園庭の石段からみた情景〜園だより2月号より〜 2023.2.26
2022発表会、振り返り考
 おかげさまで今年も『日土幼稚園発表会』を無事に終えることが出来ました。そこに至るまでには春の到来・寒の戻りの行ったり来たりを繰り返し、季節も子ども達も様々な『情勢』を見せてくれた、そんな日々でありました。でも本番までのその道のりを共に見つめ分かち合うことが出来たこと、そのことが私達にとって何より大切だったと今振り返って思うのです。『右肩あがりの上り調子』でやって行ってくれること、きっとそれが僕ら教師にとって一番の自己実現。『教えた通り』『言った通り』に子ども達が実行してくれたなら、きっと自己肯定感も最大限に満たされることでしょう。でもそれでは汲み取れない彼らの想いや成長の過程もきっとあるはず。「なぜこの子はここで引っ掛かるんだろう?」「なんで今日は練習に想いが入らないの?」、子ども達が発信する『言葉に出来ないその時の状況』を受けて先生達は、『自分の演出』や『指導方法』について考え、より良き手立てと投げかけを求めてゆこうとするのです。子ども達一人一人の感じ方や得手不得手を受け止めながら、その子がその子らしく表現出来るように、この子達に寄り添い考えてゆこうとすることそれこそが、僕ら教師にとって何にも代え難い大切な業であるはずだから。そうやって歩んで来た発表会までの道のりと、本番当日に子ども達が見せてくれたあの奇跡を、今いちど振り返りつつ語ってみたいと思うのです。

 最初の演目は合奏でした。練習を始めた頃には、とてつも無くばらばらだったこの子達のアンサンブル。大太鼓は遅れ・小太鼓は走るものだから、全体のリズムも定まりません。リズムの肝になるのが大小太鼓。4拍子で刻まれるこの楽曲、Aメロの2by2からサビの1by3の移譲も不安定で、なかなか形が固まりません。デッキの音源を聴いていれば自分でもリズムやそのパターンを切り替えるタイミングが分かるはずなのですが、なかなかその余裕が生まれて来ないこの子達。そこで美香先生が取ったのが『指先指示作戦』でありました。左手で大太鼓・右手で小太鼓のタイミングを指揮していた先生が、『ドン!ドン!タン!タン!』の時は『左右それぞれ指2本』を出しながら腕を振り、サビの『ドン!タン!タン!タン!』では『左指1本とグーの右腕』に変える工夫をしている姿が見られました。この『グー』と言うのは『ちびっこ鈴隊』が腕を打って鈴を鳴らす『シャン!シャン!シャン!』をイメージしたもの。指揮を見ながらリズムを取る子ども達なのですが、でもそのリズムパターンがあらかじめ分かっていなければ、始動が遅れたり打ち間違えたりしてしまうもの。練習初期はそんなことからわちゃわちゃばらばらになりがちだったこの子達の合奏が、2by2か1by3が分かるように指示が出されるようになってからは、本当に安定してリズムを取れるようになりました。
 元々ちょっと自信のない大太鼓と、舞台の上に立ったなら全力でがんばる小太鼓ペア。その音のアンバランスさが他の子達に「大小太鼓を聞いてついてゆこう」と言う気になかなかさせてくれません。最初は小太鼓の大きな音に思わず耳を塞いでしまう子達もあったほど。そこでこのバランスを整えるために小太鼓に『ミュート』が取り付けられました。これは最初2枚のフェルトの布切れを小太鼓に覆いかぶせただけのものだったのですが、本番までに美香先生が形を整え縫い合わせ、本格的な弱音器に仕立ててくれました。叩いているうちにずれたり落ちたりしていた布きれが、そのおかげでぴったり小太鼓にフィットして安定した音を奏でてくれるようになったのです。これまで毎年毎回、小太鼓を演奏に使うその度に、音のコントロールに四苦八苦していたのですが、これは思いっきり叩いても他の楽器とのバランスが取れる素晴らしい弱音器となりました。本番では自信を持って叩けるようになった大太鼓の頑張りと相まって、みんなをリードする素晴らしい大小太鼓のリズムパートとなりました。