合うのです。元々趣味・嗜好性の近しい二人が相手を認め受け入れ合うことが出来たなら、そこからは自分達だけの世界を形作る無二の大親友にもなれるのです。そんな子達をこの幼稚園で数多く見つめて参りました。『仲良く』『お行儀よく』とうわべからの良い素行ばかりを求められる現代の子ども達。でも決して納得して従っている子達ばかりではないでしょう。大人の目の前ではおりこうちゃんを演じ、目の届かない所で意地悪や嫌味などをもって『消化しきれない想い』を自分の心の闇の中にうずめようとすることもあるはずです。ですから時にはそうした本気の想いのぶつかり合いを、見つめながら見守りながらそれをきっかけに子ども達の心の成長を促してゆけたらいいよねと、そんな想いで見つめ反芻した情景でありました。

 そんなヤギ達をちょっと遠目に見つめていた子ども達。この間まではあんなに小っちゃかったヤギが、今ではトロルもやっつけてしまいそうな力強い大ヤギに成長したその様に、想いもひとしおの様子。一昨年前の春、赤ちゃんヤギとしてやって来て、子ども達に追いかけまわされていたヤギ子ちゃん達。それがいつの間にか中くらいに大きくなりまして、気に入らなければ「やめて!」と実力行使をもって自己主張するようになり、そして今では僕らに対してオーラと圧でプレッシャーをかけるそんな大ヤギにまで成長いたしました。それぞれの時々の姿と成長をその目に焼き付け、肌で感じて来たこの子達。今度発表会で挑戦するヤギの役作りの上で、これ以上の参考・お手本となる存在はないでしょう。これまでのヤギ子ちゃんとの付き合いと自分達の成長をも重ね合わせながら、リアルな喜びと感情をまとい思いっきり演じてくれることでありましょう。「それが導入上手な美香先生のこの一年のまとめかな?」なんて思いながら、この子達のこれまでの全てが集約された発表を、皆さんと共に無事に見れることを祈りつつ楽しみにしています。


戻る