園庭の石段からみた情景〜園だより2月号より〜 2025.2.5
大雪が僕らに教えてくれたこと
 今回の大雪には本当に参りました。あの大雪初日、降ったり止んだりの雪を気にしながら事あるごとに外に出て、積雪と路面の状況を見ていた僕。時より差し込む日差しと弱まってゆく雪に「もう峠は越えたかな」と何度思ったことでしょう。そして降園まであと1時間半を切った頃、「雪かきをしておかなくっちゃ」とバスが上がってゆく登り坂まで行ってみれば、自らの水気で雪はすっかり溶けて下のコンクリートがしっかり見えていました。「これでもう大丈夫」とほっとしていたところに、急に激しく吹雪き出した日土の里。見る見るうちにあたり一面が雪に覆われて、あわてて『トンボ』を引きながら除雪を始めた僕でした。
 そんな状況ではあったのですが、こんなリアルタイムで雪の降り積もった幼稚園で遊べることってなかなかないこと。白銀の世界で嬉しそうにはしゃぐ子ども達にカメラを向けながら、嬉しい想いに満たされつつこの情景を写真に収めた僕でありました。先程までびちゃびちゃで積雪もなかったところに、雪がどんどん降り積もってゆきます。子ども達は積もりたての雪を手ですくっては、きゃーきゃー歓声をあげています。『定番の雪遊び』に慣れていない子ども達を導くように、手のひらサイズの雪だるまを作ったり、雪玉を握って放り上げてみたりして、『お手本』を示しながら一緒に大はしゃぎしていた先生達。本当だったら極寒のこんなに日には温かな部屋の中にいたいであろうに、この稀有なる自然からのプレゼントを保育に昇華して、子ども達にこの喜びと感動を実感してもらう機会を作ってくれた先生達に心より感謝したものでありました。「これが自然保育だよね」「これが日土幼稚園らしさだよね」とこの子達の姿を嬉しく見つめながら。 

美香先生はそんな子ども達をいざなって、幼稚園裏の銀杏の木の下まで繰り出します。秋の終りには黄金色の銀杏の葉っぱを救っては舞い上げて、大喜びしていたこの子達。今日はあたり一面真っ白な雪模様に変ってしまったこの同じ場所を走り回ります。車の上に高く降り積もった雪を指差して、「すごいゆき!」と大喜びの子ども達。『定点観測』と言って同じ場所で時間を替えてその風景の変化を見たり記録をしたりする手法があるのですが、時空を定義する4次元のパラメータの内、空間と言う3つの次元を固定することにより、時の流れや季節・そしてそれに伴う対象物の変化を抽出することが出来るのです。子ども達は葉っぱの黄色と雪の白の対比によるシグナルで季節の変化と移り変りを感じてくれたはず。ユーチューブに保存されている情報は時系列や関連性が分からないこともあり、また暑さ寒さ・触感や匂いも感じられません。臨場感やリアリティを感じるためには実体験が何より大事。その積み重ねがこの子達の自我と人間性を豊かに育んで行ってくれるのです。一方の僕らもちょっと前には見知らぬ自然物にこわごわ触れていたこの子達が、我先に雪を救い上げてその感触を嬉しそうに味わっている姿に感無量。土や砂が手に付き汚れるのを過剰なまでに嫌がっていた子、日常生活の中で触れたことのなかったものに接するのを拒んでいた子など、外の世界との間に境界線を引いて必死に自分を守っていたこの子達。そんな彼らが自然の美しさや心に訴えかけて来る素敵な物事を受け止め自ら応えようとしている姿を感じ、その成長を嬉しく受け止めたものでありました。『こうしなくっちゃ』の決め事・約束事にはぴぴっと対応し、友達にも「○○せんといけんよ!」と発信出来るこの子達。でもその約束事がなくなったら途端に不安になって情緒が不安定になってしまう生真面目過ぎる彼らに、もっと自分の想いを行動の中に顕して欲しいと願っている僕。一方、そっちの自由さに寄り過ぎている子もあるのですが、そっちはそっちでちょっとずつこっちに寄って来て欲しいと願う僕らもいる。やはり『物事はバランスが大事』と言うこと。だから僕のいつも言う「ほどほどにね」は『するなとは言わないけれど、やり過ぎないでね』と言うメッセージ。お互いに足りない方の経験を重ねつつ、お互いの想いや行動が影響し合って、それぞれがお互いを受け入れ合えるところに寄って来て欲しいな…とそんな風に思っています。この子達と美香先生の楽しそうに戯れる姿を見つめながら、そんなことを想っていた僕でありました。

一方、実祐先生と子ども達は園庭で追いかけっこ。そんな雰囲気に嬉しくなっちゃって、『犬は喜び庭駆け回る』を地で行っていた男の子。くるっと旋回しようとしたところで『ツルっと滑って、べたん!』。困った時に飼い主を見上げ『切なサイン』を送る子犬のように、実祐先生のことを見つめていた彼でありました。普段はこんなに走ってもこけることない男の子。積雪による路面摩擦の減少が、彼の過大パワーをトラクションコントロール不能なものにしてしまった結果、久々のスッテンコロリンとなってしまったのです。運動も得意でこんなかけっこも『余裕でへっちゃら!』と思っていたそんな自分が、派手にこけてびっくりしてしまったのでしょう。しばらく呆然としていた彼でしたが、先生に雪を払ってもらい慰めの言葉もかけてもらって、また元気に走り出したのでありました。
 これも自然が生み出した『状況の変化』で与えられた気付き。パワーや元気も大事だけれど、周りの状況や環境が変わればそれを考慮しながら自己制御しないとこうなるよ…と言う体験を、身をもって得た男の子。また急変した降雪に対応し切れなかった僕にとっても、色々と学びを与えてくれた今回の大雪となりました。自然の力に打ちのめされて初めて、僕らは自らの力や考えの稚拙さを感じるもの。これからも自己肯定感を大切にしつつも、されど驕らず、神様の御心に耳を傾けながら、この地で子ども達とつつましく生きてゆきたいと思ったものでありました



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