その安心感に包まれながらトライアングル・タンバリン・鈴の打楽器隊が自分達のリズムを奏でます。本番でもリズムを打ち間違えた子があったりもしたのですが、大小太鼓の音を聞きつつ・美香先生の指揮に目を送りつつ、なんか違う自分のリズムに途中から気がついて、本来の演奏に復帰出来た場面もありました。周りの音や情報にも注視していなければ『独りよがり』で終わってしまう可能性があるのがこの子達の合奏。そんな中、みんなで一つの流れに収束してゆくことの出来た今回のこの演奏を聞きながら、「あ、今みんなで響き合っているよね!」とその音にこの子達の想いを感じ嬉しく思ったものでありました。
 美香先生の編曲も素晴らしかった。オープニングの『ちゃらららん』と言う音に重ねてツリーチャイムを配した演出に、『この絵、いいねぇ』と感心されられたもの。他に演奏音がない出だしの静けさの中、デッキの音とツリーチャイムの生音がシンクロし響き渡った『ここぞ』とばかりの使い方がとても印象に残ったものでありました。また木琴も最初はリズム楽器隊に入っていたのですが、本来音階を持つ楽器です。楽曲のキーがFだったので「ドとファで叩いたら」と提案してやってみたのですがそれが結構難しかった。練習もがんばってしたのですが、まだピアノも習っていない年中さんに音階楽器は難しかった。音階あり・リズムあり、そのリズムパターンも曲の途中で変わると言う難易度に、真面目な彼女の表情がどんどん曇ってゆきます。そこで彼女と先生が話をしまして、「むずかしい」と言う彼女の独白に編曲を変えてくれた美香先生。ツリーチャイムと同じく効果音楽器として再配置し、『トゥルルルル』と奏でる『グリッサンド奏法』に変更してくれました。合奏中も『トゥルルルル』で活躍していた彼女だったのですが、見せ場も最後のサビ前に作ってもらい、他の楽器が小休止している中、木琴の『トゥルルルル』と言う独奏がホールに響いたのを嬉しく聞いていた僕でした。またもう一つの効果音楽器『シンバル』は、じっとじぃーっと待っていて、自分の出番には一発で『ジャーン!』を決める一発必中の難し処。練習時、まだ他の指揮に先生が一杯一杯で『ジャーン!』のタイミングの指差し指示が出来なかった頃、かなりの確率で彼女の『見送り三振』や『遅れてジャーン!』があったもの。でもふわふわしているように見えて集中力の高い彼女は、練習を積み重ねてゆくうちに『自分の出番』を理解して来てくれたみたい。演奏中もじいっと先生の方を見つめながら、自分の出番が近づいて来るのを感じつつ、ちゃんと指揮も確認した上で『ジャーン!』ってやってくれまして、合奏に華を添える見事な『ジャーン!』を聴かせてくれたのでありました。
 そんなお兄ちゃん・お姉ちゃんのがんばりにぶら下がっていただけのような状態から始まったのが年少さん。『やっているの?やっていないの?』とそんな感じの『ばら鈴隊』だったのですが、「それもしょうがないかなぁ」と思う所もありました。上下クラスに分かれての劇練習が行われた後、ホールに集まり一緒に練習をしていた年長中少の『合奏連合艦隊』。劇を一生懸命やって来て、がんばり疲れた状態での合奏なので、小さい子達の気力はなかなかに残っていません。そんな状態で『大太鼓と一緒』『小太鼓と一緒』と言われてもなかなかついてゆくことが出来ません。しかし大太鼓・小太鼓が安定してリズムを刻めるようになりますと、先生にも余裕が出来て前列の打楽器隊に向けて直接指示を出せるようになりました。それが功を奏したのでしょう。気紛れなところは最後まであったのですが、本番の舞台ではあくびをしたりよそ見をしたりもしていた『ばら鈴隊』が、時より我に返り覚醒した瞬間に目の前の先生の指揮に導かれ、大いに合奏に参加していた姿を見せてくれたのでありました。本番舞台ではすみれさんからばらさんまでこのように、僕らが期待していた以上の合奏が披露され、その成長の喜びを皆さんと分かち合うことが出来ました。