園庭の石段からみた情景〜園だより2月号より〜 2024.2.18
僕らの発表会回想録
 おかげさまで今年も『日土幼稚園発表会』を無事に行なうことが出来ました。これまで今年の行事は事前準備を含めて割と順当に行なわれて来たのですが、今回は当該週にお休み続出。日替わりでお休みが出ることによりまして、なかなかみんなそろっての最終確認が出来ずに迎えた本番当日となりました。そのためか僕らが思った通りの『発表会』とはならなかったのですが、逆に想定外の状況に対して自らの『対応力』をもって状況を打開して見せてくれた、今のこの子達の姿と実力を見せてくれた素晴らしい『発表会』となったような気がします。

 トップバッターとして舞台に上がったすみれ組。上手に『ごあいさつ』を終えまして、歌『てをつなごう』の段になりました。これは実祐先生の生伴奏による園児歌唱なのですが、楽譜に記されているキーがとても高くてサビではFまで上がることが分かり、キーボードのトランスポーズ(移調)機能によって3度音を下げて挑むことになっておりました。D、『上のレ』までならなんとか出るこの子達、練習ではそれで上手に歌っていたすみれさんだったのです。本番の舞台裏は本当にバタバタするもの。キーボードの設定も何人かの教師が確認し合った上で演奏が始まったのですが、なんかいつもと音が違います。何かの拍子にトランスポーズが解除されて伴奏が始まってしまったのです。僕らがその異変に気付いたのは、子ども達が歌い始めてから。発表会の舞台で一度始まってしまった演目はなかなか途中で止められません。「もうこれで行くしかない」と曲はそのまま進んでゆきました。そんな状況であるにも関わらず、子ども達は決して諦めませんでした。その曲を歌い続け、最後まで歌いあげてくれたのです。これには本当に感動してしまいました。「想いは自分の現状を乗り越えて行かせるんだな」と改めて感じたこの子達のがんばりと成長でありました。この話には続きがありまして、このサビの後に大サビが出て来るのですが、そこではG『上のソ』が出て来ることに終わったあと気付いた僕。この子達のすごさをもひとつ感じさせられた『すみれのキー上がっちゃった事件』でした。それを受けて全てのプログラムを終えたその後に、実祐先生が直訴した「もういちどやらせてください!」の言葉によりまして、再演・アンコールの場を得たすみれさん。直前にやり切った劇の衣装そのままに再び立った舞台の上で、いつものキーでこれまでで一番の歌を聴かせてくれたのでありました。でもこう言う経緯があって、歌が二回のセットで聞けて、だからこそ伝わって来たこの子達・そして実祐先生の成長だったと思うのです。これぞ『僕らの思った通り』ではないけれど、神様がこの子達の今の姿をお母さん達に伝えるために整えてくださった舞台だったと思うのです。綺麗にさらっと終わっていたならば感じることの出来なかったこの子達の底力を嬉しく見せてもらった『すみれ組最後の舞台』でありました。

