園庭の石段からみた情景〜園だより3月号より〜 2022.3.4
僕らの愉快な『お別れ遠足紀行』
 いよいよ春めいて参りました。本日はお別れ遠足。今朝はそれに先立って、小さい組の子が遠足のおやつを『すみれ・もものお菓子屋さん』から買うと言うプレイベントを楽しませてもらいました。先日、喜木の市尾商店まで徒歩でお菓子を買いに行ったすみれ・ももの子ども達。「ばら・たんぽぽさん達の分も!」と勇んで買って来てくれた商品で、今日はばらさん達相手に駄菓子屋さんを開いてくれました。『お買い物ごっこ』とは言うものの、ちゃんとしたい先生達。子ども達が主体的にやれるように、システムや約束事を出来るだけシンプルに設計してくれました。お店は三つ。30円・20円・10円の3班に分かれてお店を構え、30円は1個・20円が2個・10円が3個の計100円となるように買い物をしてもらいます。それぞれのお店屋さんには『ここでは何個買ってもらって』とお願いをし、ばらさん達のサポート役を任せます。『よりどりみどり』の商品を前に、小さい子に「何個ね」と言っても自分を押さえられるはずもないので、接客をお願いいたしました。「お店を営む者・小さい子に接する人は『言い方』も大切だよ」と、間違いに対する『優しく上手な諭し方』のレクチャーも受けまして、いざお店の開店と相成りました。
 堰を切ってホールに入って来たばらさん達。それを「いらっしゃい!」「いらっしゃい!」と迎える大きい子。そんな中で僕の目を引いたのは『30円ショップ』の女の子。「どれがいい?」のその前から「30円!10円三枚!」と先に対価を要求します。言われるがままにお金を出そうとするお客さん。確かに『30円のお菓子はここでは1個しか買えません』『それを買うためには10円が3枚必要です』を正しく理解した女の子。それをきっちりした性格により体現したなら、このようなアウトプットになるんだと、笑いをこらえながら見つめた情景でありました。知らない人から見たならば、どこかのキャッチセールスか はたまた夜の飲み屋街で客引きに捕まってしまった人のような顔をして、言われるがままに財布からお金を出すばらの子ども達。「まだなんにももらっていないのに…」と言う不安そうな顔が実に印象的であります。そんなこの子達に「『どれがいいですか?』ってまず聞いてあげて」と声をかけた僕。お店屋さんの一番大事な所はそこなのです。お客さんが「うれしい!」ってなれる『幸せな想い』を売ってこそ、それがお店屋さんの面目躍如。そして僕ら幼稚園もそれは同じ。そのことを改めて目の前で教えてくれた、子ども達の『お店屋さんごっこ』でありました。「日頃からお願いばかりで、お母さん達にこんな想いをさせていないだろうか?」と自らを省みる大切な時となりました。

 その後いよいよ『日土の里巡り』に出発となりました。すみれがばらさんの手を引いて、山に向かう道を元気に歩き始めます。日頃の『ホール集会』などでもすみれが小さい子達の手をつないで入ってくれるのでありますが、お散歩はクラス毎に出かけることが多いので久しぶりの『お世話ランデブー』にちょっとテンションも上がっている様子。なかなか思うように歩が進まないばらさん達の手を引きながら、『僕らって大きくなったよね』と嬉しく感じていたことでありましょう。自分も先生に手を引かれてようやっと歩いていたのが、今では小さい子達を促しながらリードしながら歩けるようになった実感を感じていたことでしょう。これぞ『お別れ遠足』。別れを惜しみつつ、お互いの存在をしっかと感じながら、お世話したり・されたりいたしながら、感慨深いこの時をたっぷりと味わっていたこの子達でした。
 梶谷岡の貯水タンクの所までやって来まして、それぞれの体力に合わせてそこから二手に分かれます。すみれさん達は更に上の梶谷岡公民館を目指し、小さい子達は坂を下って農協への道を経由し幼稚園へ。分かれてしばらく行った丘の上から、坂道を下るばらさん達を再び見つけたすみれさん達。「おーい!」と手を振れば、あちらも「おーい!」と返します。その高低差、30m程はありましょうか。別れてから3分ほどしか経っていないのに、その目に小さく写るばらさんを見て、「もうこんなに来ちゃったんだね。思えば遠くに来たもんだ」ってそんな感じになったもの。このシチュエーションと映像がリンクした時の感動伝達力の大きさよ。あれからたいして歩いた訳でもないのに、子ども達の自己達成感がどんどん上がってゆく様子をその場にいて感じた僕でした。それからも目の前の視界が開けるたびに、眼下に広がる日土の里を眺め感嘆の声を上げながら、途中道草も一杯食いながら、梶谷岡公民館までたどり着いたすみれさん達。ヘタレが多く、『体も思うように動いてくれないから動かない』、そんな感じだったこの子達が本当にがんばれるようになりました。そのミッションの達成をみんなで喜び合い小休止を取った後、また幼稚園に向けて元気良く歩き出しました。道すがら事ある毎に「ここはばらさんの時に来た!」なんて昔話も聞かせてくれて、「そんなこと、よく覚えているなぁ」と感心したもの。でも子どもの感性とはそれほどに豊かなものなのです。ばらの頃から何度もお散歩で歩いたこの日土の里。季節毎にその顔を変える自然にいだかれながら、『ひづちっ子』として成長し大きくなって来たこの子達。これまで歩いて来たこの道をもう一度歩きながら、あちこちで心に刻んだ思い出ともう一度出会いながら、最後の『日土の里巡り』をかみしめた僕らの『お別れ遠足』となりました。
 コロナ禍でお外に出かけられないこの時代にあって、僕らはこんなにも恵まれた環境を与えられていることを改めて感じた今回の『日土の里巡り』。この自然の中でこの子達は豊かなるものから感動を、足りない物からは知恵と工夫と生きる力を、与えられ育んで来てくれました。過ぎるほどに満たされた環境から生まれて来るのは傲慢と怠慢。満たされない所に芽吹く可能性への挑戦の想いこそが、僕らの『伸び代』を育てて行ってくれると信じています。全てのことを神様にゆだねながら。


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