こんな風に三学年、個性もスキルも様々なこの子達が、一つの楽曲を美香先生の指揮に導かれ、「みんなでなんとか合わせよう」と最後までがんばってくれたこと、それが何より嬉しいことでありました。二人のすみれががんばる姿を下の子達に指し示し、それを見ながら・その音を聞きながら年中の子ども達ががんばってついて来て、年少児はそんな上の子達からのメッセージを受け止めて『自分なりに出来る形』で合奏を体現してくれたことによりまして、本番では素晴らしい『ひとつのアンサンブル』が僕らの目の前で披露されたのです。みんな本当によくよくがんばりました。

 続いて行われたのがばら・たんぽぽのオペレッタ『がんばれ ねずみのおてつだい』。前日の練習まで眞美先生が全部声に出して指示をしていて、「本番でも声出ちゃうんじゃない?」「声がなくなったら子ども達、出来なくなっちゃうんじゃない?」といらぬ心配をしたものです。確かにCD教材が音源のこのオペレッタは子ども達が遅れ出したとしても、止まって待ってはくれません。先に先に動いて行かなくては間に合わないのですが、いつもワンテンポ遅れたような感じで練習をしていたこの子達。それが本番では一言も発しなかった眞美先生。表情や指先で指示を送りながら子ども達を信じ見守ります。それに対してこの子達は僕が見た練習の3倍の速さでささっと動いてくれているではありませんか。そのおかげで出番のタイミングも余裕で待ち受けられていた、そんなこの子達でありました。
 一番最初のぞうさんは大きな丸太を担いでの登場。太いまるたんぼうはこの子達がやっと抱えられるほどの大きさで、ばらぞうさんはそれを二本持っての登壇です。練習では掴みどころが分からなくてアタフタしているうちに曲が進んでしまって、いつもちょっとお気の毒に感じたものでした。しかし本番では二人とも出だしの起動がすさまじく早くなっており、その俊敏さに目を見張ったもの。踊り始めのタイミングにもばっちり間に合い、丸太を持ちあげての『ぞうさん力持ちダンス』を嬉しそうに踊って見せてくれたのでありました。その情景を見つめながら、「よくよく練習して来たよね」と感動さえさせられたもの。先生の言葉の一つ一つがその場限りのものでなく、ちゃんとこの子達の中に入って息づいて、しっかり『自分のもの』となったそんな姿に感銘を覚えたものでありました。
 この子達がとても細かい演技をしてくれていたのも印象的でした。みんなで『なかよしハウス』を作るくまさんのシーン。大工道具を使って家を作る場面では、柔らかく膝を使いながら『ふんふんふん』と揺れる動きで大工さんの腕さばきを魅せてくれた男の子。「この子は『表現』が好きなんだなぁ」と嬉しく思いながら見つめたものでありました。帰りの園バスの中で一緒になるこの男の子。話始める前に律儀に「しんせんせい」「しんせんせい」といつも僕の名を呼んで来ます。他の子達も自分の話を聞いて欲しくて矢継ぎ早にしゃべりかけて来るので、バスの中での僕は聖徳太子状態。何人もの話を聞きながら、言葉のパスを返したり、「そうなのー」とうなづき相槌を打ってみたり。そんな中で彼は「なに?○○ちゃん」と言葉を返すまでずっと「しんせんせい」と僕を呼び続けるのです。『はい、聞いているからどうぞ』と僕のインターフェイスがつながったことを確かめて初めて、安心して話し始めるのでありました。そんな生真面目な彼にとって『はい、ここは君のオンステージ!みんな見ているから張り切ってどうぞ!』と言う発表会のシチュエーションは、実は最もモチベーションの上がる最高の舞台なのかもしれません。そう思ったなら発表会も捨てたものではありません。ちょっと押しの弱い、でも本当は自分を顕すことが好きな子達にとって、誰にも気兼ねなく思いっきり自己表現出来る舞台として用いられたならば、それが何より尊い教育課程になるに違いありません。舞台が苦手な子もあれば、舞台でこそ生き生きと出来る子もあって、子どもの多様性とはなんとも不思議で面白いものだと思ったシーンでありました。
