園庭の石段からみた情景〜園だより10月号より〜 2022.10.16
足元に埋まっている宝物
 おかげさまで今年の運動会も、目の前で繰り広げられた子ども達のハッスルパフォーマンスの中に大きな成長と喜びと感謝の想いを感じつつ、無事に終わってゆきました。運動会を幼稚園の一大イベントと捉えている僕らにとってみたならば、本当に「よくやった!よくやった!」と言う心持ちなのですが、当の子ども達にしてみればあの本番も『単なる通過点』と言う風に捉えているようなそんな感じ。特にばら・たんぽぽさん達からしてみれば、「あの太鼓はいつやらしてくれるの?」ってそんな想いで折々に先生達におねだりしていたみたい。それを受けて運動会翌週、「運動会ごっこ、やらない?」と言う先生達の声を受けて子ども達がわらわらわらと集まって、ワクワク笑顔で運動会ごっこを始めたのでありました。
 撥を握らせてもらったなら、「コンコン、カン!」とリードする上級生の和太鼓に倣いながら後についてゆくたんぽぽさん。その中に見事な撥さばきを披露している女の子を見つけました。「とともしよる」と言う彼女の言葉に納得。そう、彼女は唐獅子の本場、日土は梶谷岡の出。梶谷岡と言えば記憶に新しいのはこの春卒園して行った『今は小学一年生』の男の子。涙もろくていつもみんなを後ろから見つめていたような子でしたが、秋祭りの頃になると太鼓遊びでみんなから一目置かれるような存在でありました。そんな子達を見ていて思うことは、リズムや短いメロディーの繰り返し(リフ)と言った類のものは、物心つく前から自身の生活の背景に流れ触れ親しんで来たものほど、知らず知らずのうちに自分の心の奥底に定着してゆくんだなと言うこと。分業化が進み、仕事を始めとして生活の中の様々なものが『家と言う空間』『家族と言うコミュニティー』から切り離されて、個人のものとなって来た現代社会。お父さんの仕事やその地域での役割などと言ったものを、子ども達が知り触れる機会が全くもって少なくなってゆきました。そんな中でもこの子達のように『繰り返しのリズムと共に輝く大人の姿』を目にしながら育って行ったなら、「自分も!」と思う気持ちがその音によってデフォルメされて大きく芽吹き、『僕らの想い』を受け継ぎながら育って行ってくれるのかも…と思ったものでありました。

 一方で運動会をやり終えて、久方ぶりに『自分遊び』に興じていた子達に目を向ければ、『砂場に座り込んでまったり砂遊び』。向こうで運動会のダンス曲が流れ出すと、野生の草食動物のように首を高く持ち上げ周りをキョロキョロ見渡すのですが、じきに目線を下に戻しまた砂遊びを始めます。ウサギやミーヤキャットのようなこの子達のしぐさに思わず笑ってしまいました。「ダンスも気になるんだけれど今はこれが大事なの」と言った想いと、『色んな情報を自分の中に取り込みつつ、遊びを選択する状況判断』が出来るようになったその成長を、嬉しく見つめたものでありました。でもそんなそれぞれの想いを尊重し合える空気が僕にはたまらなく愛しく思えるのです。みんな一緒にがんばった運動会。それをやり終えたちょっとほっとの小春日和に、『運動会』を反芻する子あり、今までお預けになっていた砂場遊びを満喫する子ありと、遊びと時間と空間を自分で選び取れるこの風土こそが日土幼稚園らしさ。お互いを認め合い多様性を受け入れ合う文化、それこそが『神の下の平等』の体現であり、子ども達の自主性を育み『自分らしさ』を素敵に伸ばしてゆく教育環境なのだと思うのです。

 そんな子ども達の想いが期せずして一致したのが、幼稚園の山に繰り出してのどんぐり拾い。九月に幾度となく接近した台風のせいでしょうか。その枝を見上げても実が生っているように見えなかったどんぐりの木に少々残念な想いをいだいていた僕らだったのでありますが、きっかけはたんぽぽさんと眞美先生。運動会で体を動かすことの楽しさを感じてくれたたんぽぽさん。大滑り台に興味を示してくれるようになりました。入園当初はあの坂道を登ることもままならず、滑り台も自分の足でブレーキをかけてコントロールすることが出来なかったこの子達が、果敢に山を登り上手に滑り降りて来る姿に感動さえしてしまいます。そんなこの子達に付き添うために滑り口まで一緒に登った眞美先生が、そこにどんぐりを見つけたのです。大風で振り落とされたどんぐりがここまで転がって来たのでしょう。お山にどんぐりがあると言うことが分かり、「どんぐり拾いに行こう!」と言う先生の声掛けにみんなみんなが馳せ参じます。初めは「ない!ない!」言ってた子ども達でしたが、段々『どんぐり拾いのコツ』が分かって来たみたい。最初に見つけたのはクヌギのフカフカ帽子。中身の入っていない帽子が一杯見つかりました。それならばと言うことでそのあたりの葉っぱの下を探してみれば、あったあった!『真ん丸どんぐり』。更にその他にも色んな種類のどんぐりが落葉の下から見つかりまして、それぞれのビニール袋が一杯になるほどの大収穫となりました。
 思えばこのどんぐり達。13年前の卒園生が植えて行った卒園記念樹。7人の卒園生が一人一本ずつ、色んな種類の苗を植えて行ってくれたものです。それがいつの間にかこんなに大きく育ち、丘の上から僕らを見守ってくれています。そしてその木の下で後輩達が喜びながら遊んでいる姿を見ているとこう思うのです。『希望は高く掲げ見つめるもの。幸せは足元をコツコツ探すもの』。そう、幸せを見つけられるかどうかは自分達次第なのです。頭の上に幸せを探してみても『ないこと』ばかり気付かされるもの。上を見上げそこに希望を見出しながら、しっかりとこの大地に足をつけて、日々の暮らしの中に自分自身の宝物を見つけ出そうとする心、それこそが何より大事。そして『そんな僕らに神様はきっと幸せの宝物を掘り出させてくれる』と改めて信じさせてくれた、まばゆい情景でありました。


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