園庭の石段からみた情景〜園だより4月号より〜 2022.4.14
新たなる季節の『はじめの一歩』
 今年の春は『ホップ・ステップ・ジャンプ!』の勢いで、幼稚園が始まる頃には『夏日』を記録するほどに気温も上がってしまいました。それにびっくりしたのが自然の生き物達。ついこの間まで寒い冬が続いていたのがあっと言う間に暖かくなったので、野山では一気に色んな種類の花が咲き乱れ、「夏の短い北国の春ってこんな感じなんだろうね」と実感したものです。また砂場の砂の中からトカゲが飛び出し子ども達や先生を驚かせたと思いきや、園庭では容易に子どもの手によって捕まったアカガエルもあったりして…。きっと冬眠明けの『寝ぼけまなこ』のカエルだったのでありましょう。おなかはでっぷりとして動きは超スローモー。夏本番の絶好調時であったなら忍者のようにその身を潜めているので、こんなに簡単に子どもに捕まるはずもないんだけれど…と思ったもの。この体たらくに、「寝起きに食べた物がおなかにもたれていたのかなぁ」とも思った僕でありました。
 またある朝のこと。門の前の掃除をしていたのですが、とてもきれいな鳥の鳴き声が聞こえて来ました。声のきれいな鳥は留鳥でもおり、日土の里でも一年中声を聞くことが出来るのですが、普段は聞かないその鳴き声に(野鳥はその種毎に鳴き方が違うのです)「もう夏鳥がやって来たの?」と思いその姿を探しました。すると幼稚園の中庭の築山で黄色い鳥の影を見つけました。一度は死角に隠れたその影が、再び枝の上に姿を現すと、黒地に黄色いラインの入った横姿が確認出来ます。キビタキです。東南アジアから渡って来る夏鳥で、この辺では夏に出石寺で見かけたことのある渡り鳥。標高600mを超す『おいずし山』で夏を過ごすこの鳥が幼稚園の庭にいるなんて…。正に目的の山を目指す旅の途中だったのでありましょう。なかなかに出会えることのない旅鳥を我が庭で見かけるなんて、このキビタキが今年の僕らにとって『幸せの黄色い鳥』と思えたすがすがしい朝でありました。
 一方、その日朝バスの中から見た喜木川で見つけたのはなんとオシドリ。こちらは急に暖かくなったので北国への旅立ちが遅れちゃったのでしょう。「今頃こんなところにいて大丈夫?」となんだか気の毒な気がいたします。このように季節の乱れによって振り回されている自然の生き物達。本来の自分の居場所を求めて、自分の暮らしのリズムをもいちど探しながら、このうつろいゆく季節に対応しようとしているみたい。でもその『自然の最たる者』である子ども達も、長い春休みを明けてやって来た幼稚園で、新たなる生活の中でそれぞれに希望と戸惑いを見せています。でもでもきっとそんな彼らも新たな環境に順応しながら、ここから自分らしく歩いて行ってくれることでしょう。

 新年度が始まりまして、ほとんどの時間を11人全員で過ごしているこの子達。これまでは同年代のクラス割りにどうしても競争意識が働いていたのですが、3歳から5歳までの子どもが同居している今年のクラスは『みんなそれぞれ』のまったりムードを醸し出しています。生活の流れはたんぽぽで経験しているものの、ばらさんに上がって新たな環境の中で改めてがんばっているおふたりさん。バスに乗る時、車から自分のお部屋に向かう時、気分の乗らない日もあります。でもお母さんに背中を押されて促され、その日の始めの一歩を前に踏み出せば、そこからなんとか自分の想いを立て直しつつ、自分の嬉し楽しい想いを探しながら幼稚園にやって来てくれています。それはオモシロ会話のキャッチボールだったり、道すがら目に飛び込んで来る自然の風景や草花だったり、その子によって・その日によって様々。でも何かをきっかけに「えへっ!」っと笑ってくれたなら、そこから気分は『前向き回復』に向かってくれて、幼稚園の一日が楽しいものとなってゆくのです。そんな彼らに対して手を変え品を変え言葉を変えて、『あたり』を探りつつ楽しませてもらっている僕と、そんな僕のおとぼけや『おじさんギャグ』に笑って応えてくれるこの子達。言語コミュニケーションがようやっと上手になって来て、自分と相手との言葉のやり取りを楽しめるようにもなって来て、その中にある『ちょっとピンボケ』の冗談に「それおかしいよ!」と笑ってくれているこの子達。そんな2歳から4歳頃の子ども達って、人生の中で一番かわいいと思うのです。素直に言葉や想いを返してくれるのがこのお年頃。何をやるのも一生懸命。でも出来ない事は一杯あるし、大真面目の『ちょっとピンボケ勘違い』なんてのも山ほどあります。まあそれに近い僕だからこそ、そんな彼らに向き合うのには丁度良いのかもしれません。
 また新入園で仲間に加わってくれたももの男の子。新たな園生活の中で知らないこと・分からないことが一杯あって、時々不安そうな顔をしています。でも「大丈夫だよ」と笑いかけると笑顔を返してくれるので一安心。突然やって来た新たな環境の中で分からないことがあるのは当たり前。でも「そんなこと、なんてことないんだよ」って想いを伝えることが出来たなら、彼の笑顔もこれからどんどん増えてゆくことでしょう。実は愉快でおしゃべりで面白いことが大好きなこの子の素顔を一足早く見せてもらっている僕。にぎやかでお調子大好きな仲間達に囲まれて、すぐに自分を出せるようになってくれるはずと信じています。

 慣れないお友達をみんなで優しく囲みながら、自分達も新たなる成長を見せてくれている子ども達。そしてそんな子ども達をみんなで見守り、手を差し伸べ言葉を投げかけてくれている先生達。今年は新たな『育ち合い』の形を僕らに見せてくれるでしょう。新たな環境の中でそれぞれに、自分の立ち位置や関わり合い方を模索し確かめ合っている今日この頃。居心地の良い場所・そして自分らしくいられる関わり方を見つけ出し、みんなみんなでつながり合って行ってくれることでしょう。


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