 続いては女の子二人のきりんちゃん。「きりんが好きなの!」と言う彼女達はかわゆい『きりん帽』を被ってご機嫌さん。体をくねらせながらペンキを塗る様を見ていると、「これがこの子達の『がんばってるきりんさん』の体現なんだな」と思ったもの。大きなストロークでぶんぶん刷毛を振るこの演技、きりんの大きさを表現しているんだよねと思いつつ、この子達の大胆かつ独創的な演技を一人思い出していた僕でした。練習の時、登場曲の尺に間に合わずあわてて刷毛を投げ飛ばしてしまった女の子。それはさすがにダメ出しをされたのですが、彼女なりにとっさに考えて繰り出したアクションだったのでしょう。おっとりちゃんのように見えて、実は結構大胆なところを見せてくれる舞台上の彼女。本番ではぞうさん同様、次の動作を予測しながら動き出しを早くすることによりまして、これまたたっぷり間に合うようになりました。そんな一生懸命かつ時々大胆なきりんさんチームでしたが、彼女達も本番では嬉しそうに自己表現してくれていたことがとてもうれしかったです。
 そしてそんな仲間達のお手伝いがしたくって、あれこれがんばってみたけれど上手く行かなかったねずみ君。丸太を持ち上げられずにヨタヨタ横移動するその姿は、M-1グランプリで優勝したマヂカルラブリーのネタ『つり革』を彷彿とさせて、思わず『くすっ』としてしまいます。どちらも真剣・大真面目に演じているのですが、『僕らの想像との乖離』が笑いにつながるもののよう。あの子達からしてみても『張りぼて丸太』は軽々と持ち上げられるはずなのに、それを重そうに・持てないように見せる演技で大奮闘。時よりふっとおもむろに持ち上げてしまったその時に、『いやいや重いの!持てないの!』と言う眞美先生から発せられるメッセージに我に返ります。他の動物達はその役柄になり切りながらも、子ども達自身も自分の全力を持って体ごとぶつかって行けるそんな役。ぞうさんは力持ちらしく丸太を軽々と持ち上げて、くまさんはリズミカルに道具を使いこなし、きりんさんは背の高さ・腕の長さを生かして上下左右に刷毛を振ってペンキを塗りつけてゆきます。それぞれみんな大きくなった自分・出来るようになった自分をその姿に投影しながら、喜びの表現を体全体で顕しています。でも『出来ないこと』を演じなければならなかったねずみさん。身をかがめてよろよろ左右によろめくその所作には『がんばらないことをがんばる』と言う哀愁の自己矛盾のジレンマがあったことでしょう。そこから展開する「あー、がっかりだぁー」の場面では、本当に表情までしょんぼりとしている顔を見せてくれたこの子達。それは本当にそう言う想いだったのかも。せっかくの発表会、『あれも出来る』『これも出来る』ってところをお母さんに見せたかったのに、『出来ない』『出来ない』『出来ない』の三連発。「あー、がっかりだぁ」となるのも演技ではなかったのかもしれません。でもまたそこから自分にしか出来ない『お手伝い』を見つけ、それを仲間みんなにも喜んでもらえ、演じるねずみ君も見ているお客さんもカタルシスを感じられるそんなこの物語。その中で見せてくれたこの子達の『演技』は、どこまでが『演技』でどこからが『リアルな想い』なのか分からない『無作為の作為』で、そんなところまで昇華出来たこの子達の舞台を嬉しく見つめた僕でありました。
 そんな劇の中でばらさん達は自らの存在感をしっかと発揮してくれまして、本番では「さすがのばらさん!」と言う感じで劇をしっかり支えてくれました。勢いのたんぽぽさん、でも時々抜けちゃったり尻つぼみになっちゃったりと、満三歳児ならではのむらっけも垣間見られます。でもその時にどこからか聞こえて来る大きな歌声とセリフ達。その発信源を探して目で追えば、必ずそこにばらのお兄さん・お姉さんがいるのです。練習ではこんな姿を露ぞ見かけなかったし、いつもやる気満々のたんぽぽさんに気おされて影の薄かったばらさん達。