園庭の石段からみた情景〜春の書き下ろし〜 2023.3.22
帰郷2023春
 今年は年明けから『春が遅い』と思い過ごして来たのでありましたが、卒園式を迎える頃になって急にその歩を速め出し、あっと言う間に幼稚園の丘をお花畑にしてゆきました。それはまるで今年のすみれさんのよう。いつまでも頼りなく感じていたこの子達が、『卒園』に向き合う頃になったなら急に凛々しく立派な立ち振る舞いをするようになり、『ふたりっきりの卒園式』では彼ららしく声を震わせ・涙をぼたぼた落としながらもすっくとその場に踏ん張りながら、華々しく最後の雄姿を僕らに見せつけ巣立って行ったのでありました。そんな式を終えた後は例によって柔らかな春の陽射しの中で、なぜか心地良い『燃え尽き症候群』に包まれてしまう僕。懐かしい思い出に浸りつつ、春休みを過ごしている僕なのです。

 それは幼稚園卒園式前日のこと。中学校の卒業式を終えまして、お母さんと一緒に幼稚園に来てくれた3人の女の子がありました。「大きくなったねぇ」の言葉で彼女達を出迎えた僕。一年半ほど前の職場体験学習で来た時に会っているのですが、そこから更に背が伸びて遠目に見た時には僕と同じくらいに見えた女の子。身長を尋ねたら165cmと言う答えが返って来たのですが、もっとずっとあるように見えたもの。細身で小顔のバランスからのその身長なので、そう感じたのかもしれません。もう一人はスポーツで大活躍していると言う、小麦色の健康美。僕らの世代が表現するならば早見優のような素敵なお嬢さんになっていました。相変わらず口数は少ないのですが、卒業したての嬉しさも相まって、可憐な笑顔をずっと見せてくれています。真面目で緊張しいだった彼女は難しい顔をしていることが多かったのですが、今回は控え目ながらに明るく微笑んでいる笑顔がとてもまぶしかったです。そしてもう一人は一足早く『女子高校生』って感じで、巧みな言葉遣いとテンポの良い会話を繰り出す素敵な女子になっておりました。そんなところはお母さん譲り。昔は「この子はお父さんに似ていて、すぐに黙っちゃうんです」などと言われていたのに、今ではそのお母さんとぽんぽんと会話ラリーを交わしている彼女。高次元の言語コミュニケーションを僕の目の前で繰り広げるこの母子に、『お母さん似でしたね…』とひとり思ったものでありました。
 そんなお母さん達が聞かせてくれた一人一人の近況や足跡について、彼女達もリスペクトし合いお互いを評価している様子が感じられたもの。昔だったら、誰かが評価されたなら、「わたしはね」と話を差し込んで来てバチバチ意識し合っていたようなところがありました。幼稚園時代から切磋琢磨で競い合っていたこの子達。小学校ではずっと一緒だったのが中学に上がると3クラス編成になりました。そこでまた共に居る時・離れる時を過ごして来た3人娘。新たな友達との交友もあったでしょう。シャッフルされた人間関係の中に身を置いて、改めてお互いのことを見つめ合った中学三年間であったのでしょう。その時を経て『なんでも競争ばかりでなくてもいいんじゃない?』と言う境地にたどり着いたのではなかったでしょうか。そんなお互いの距離感を味わい楽しめるほどに、幼少期から築いて来た友情を更に深めることが出来たこの月日。なんか3人が一緒にいながらにして、その関係性に何とも言えない柔らかさを感じ、嬉しく思った僕でありました。一人の子が持って来てくれた卒業アルバムの表紙裏には、もう一人がしたためた手書きのメッセージがありました。そこには自身の想いとその子に対する感謝の言葉がしたためられており、改めて彼女達の『今の関係性』を感じさせます。こう言う情景を見ていると『幼馴染っていいもんだ』とつくづく思うのです。卒園から9年、幼稚園入園で共に過ごすようになってからは丸12年。神様に導かれてそれぞれこの幼稚園にやって来てくれた彼女達が本当に良き出会いを与えられ、素晴らしい交わりの時を過ごして来れたんだねと、嬉しかった僕でありました。
 見せてもらったその卒業アルバムには懐かしい顔も一杯一杯載っていました。「わかります?」と半分クイズのように僕に問いかける6人の女の子達。そう言いながらも先に先に答えを言いたい言葉が漏れて来て、こちらもついつい笑ってしまいます。スポーツ刈りが印象に残っていたのに、今時のほわっとした髪の毛になって写っていた男の子。彼はサッカーをやるために校区外の高校を選んで挑戦中。「あの髪型はサッカー由来か?」などと思いながら見つめていると、「○○ちゃん、制服のボタン、みんななくなっちゃったんですよ。袖のも」と彼のモテ男ぶりを話し聞かせてくれた彼女達。真面目だけど愛嬌を周りに振りまくことが出来なかった昔の姿から想像出来ない彼の近況。硬派なところが『今時女子』に受けたのか、はたまた見た目と同じくキャラもモデルチェンジして愛される男になったのか、想像を膨らませて一人楽しんでいた僕なのでありました。また切れ長の瞳は幼稚園当時の面影を残しながらも顔が縦にすらっと伸びた男の子、愛くるしいワンコのような笑顔はそのままに一回り大きくなった顔で弾けるくらいに笑っていた子もありました。その他、一年しか日土に来れなかった子達も、その名前とポートレートから今の近況がリアルに伝わって来るみたい。そんな一人一人に対するコメントを、サービス精神たっぷりに話して聞かせてくれた彼女達に心より感謝でありました。

 幅広い人脈と磨きのかかった話術を駆使して『今の自分達』についてプレゼンして行ってくれたこの子達。彼女達のおかげで嬉しい『卒園生の今』に触れることが出来、僕らに勇気と希望を与えてくれたそんなひと時となりました。この子達は今、春を颯爽と追い越して、まばゆく輝く夏へと想いを向けて歩き出そうとしているところ。そんなことを一杯に感じさせてくれた『嬉しい帰郷』となりました。


戻る