園庭の石段からみた情景〜園だより5月号より〜 2021.4.28
<ザザムシが紡ぐ今昔物語>
 ずっとお天気続きだった4月の最後に、やっと恵みの雨が降りました。この時期のお天気は本当にありがたく、毎日の外遊び・自然遊びを心の糧に、慣れない新生活も頑張っている子ども達。しかしそう言いつつも、たまの雨もやっぱりこれまたありがたいもの。園庭を熊手で掃き清めたそれだけで、もあもあと重い砂煙が舞い上がるほど乾燥していた幼稚園。この雨のおかげであちこちしっとり落ち着いて、また連休明けは蒼々と新緑の萌えいずる自然の中で子ども達と大冒険を繰り広げたいと、そんな風に思ったものでありました。
 その日の降園時、子ども達と幼稚園の坂を歩いて下りれば、カタツムリは出て来ているわ、サワガニが道を横切るわ。この雨を待ち望んでいたのは僕らばかりではなかったよう。そんな生き物達をよけながら、後続の子達に「でんでんむしがいるから踏まないでね!」と声を掛けてくれた男の子がありました。ばらの頃からすみれさんのカニ捕りを輪の外からじーっと見つめていたこの男の子。そのすみれが卒園していよいよ僕らの出番となった今年度。カニを捕まえて「ほら!」と差し出したら「いやー!」と逃げ出すリアクション。「え、好きだったんじゃないの?」と尋ねたならば、「好きだけれど触れない!」と何とも素直な反応に笑ってしまったこともしばしばです。花や生き物が大好きで、優しい想いは人一倍持っているこの子達。鯉のぼりが木の枝にひっかかったら「かわいそうだから助けてあげて」とすぐさま僕を呼びに来ます。でもちょっとくらいならば「自分で泳いでがんばれ、こいのぼり!」と僕が鯉のぼりにはっぱをかけるので、それを自分に言われた言葉のように大真面目なまなざしで受け止めます。きっと自分の弱さや未達を感じながら、「僕だってがんばりたいんだ。でも…」と言う想いをいだいているのでありましょう。複雑に絡まってどうしようもない時にはそんな彼らと出かけて行って、カウボーイの投げ縄で鯉のぼりを手繰り寄せ、『レスキュー作戦』を大展開。鯉のぼりが助けられると本当に嬉しそうな顔で喜んでくれる心優しい子ども達なのです。

 そんな子達と駐車場へと渡る道路の右左を確認していた時のこと。子ども達が「新先生、虫がいる!」と言うのです。「虫くらいいるよ…」と思いながら車行き交う道路を気にしていた僕だったのですが、みんながみんな下を見つめて「虫がいる!」と言うのです。ふとそちらに目をやると本当にすごい虫がいたのです。頭は甲虫のようにしっかりとした顎を持ちながら、その下半身は足一杯のもじゃもじゃムカデかゲジゲジ虫。5cmほどもあるビッグサイズの怪獣が、雨上がりの湿った歩道の下をはいつくばっていたのです。それを目にした時、ビックリしたのと共に「これ、なんか知ってる気がする」と言う直感が走ります。その姿を頭に焼き付けて、「今度教えてあげるから行こう」と諭しつつ子ども達を先導して道を渡った僕でした。
 バスが帰って来てからもずっとそれが気になっていた僕。さっきいた場所を探してみましたが、生き物がいつまでも同じ場所にとどまっている訳はありません。「ガガンボ、ザザムシ、なんだっけ…」と知っている名前を口に出しながら記憶をたどるのですがなかなか思い出せません。「カワムシ、トンボ、ヘビ…、ヘビトンボ!」とついに思い当たる名前にたどり着きました。すぐさま図鑑を調べてみたならば、あった・ありました「ヘビトンボ」。その幼虫を見てみたならまさに「ビンゴ!」でありました。「でもこの虫、昔調べたことあるぞ」と思い出し、昔のホームページのバックナンバーを検索。平成22年6月の記事にたどり着きました。

 最近の検索エンジンはすごいです。ファイル名だけでなく、記載された文字の中に『ヘビトンボ』のワードがあるだけでこのファイルを探し出してくれました。「賢いなぁ」と感心しつつ、当時自分の書いた記事を読み返します。その時はこのヘビトンボの成虫を『まもる君』と言う男の子が持って来てくれて、「これはなんぞや」と『大研究大会』が始まりました。画像をホームページで紹介したら、それを見たお母さんが「ヘビトンボって言うんですって」と教えてくれたとも書いてあります。そこから調べ物が一挙に進み、『ザザムシと言う名で信州では佃煮や唐揚げにして食べている』なんて記載もネット上で見つけ、ヘビトンボに対する知見を深めて行った当時の僕らでありました。僕の記憶の中にあった『ザザムシ』と言う言葉はあながち外れではなかったよう。この時、彼が持って来てくれたヘビトンボは成虫だったので、僕の記憶の中にあったザザムシはこの調べ物をした時の物だったのでしょう。それで「知ってる気がする」と言う想いにつながり、今回の識別に至った訳でありますから、「勉強はしておくものだ」と改めてそう思ったものでありました。また「当時もも組だったあの子達もこの春、中学校を卒業したんだね」とコロナ禍でなかなか帰郷もままならぬ卒園生達に想いを馳せる時をも与えられ、神様に感謝したものでありました。まもる君も虫と自然が大好きで、その想いに支えられながら幼稚園でもがんばっていたことを覚えています。あれこれ苦手なこともあったけれど、とっても優しい男の子でした。同じように優しい彼の後輩が、今のもも組にあって新生活の中でがんばっているこの不思議。「みんなつながっているんだよね」と本当に思わされてしまいます。神様が遣わせてくれたヘビトンボの幼虫に、それを見つけてくれた今のもも組の子ども達。それが10年前の卒園生との思い出につながって、なんと不思議なことでしょう。今のこの子達も大好きな日土の自然に支えられながら、きっと立派なももさんに育って行ってくれることでしょう。あれこれ壁にぶつかりながらも、がんばることで高められてゆく自分を喜びながら。僕らはその御心によって漂うだけの者ですが、全てを導かれる神様に心より感謝です。


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