|
<彼と彼女のスーパーゴール> 今年の季節は本当にもって乱高下。『今時、真夏日』なんて報じられたかと思ったら、幾日も経たぬうちに各地で『初雪・初冠雪』と言うニュース。まあ、暦を数えればそんな時節にもなりつつあるのですが、とにかく気まぐれな急変に振り回されてばかりのこの一年でありました。でも考えてみればこれまでがあまりに平和安寧だったのかもしれません。『いつもの年のように』『いつも通りに』が通用して来た日々の中、僕らはいつの間にか『自分基準の時間軸』で物事を受け止め・考える習慣をこの身につけて来てしまったのでしょう。確かに『今時分はこんな感じ』のセオリーは破綻して来ています。でも毎年どこかで『それなりの季節』への帰参が赦されて、冬が夏になることはありません。季節をやり直すための『寄り戻し』としてこんな急な変化が用意されているのだとしたならば、それは喜んで受け止めなければならないものなんじゃないかと、自分に言い聞かせている今日この頃です。 『自然は自分の思うようにはなってくれない』『子ども達は自然そのもの』と言うメッセージを常々発信して来た僕。だからこそ『自分の予想に反した喜びを与えてくれるのも、これまた自然』もまた信条。先日、チューリップの球根を植えるために母屋から外に子ども達が出ようとしていた時のことでした。ある男の子が先生に「名前の人から?」と尋ねます。とっさ且つ言葉足らずの問いかけに先生が「んー?」と考え込んでいると、居合わせた女の子が「『名前を呼ばれた人から来てくださいって言ったの?』って聞いたんだよ」と通訳してくれました。そんな彼女に「へー、分かるの?すごい!」と感心してしまった僕ら。それにしても先生が状況に応じて子ども達に投げかけている言葉をちゃんと覚えていて、もう一度確認を取ってから行動しようとしたこの男の子。準備や移動中に耳に飛び込んで来た「みんな外に出て」の先生の言葉の『みんな』を聞き逃してしまったのでしょう。『この状況で先生が求めているのはこれ?』と相手の想いに合わせようとする思慮深さに驚かされたものでした。自由奔放で『うひゃうひゃお調子』が大好きなこの彼が、『こんな時にはこうするんだ』とか『先生はこうしてって言っている』を良く理解した上で「ちゃんとしよう!」と思ってくれた誠実さを顕したこの姿。そんな彼の突然の成長を嬉しく感じさせてもらったものでありました。 またこの子の言葉を拾ってその想いを僕らに伝えてくれた女の子。日頃はマイペースでのんびりしているような彼女ですが、先生の言葉や友達の行動をその『ぽーっと時間』の中で一杯取り込んでいたのでしょう。その時々の情報を自分の中で瞬時に再構築してリアクションとして返す『演算処理』が追い付かず、見た目には『のんびりさん』となってしまうこの女の子。でも感度の高いアンテナをもって、色んな情報を自分に取り込んで来た彼女が、足元に転がって来たチャンスボールにこれまでの蓄積に裏付けられたピカイチの考察力をもってゴールに導いてくれた、そんなスーパープレーでありました。彼女がそんな『潜在的パフォーマンス』を見せてくれたことをこれまた嬉しく感じた僕。何気ない日常の中で彼と彼女が見せてくれた、素晴らしいコンビネーションによるスーパーゴールでありました。 でも幼少期の子ども達の成長ってこんな風に行なわれてゆくものなのかもしれません。僕らは自分の時間軸で『今時分はこんな感じ』と言うセオリーと照らし合わせながら、「早い!」「おそい!」と一喜一憂してしまっているのかも。そもそも人の脳は100億〜1000億もあるニューロンと呼ばれる神経細胞からなり、それらは互いにその出力をシナプスと言う接合部を介して受け取り合っています。このシナプスの結合が強いと『興奮性』が付加された情報が次の神経細胞に伝えられ、最終的に『行動』と言うアクションにつながってゆくのです。せっかく情報が入って来てもその受け渡しが起こらなければ頭の中で伝達反応は起こらずに、『ノーリアクション』でチャンスボールも全部スルー。でも『楽しい』とか『面白い』と言う好奇心や探求心によってそのシナプスの結合力が強化されて行ったなら、それによって子ども達・そして僕ら大人も『出来ること』を増やしてゆくことが出来るのです。難しい解説文を読み解きながらその理論をここで紹介したのですが、ここに『興奮性』と言う言葉が用いられていなかったなら、僕もこんなイメージ化は出来なかったでしょう。リモコンならは『押した通り』のリアクションがその瞬間に返されるのですが、僕ら人間は興奮することなしにそのアクションを体現することは出来ないのです。そのためには『楽しい』『気持ちいい』をフレキシブルに感じられる環境と、それに対して繰り返し挑んでゆける状況の確保が何より大事。またそれを連続して詰め込んだらいいと言う訳でもなく、子ども達が『興奮性』と言う自らの想いを持って取り組まなければ分化しない、そんな能力だと思うのです。成長のためのインプットや成功体験が全ての子どもに同じように与えられる訳ではなく、それをチャンスボールとして進むシナプス結合の分化も人それぞれ。今回の彼と彼女のリアクションもインプットから時間を経た『熟成期間』があったからこそ、このタイミングで『ピン!』と来て花咲いた成長だったのでしょう。その間、繰り返し声掛けをし続けて来た先生達の多大なる努力と、『オーダーに対する未達』を優しく受け止めながら共に歩んで来た長き道のりが、彼らの想いをゆっくりゆったり育てて来てくれたのだと思うのです。『今時分はこんな感じ』と言うのは統計に基づく平均値。それに固執したならば、目の前の子ども達の今の姿を見失ってしまいます。僕ら教師はその時が与えられることを神様に祈り待ち望みながら、ただただこの子達に成功体験の基となるパスを繰り返し繰り返し送り続ける者なのです。 |