 続いてご紹介するのはたんぽぽさんの『おべんとバス』。リハーサルでは「これ着るのいやぁ!」と舞台にも上がらなかった男の子。1月入園で園生活が一番浅く、只今幼稚園のリズムと生活に慣れるのに大奮闘中。それが次の練習・そして本番と、御機嫌で舞台に上がってくれたその姿に、この子の『新たな物事を受け入れる際の作法』を見せてもらったような気がしました。人の話を良く聞いていて、周りのこともよくよく見ている男の子。それが故に自分が体験することに関しては、自らハードルを上げてしまうのでしょう。それが一回やってみて、大いに抵抗・大騒ぎもやってみて、その上で『大丈夫じゃん』と思えたことに対して自信を持って挑んでゆく、そんなタイプなのでしょう。思ってみれば、今年のたんぽぽさん達もみんな最初はそうでした。ひよこクラブでは集団の輪に入って行けず、入園当初の登園時は「いや!いや!」言って抗っていたこの子達。登園後の朝の準備や、お片付け・礼拝の支度もみんな、最初は『イヤイヤ!』だったのに、今では「おっかたーずけー!」と自分達で声を掛け合いながらさっささっさとやり進めて行く姿を見せてくれています。そこに至るまで相当な眞美先生との我慢比べがあったはずですが、一人一人のこの時その時の想いを受け止めながら、諦めずに声掛け・投げ掛けをし続けて来てくれた先生の献身で、こんなに色んなことを受け入れられるようになりました。「おトイレない?」の問いかけに対して、頑として「ない!」と言い張る男の子。幾度かの『つばぜり合い』を重ねたのち、最後は「わかった。じゃあ次の時は行くんよ」「うん!」と言う譲り合い・分かち合いの姿を見せてくれています。その姿を遠目に見るたびに「おつかれさま。ありがとう」の言葉を心の中でかみしめている僕なのでした。そんなこんなやりながら『やってみれば楽しいじゃん!』が一杯分かってくれたこの子達のこの一年。そのことを舞台の上でそれぞれに、嬉しそうな笑顔と元気に体を動かす(動かそうとしている)パフォーマンスによってそれぞれに、『今の自分』を体現して見せてくれたたんぽぽさん達でありました。

 最後はばら・もも組の劇。前日までお休みさんが出たり入ったりを繰り返し、それに対する代役の練習が出来たところまでは良かったのですが、万全の備えで本番までの日々を過ごして来ることの出来なかったこのクラス。でも「今のこの子達の姿をみてもらう!」と言う美香先生の『開き直り』と言うか教師としての真摯な想いをもって、挑んだ本番となりました。いつもは園長としてそんな立場で子ども達の素の様子をDVDやホームページで皆さんにお知らせしている僕なのですが、発表会ともなるとその信念を貫徹出来ない弱さがあるみたい。劇中の出来・不出来はさほど気にならないのでありますが、出番を待っている幕裾での姿や舞台上でセリフがない『待ち』の時間の身の処し方、それがどうにも気になってしまいます。子ども達は幕裾で隠れているつもりなのですが、一番奥の『待ち位置』はお客さんからは勿論・ビデオ撮影しているカメラの画角にもしっかり入っていて、画面の中でゴゾゴゾしている子の姿が気になって仕方がありません。『見える・見えない』の問題と言うよりも、『そこをこの子達にはしっかりと受け止めて欲しい』と言う願望なのかもしれません。『幼児の姿』についての学びや外部研修では、『身体を動かすことによって心を安定させる子ども達』についてよく聞かされることがあります。そのような子達の姿を理解しつつも、でも全部が全部『いいよいいよ』ではないだろうと思うのです。合同礼拝のお話の時にもじっとしていられずに落ち着きなく体を動かしている子も見かけます。でもその姿は何も言わずに受け止めている僕。彼らの態度を失礼だとも思いません。そんなにしながらも実は僕の話には耳を傾けてくれていて、投げかけに対して言葉を返して来たりすることもよくあります。それが彼の『スタンバイ状態』なのです。でも一方自分の出番待ちでフラフラしている時の彼は、明らかに集中出来ていません。そう言う時は必ず自分の出番を逃してしまって…と言うことを繰り返します。やれば誰よりも上手に・かつその役に入り込んで演じることが出来るその子の姿を嬉しく見つめると共に、次なる課題がそこにあると感じている僕。今時の教育理論に適応来ない古い人間なのかもしれませんが、『発表会で何を見てもらうか』を考えた時、ユーチューブのように見えるところだけ上手にそつなくやって見せて、他の所は『全然なありさま』でいいと言う現代的な『ものの見せ方』に、「それは違うよね」と思ってしまうのです。今時の子達もそのような価値観でON&OFFの切り替えを意図的にしているような感じさえ受けてしまいます。それが『成果主義』。やるところでちゃんとやっているんだからそれでいいだろうと。日本人のたしなんで来た物の考え方には『茶道』『柔道』と言うように『道』があり、『試合の時だけ強ければ良いんだ』と言う考え方はそこにはありません。練習に挑む際、私生活を送る際、『こう言う身の処し方・物の考え方が必要です』と言う哲学がそこに息づいており、だからメンタルも強く保てるのです。『成果』『結果』はその時々のものであり、必ずしもそれが与えられるとは限りません。しかしそれに挑む際の哲学を持ちつつ自己研鑽に邁進してゆけたなら、そのことが自らを成長させることにつながります。だから発表会に関しては、そのような想いをもって挑んで欲しいと言うのが僕の願い。子どもに求めるには少々頭でっかちな理念なのかもしれませんが。そんな僕らの想いはありながらも、最後は彼らの想いに任せて・想いを信じて、子ども達を舞台に送った美香先生だったのでありました。