でも練習を繰り返してゆくうちに、先生の言うことをきっちり自分のものにしていたのは、ばらさん達の方だったのです。常々「たんぽぽさんをたのむよ」と言ってくれていた眞美先生の言葉をしっかと受け止めて、たんぽぽさんが引いちゃった時には「自分がやらなくっちゃ!」と言う想いを奮い立たせてがんばってくれたのでありましょう。そんな姿にこの子達の成長を感じ、嬉しく見つめたものでありました。いつもはやる気なさげにやっているようにも見えるばらさん達、実は『本番舞台に強い』と言うことも見えて来た今回の発表会。最初っから張り切って見せるのは気恥ずかしいけど、しっかりとコツコツ学んだものを自分のものにしてゆく力を十二分に持っているこの子達。やる気満々でがんばれる自分が嬉しいたんぽぽさんと、本当に良いペアとなって挑んだこの『ねずみのおてつだい』。お互いに影響し合って良いところを伸ばし、素敵に成長し合って来てくれたと思っています。今年度途中入園の子がほとんど(9名中7名)のこの子達を導きながら、この劇をここまで仕上げて来てくれた眞美先生・玲子先生に心から感謝です。

 さて、最後はすみれ・ももの『ぽんたの じどうはんばいき』。人前と舞台上が苦手だったすみれさんが、大きな声でぽんたを演じてくれたことにまず驚かされたものでした。セリフもしっかり覚えているのに緊張すると喉が締め付けられるようになって声まで裏返ってしまう男の子。これは『出来ない』とか『やらない』と言う次元のものではなく、『やりたくてもそうなってしまう』と言うものであることを、ここに至るまでの三年間に僕らも一杯感じて来ました。今回の練習でも最初はやはりそんな様子だった男の子。でもある時からぐんと変わったことを感じました。美香先生との間でどんな話し合いがなされたのかは聞いていないのですが、確かに変わった瞬間がありました。『どうしようもない自分』を抱えている彼を受け止めながらも、その一歩先に足を踏み出すために一生懸命想いを投げかけてくれた美香先生。彼も『そんな自分を脱ぎ捨てたい』と言う想いを抱きしめながらこの劇に挑んだのでありましょう。いつも友達に助けられて来た彼が、今回はバディとなるももさんを『自分がリードして行かなくっちゃ』と言う想いを持ってがんばれたことによって、これまでの自分を吹っ切ることが出来たのかもしれません。そのももさんも尻尾が引きちぎれるほど体を振りつつ自己表現をしてくれて、この子もすみれさんに引っ張られて自分の殻を破ってくれた一人となりました。繊細かつ豊かなアイディアの持ち主で、恥ずかしくてもいざとなれば「えい!」とがんばれたあのぽんたは、この子達そのものだったのかもしれないとそんな風に思ったものでありました。
 お次のライオンさんはお調子二人組とちょっぴり怖がりさんのトリオです。このライオン、劇の中で場を盛り上げ勢いをつけてゆく大切な役どころ。なのでちょっとオーバージェスチャーに演じて欲しい美香先生とその想いをしっかり汲み取り演技に生かそうと発奮してくれたこの子達。最初はセリフや流れが自分の中になかなか入って来なくって、三人共自信なさげにやっていて、なんだか頼りないライオンでした。それがこれも練習の途中から、『自分達に期待されている王様ライオン』と言うイメージをみんなで共有出来るようになって来て、それを精一杯演じようとがんばっていた姿が印象的でした。これも『やってみたなら気持ち良い』『やって出来たら嬉しかった』、そんな想いがこの子達の中に次第に満ち満ちて来て、どんどん良い感じの王様ライオンとなって行ったのです。本番では三人が三人共、お互いに誰にも引けを取らない凛々しい王様ライオンを演じてくれたのが、僕にとっても嬉しいことでありました。
