園庭の石段からみた情景〜園だより5月号より〜 2026.5.11
蜘蛛の子散らす狂騒曲
 今年のG.W、最初は『雨ばかり予報』だったのですが『春の天気と天気予報はよく変わる』と言うことで、終わってみれば程よく雨も降り・晴れもあり・風も心地良い二週間となりました。四月の終わり、会議室で仕事をしているとまた聞き慣れない鳥の声が聞こえて来て、あわてて外に飛び出せば茂みに飛び込む影一つ。しばらくそこで粘っているとあちらも意を決したように藪から跳び出し、僕の頭上を飛び越えて行ったのでありました。下から見たその姿、「あれってキビタキだったかな…」と思ったのですが、それ以来巡り逢えておりません。雨が降ったり・嵐のような風が吹いたり、そうかと思えば急に冷え込んだり・更には暑さを感じる一日があったりと、南国育ちの夏鳥にしてみれば落ち着いて旅の疲れを癒せる環境ではなかったよう。こちらはいつもと同じと感じるこの地の『夏の走り』も、新たにここを訪れる旅人には望んだ居心地を与えてくれなかったのでしょう。
 そんなことを考えているうちにふと頭をよぎったのは「それって幼稚園の子ども達もそうだよね…」と言うこと。僕らにとってみれば『変化の少ない新年度』と言うことで落ち着いた四月を過ごして来たのですが、子ども達にしてみれば『初めてのすみれ』『初めてのもも』『初めてのばら』に加えて『初めての・または久しぶりの担任』で始まった新学期。幼稚園ではがんばり屋&見栄っ張りなこの子達は、それが出来る自分に喜びを感じつつも、知らず知らずのうちにオーバーワークになっていたのかもしれません。だってひと月ちょっと前の姿を思い起してみたならば、わちゃわちゃだったあの子達が『すみれになった!』の想いだけであんなにお兄ちゃん・お姉ちゃんになれるなんてそっちの方が信じ難いこと。それは本当に『想いの力』だと思うのです。モチベーションはとても大事。そのきっかけがなければ僕らは「がんばろう!」って気にもなれない者だから。でもそれが自分の今の身の丈・体力に合っていないと、背伸びした分だけ疲れも出て来ます。その過負荷に身を慣らし潜在的ストレスを抜くことが本当の意味でこの子達の体力を増し加えてゆくことになるのです。『現状逃避』でいなくなっちゃったキビタキのことを想いながら、彼らが過ごすのにちょうど良い陽気になって来たらまたここに来てくれるかも…と思っている僕。野生の者はそうやって自分の居場所を探しながらあちらこちらをさまようのですが、幼稚園の子ども達は『現状逃避』などしないがんばり屋さん。がんばっている分、たまの「おやすみしたい」は大目に見てあげたいとも思うのですが、でもそれがずっとではちょっと困ってしまいます。なので幼稚園の日常の中でがんばりながらも息抜き出来る場を設けたり、自由遊びの中で自らの想いを満たす時間を多く取ってあげたりと、そのようなフォロー&ケアーが大事になって来ると思っている僕なのです。

そんなこの子達の自由遊び。このところ天気も気候も良かったので子ども達は喜び勇んで毎日のようにお外遊びを楽しんでおりました。ばらたんちゃん達の日課となった『ヤギ牧場参り』に、もも・すみれさんの昆虫採集。もっともダンゴムシやミミズ・蛇の抜け殻など昆虫ではないものに大喜びしていた子ども達でしたが…。そんなある日、子蜘蛛が孵化したばかりの蜘蛛の巣を見つけた美香先生。『虫虫大好き君達』に声をかけたのですが、みんなそこまでやって来て遠目にただただ周りをうろうろするばかり。先程の『蛇の抜け殻』も触れずにジョウロで水を掛けて『水に流そう』としているので、「水洗トイレじゃないんだから!」とツッコミを入れた僕。そのことを言うと「さわったよ!」「僕、持った!」となんとも怪しい自己主張。物事もよく分かり知識も沢山持っているこの子達、プライドは人一倍高いよう。「やだー」「だってー」と自分の弱さを認められればそっちの方が本当の『強さ』となるのですが、他人にダメ出しをされるのを嫌い、言われた時には大いに落ち込んでしまうこの子達。『自分が人に言う時には相当のことを言うくせに』と思うのですが、そんな彼らに何か一石を投じることが出来ないか…と日頃から思っている僕。この子達には多少のストレスをかけながら、やってみればそれが『何でもないこと』『大したことないってこと』が分かる体験をさせてあげたいと思うのです。でも基本ビビりのこの子達はいつまで経ってもワイワイ言うばかりの『烏合の衆』。そこにてんこを持って駆け込んで来た一人の男の子。蜘蛛の巣に向かって網を振りかざしました。どうも捕獲しようとした訳ではないようで、その蜘蛛の巣を蹴散らして『現状打破』を図ったつもりだったよう。すると文字通り『蜘蛛の子を散らす』ように子蜘蛛が辺りに大飛散。それに「おー!」と恐れをなして逃げ惑う仲間達。実際には被りはしなかったものの、あんなのが頭から降って来たら僕でもちょっと…と言う状況に。これには僕も思わず笑ってしまいました。日頃「ちがう!」「いけんよ!」言ってマウントを取って来る仲間達をギャフンと言わせた彼の武勇伝となりました。

 すみれになった!」の想いは大事にした上で、『今の自分』に向き合うことの大切さを教えてくれているこの子達。自分の弱さや未達を受け止め・受け入れながら、そこから課題を乗り越えてゆくことこそが今の彼らに課せられているミッション。恰好だけ『○○が出来た』ではなく、『出来なかったのが出来るようになった』『それに挑み、がんばれるようになった』が体現出来るようになったなら、この子達は何物をも恐れることなく未知なる自分に向かって行けるようになってくれるはず。それも無理のない歩幅で。今の自分を認め・自ら省み改めようとする想いこそが『何より強い』と言うことをこの子達に感じ分かって欲しいと思う僕なのです。今は弱くていい、出来なくていい。全てはそこから始まるのだから。



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