 舞台が始まるとまたばらさんの大活躍が光り出します。入園当初の初舞台では人前に出ることのプレッシャーからステージに立つことが出来なかった男の子。そんな彼が、大きな声で高い高いぴょんぴょんジャンプで、自分の演じる動物を表現しています。また昔からダンスは大好きだったけれど本番の圧に気圧されてなかなか声が出なかった子も、今回はマイク片手に大きな声で歌ってくれました。そしてタヌキのおじさんの歌の際、足元の草陰に隠れながらその歌を大きな声で歌ってアシストしてくれたオオカミさん達。「今日も絶好調だね」とその安定感に嬉しさと安心を感じたもの。しかしいざ『オオカミ登場』の段となり、草むらから飛び出した彼女達。振り向きざまに客席を見たならば、練習の時にはなかった沢山の目線にタジッ!となってしまったのでしょうか。いつもならデッキ音源より大きな声で「ちょっと待った!ダメダメ!」と勢い良く歌っていた声がトーンダウン。近くにいた美香先生に励まされ、なんとか歌ってはいたものの明らかにいつもの爆裂パワーが感じられません。「人前が苦手な〇〇ちゃんだから、本番はいつもみたいにはいかないと思います」と事前に予言していた美香先生。でもその直前の『蔭マイク』があまりにも素晴らしかったので、すっかり安心してしまっていた僕。「ばらさんだもの、これで十分」と思いつつ今日の舞台を見つめたものでした。そこに舞台を盛り上げてくれたハッスルプレイヤー出現。大きな声を張り上げてその勢いを再上昇させてくれたのはももの女の子。普段はのんびりおっとりマイぺースで、「あああーあああー」の『アタフタぶたさん』を地で行く愉快でコミカルな女の子。そんな彼女に突然火が入り、今日はこの劇を引っ張っての大活躍となりました。思えばセンチメンタルで感動屋さんの彼女、最近ではディズニー映画の『ウイッシュ』がいたくお気に召したようでして、主人公の歌をうにゃうにゃ歌ったあとで「・・・なーい!」と決めるパフォーマンスを一人喜んでやっていたもの。そんな舞台向きな彼女ですが、『自分が!』と言うタイプではないがゆえに、いつもはそんなに目立つパフォーマーではありませんでした。それがあの日、ぽっかりと空いたあのスペースに自分のチャンスボールを見い出したのでありましょう。いつもの姿からは想像出来ない彼女の本番強さを嬉しく見つめたものでした。他のももさんも動きや小道具が沢山ある中、自分の役をがんばるのは勿論のこと、忘れているお友達に動きを指示したり、『蔭マイク』でみんなの歌を支えたりして、この劇を支えてくれました。本番を終え改めて振り返ってみたならば、「やっぱりももさんあってのこのクラスだね」と嬉しく思ったもの。こんなももさんに支えられているからこそ、伸び伸びとがんばれているばらさんの姿があり、それによって彼女達も実力以上の姿を見せてくれているんだな…と改めて感じさせてもらった『ももばら劇』でありました。

 こうして振り返ってみたならば、それぞれの良さ・がんばり・成長に課題も感じることの出来た今年の発表会。その姿をお母さん達に見てもらい一緒に喜んでもらえたことが、なにより嬉しいことでした。神様の導きと与えられた成長に感謝です。


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