 次に出て来たのはおしゃれな狐の女の子。軽やかにスキップを踏みながらの登場は、最近体を動かすことの心地良さを感じ元気に運動遊びに興じ始めたこの子達の近況をプレゼンしているようにも見えたもの。またセリフの言い回しなどにも巧妙さが光っており、「さすがはおしゃべり上手な女の子」と言った感じ。いつも一杯一杯しゃべりまくっている『日常の自分』が生かされていると感じたものでありました。そしてお互いに互いをよくよく見合っている仲の良さが伝わって来たシーンもありました。自動販売機から出て来た首飾りを自分の首にかけようとした時、一人の子のお面の耳にその一端が引っ掛かってしまったのです。自分の体ではないお面に突出してついている狐の耳、なかなかその距離感が分からずに引っ掛かりを直せなくて困っていた彼女を、相方の女の子がささっと助けてくれたのです。そんな演技や練習もそれまでありはしなかったのに、とっさに自分から動いてバディを助けてくれた女の子。これはすごいと思いました。『演技が出来る』『劇が上手』だけじゃない、『困っているお友達を助けてあげたい』と言うこの子のまっすぐに伸びて来てくれた優しい心の成長を、嬉しく見つめた情景でありました。本番のこの場面、今回の劇の中で僕が一番好きなシーンとなりました。
 さて、満を持して登場したのがすみれのおさるさん。一人で担う大きな役処なのですが、彼の『泣きの演技』も見ものでありました。去年までは『素の泣きっ面』がしょっちゅう見られた男の子。でもそれがいつの頃からかグッと涙を我慢してがんばれる男の子になりました。こんな舞台の上も苦手でいつも涙目になっていた彼が、『人から期待されていること』を前向きに受け止めて、こんな場でもがんばれるようになりました。そんな彼が「えーん!」と演じる泣き演技。本物の涙を一杯一杯流して来たこの子だからこそ、おさるさんの痛みや不安が自分のこととしてよくよく分かり、その気持ちになり切って演じることが出来たのでありましょう。痛みが引いた後の嬉しそうな顔との対比が本当に素晴らしい、彼だからこそ出来た演技だったと思ったものでありました。
 さあお待たせしました、しんがりはぽん子ちゃん。普段は明るく元気な彼女なのですが、実は恥ずかしがり屋のかわゆい乙女。ゆらゆらくねくね身をくねらせながら演じるぽん子ちゃんは彼女自身。でもぽんたが出て来てくれたなら、急に積極的になっちゃう押しの強さがあるところも彼女っぽいところだよねと、なんか嬉しい想いで見つめたものでありました。きっとこの後はぽんたをお尻に敷きながら、自分の幸せを一杯一杯見つけながら、仲良く暮らしてゆくんだろうな…なんて思いつつ見つめた大団円でありました。

 今回は時間をかけて一つ一つの思い出を振り返って来たのですが、これでもまだ語り尽くせていない想いや子ども達のエピソードが沢山あります。ですので皆さんにも子ども達の口から・先生との対話から・そしてプレゼントしたDVDなどから、新たな発見を拾い上げ、『嬉しい想いの分かち合い』を一杯して欲しいと思うのです。演目としては3つの発表会となりましたが、あの中には本当に沢山の物語・子ども達の成長の足跡が綴られています。それを発掘・回収し、子ども達との関り・そして子育てにフィードバックすることこそが、この発表会とこの幼稚園の働き・そして存在意義を証しするものになってくれると信じています。またこんなに様々ばらばらなこの子達の個性を受け止めながら、それを生かし『自分らしく自己表現すること』に昇華してくれた先生達にも感謝です。この子達一人一人、得意も不得意もある中で、やる気の出る日・ちょっと乗り気になれなかった日もありました。でもそんな子ども達の想いを受け止めて、先生自らの想いも精一杯投げかけて、お互いに嬉しくなれるように励ましがんばって歩んだ発表会までの日々。みんなで一生懸命練習に取り組みながらもそれ一辺倒になることなく、この子達のがんばる心の糧を生み出すために『やりたい活動』や自由遊びも一杯させてもらったからこそ、こんなにも素敵でみんなにとってうれしいご褒美を、神様は与えてくださったのでありましょう。子ども達・先生達・見守ってくださったお母さん達・そして何より神様に、心から感謝感謝の発表会でありました。


戻る