園庭の石段からみた情景〜園だより5月号より〜 2023.5.9
日土の春の風物詩
 寒かった冬をやっと乗り越えたと思ったら、今年の春は季節の歩みを早めて早々に過ぎ去ってゆきました。そうは言うものの一日の気温の乱高下が激しくて、いつまでもファンヒーターをしまえずトロトロ弱火を灯したもの。冬の寒さと春の温かさが重なった今年はサクランボの生り年となりました。でもいつもより早く実をつけたその為に鳥除けネットの準備が間に合わず、「赤くなって来たねぇ」と言っているうちに野鳥にみんな食べられてしまいました。それも実を落とさず、周りをちょんちょんついばんで、種だけその柄に残して去ってゆくと言う芸術的な食べ方に感心させられたもの。その食べる姿を見ることはなかったのですが、完熟したなら風ででも落ちてしまうサクランボをその枝に残したまま落とさずに完食するとは、どんなアクロバティックな食べ方をして行ったのだろうと想像してしまいます。大柄なヒヨドリではそんな器用なことは出来なさそうなので、身軽なメジロあたりが犯人かな?と思ったりもして…。いつものような大収穫が得られず残念な想いでその枝を子ども達と見上げたのでありましたが、先生達がなんとか子どもの人数分16個の実を収穫してくれて、その一個ずつをありがたくいただいた今年のサクランボ狩りとなりました。でもそうだったからこそ、『この実一個の恵み』に喜び感謝も出来た今年のサクランボ狩り。今回は小鳥達の喜ぶ顔を思い浮かべながら、「こんな年もあるよね」とちょっと優しい気持ちになれた甘酸っぱい春の味覚となりました。

 また今年の春はしっかり雨が降った春でもありました。ここ数年この時期はカラカラ天気が続き、幼稚園下の『松岡いでご』と呼ばれる農業用水路も干上がってしまうほどでした。今年はと言うと週に一度くらいの程よいペースで雨が降り、4月に入ると早々にカエルの鳴き声も聞こえるようにもなりました。夕べの日土谷に響き渡るカエルの声はちょっと早い初夏の訪れを感じさせたもの。そんな季節の移ろいを先生達もそれぞれに感じ取っていたのでしょう。ある日「いでごに行って来ます」と子ども達を連れて出かけた美香先生。「まだ早いんじゃない?」と思いつつも、その御一行について行った僕。するといつものいでごは畦道が途中で水没するほど水を湛えているではありませんか。そこでオタマジャクシを探し始めた子ども達。なかなか見つけられずに「やっぱりまだ早い?」と思っていると「いた!」とももの男の子。子どもの目と集中力は本当に大したものです。いつもはここで四分音符ほどの大きさに成長したオタマジャクシを捕まえたものだったのですが、彼が見つけたのは何ともスマートな『ちびタマジャクシ』。例年、持参した飼育ケースの蓋を網代わりにオタマジャクシを救う僕らなのですが、今年のおたまはその目をすり抜けてゆきそうなくらいのちっちゃサイズ。本当に昨日今日孵ったばかりと言った感じのおたまベイビー。そこで6匹のオタマジャクシを捕獲し、意気揚々と幼稚園に戻って来たもも・ばら組の子ども達でありました。
 戦利品を掲げすみれさんに情報を引き継いだなら、早速実祐先生と眞美先生が年長を連れて『いでご参り』に出かけました。「あんな小さいの、見つけられるかな?」と思い後を追いかけた僕。すると「いた!」「あっち!」とすでに大盛り上がりしている子ども達の姿があり、これまた大したものだと思ったもの。この年長さん、道具も使わずに両手でおたまを救いとる男の子がいたり、更に『ワンハンドキャッチ』でおたまを捕まえた女の子があったりと、その身体能力の高さを見せつけてくれたもの。そんな子達のおかげで、自分では捕れずともみんなが楽しめるエンターテイメントへと昇華されたこの『おたま救い』。これだけ楽しめたならただのいでごへのご近所散歩も立派な日土幼稚園の風物詩。「まだいなかったねぇ」と空振りで終わることも多かったここ数年でしたが、今年は面目躍如の『いでご参り』となりました。

 そんなオタマを飼い始めた子ども達。すみれさんは図鑑で飼育環境を調べ、砂を入れたりエサの策定をしてみたり、やる気満々。『あれこれ食べる』と記載はあったのですが、とりあえずは金魚のエサでも良いと言うことで、昔幼稚園で飼っていたメダカのエサをあげることになりました。ちっちゃなちっちゃなオタマジャクシ、いでごでも『モリモリ食べる』と言うよりは、泥に含まれた有機物をちゅっちゅして栄養を取っている…そんな感じ。「ならこれで」とエサを入れたのが金曜日。土日をはさんで月曜日に再び見てみたら、倍くらいの大きさになっていてびっくらこ。自然の摂理と生物の生きる力に改めて驚かされたものでありました。
 もも・ばらさんはエサやり・水換えのお世話に勤しんでいるのですが、水換え用スポイトの原理が分からず四苦八苦。外で空気を押し出し負圧を作って汚れた水を吸い上げるのですが、先に水槽にスポイトを突っ込んで押してしまうものだから、水の中でブクブクブク。沈殿していた泥や汚れが舞い上がってお掃除になりません。順を追って『まず外で押して』、『次に水に入れて』、『そこでこれ(スポイト球)を放すんで』と言ってもブクブクブク。『何かを能動的に操作した結果、状態が変わる』と言うのは理解出来るのですが、『今まで押さえていたものを解除することで水が吸いあがる』と言う事の理解は難しいよう。普段はシャンとしている子達でもこのシーケンスを体得するのに手こずっていたのが印象的でした。でもでもこれもみんなお勉強。体と頭を両方使って自分の動きを制御する訓練です。そんなこの子達の学びに一役買ってくれそうなおたま君達。きっと本の通りにはならないだろうけど、『毎年と同じ』になりはしないだろうけど、それこそが生きた学びとなるのです。自分達の行いによって何が如何に変化するか、それをどう感じ取るか。頭と体を一杯に使って、そんなことを学んで行って欲しいと期待している僕なのです。


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