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<子ども達の内なる輝き> 運動会に始まって遠足、いもほり、おみこしパレードと怒濤のごとき行事の大波を、ひとつ越えては息ついて、ひとつ終えてはほっとしている我々大人をほっといて、子ども達はますます元気いっぱい跳ね回っていた10月でした。ひとつの行事を終えてほっとしている僕らを嘲笑うかのごとく、ひとつの行事を終えるごとに子ども達の遊びの世界は広がってゆきます。今の流行はリレー遊びとダンス遊び。ばらさんからすみれさんまで園庭に飛び出してリレーをして遊んでいます。 音や映像と実動体験のコラボレーションというのは子ども達に大きなインパクトと鮮やかなイメージを残すもののようです。リレー遊びにしてもただただ走るのではなく、始める時に小さい組の子が、「先生、リレーの音楽かけて!」とおねだりしてくるのです。面白いものです。このことから推察するに、子ども達はリレーをその場の遊びとしてだけではなく、運動会の大トリを飾ったあの場面を思い起こしながら、あの場面であたかも自分が走っているかのような疑似体験に心震わせているのです。すみれ組だけに許された運動会のリレー。だからこそ小さい組の子たちはその場面に憧れ、いつの日か自分もきっと走るであろうあの舞台を思い浮かべて今日もトラックを走っているのでしょう。 もうひとつの人気株がすみれ組ダンス、『めざせ勇者よ!』です。ばら組、たんぽぽ組の子ども達に大人気のこのダンス、毎日、何度も何度も音楽が流れています。ちびっこたちの心を惹きつけたのは曲調とアイテムでしょうか。『めざせ勇者よ!』の原曲はご存知でしょう、表彰式の曲、ヘンデルの『見よ、勇者は帰る』です。メジャー調の明るい曲調にポップなアレンジ、ブラスの音も高らかにとても気持ちの良い曲に仕上がっています。明るいすみれ組にぴったりの選曲だったと思います。またダンスも一糸乱れぬ連携・・・とはお世辞にも言えないものだったかもしれませんが、一人一人が心から楽しんで旗を振っていたこと、最年長児のプライドを持って踊っていたこと、小さい組の子たちも感じ取ったのでしょう。「あー、たのしそう!」、「かっこいいー!」とこの子達の小さな心に憧れと自分もやりたいという想いをしっかりくっきり焼きつけていったのでした。 またこの青と白の旗が魔法のアイテム、「これを手にしてしゃんと踊れば、小さな私も素敵なすみれになれるのよ」、そんな想いでたんぽぽさんも踊っているのではないでしょうか。兎にも角にも旗を手にして駆けてきて、「旗の曲かけて!」と毎日毎日おねだりしてきます。デッキをかけるとさらにどこからともなくばらばらばらとちびっこたちが大集合、みんなで旗をふりふり曲にあわせてダンスを踊り始めます。練習も含め、すみれ組のダンスを数回見ただけでほとんど完璧に踊ってしまう子ども達の集中力と学習能力、これには本当に脱帽です。子どもとはたいしたものです。 これらは小さい子たちの憧れだけかというとそうではないようです。すみれさんの女の子、たんぽぽ組の『ダンゴ虫体操』から、ばら『アララの呪文』、もも『しのびのごくい』まで全曲完璧に踊りこなします。大人の目で見れば、「たんぽぽのダンスは単純で難易度も高くないから、すみれの子には面白くないのでは?」などと考えてしまうのですが、そんなことはありません。あの『ダンゴ虫ダンス』の中のかわいいしぐさ、たんぽぽさんをリードしているという自負がすみれさんを『ダンゴ虫』に駆り立てます。やはり心で感じるより先に、頭で物事を考えてしまう私達より、子ども達の心は純粋で柔軟なのです。 そう、これらの遊びのきっかけは運動会です。そのために練習を何回も何回もやってきました。やらされることへのフラストレーションを抱いた子ども達も少なからずいたことでしょう。でも子ども達はそれをやりぬきました。そのことによって得た自信、がんばりぬいた喜びはとてつもなく大きいものだったと思います。だから今もなおこうして運動会遊びとして喜んで遊んでいるのだと思うのです。ダンスの練習ではいつも左右を覚えられず、みんなと反対に回っていた男の子。その度に友達からも「ちがうー!」と言われ、なんだか自信なさげな顔をしていました。その子が今、小さい子にまじって喜んで旗を振っています。「いー!ざー!めざー!せー!ゆうじゃよ、すー!すー!めー!」と調子っぱずれに大声で歌いながらご機嫌モードでダンスを踊るのです。運動会でやり遂げた自信、楽しかった思い出を胸に、今一歩大きく成長した姿を僕たちに見せてくれています。そんな彼を見ていると、「もっと早くやる気モードにスイッチを入れてくれれば・・・」なんて思うこともありますがいやいや、この子の成長こそ、もっと感謝して受け止めなくっちゃと思うのです。本番には間に合わなかったけれど、この子の中に踊る楽しさ、歌う喜びが芽生えてくれたこと、本当にうれしく思うのです。 設定保育の目的、『みんなと一緒に目標に向ってがんばる』ということはもちろん大事。でもそれに加えて『喜んで取り組む心』を育む、そのことを忘れてはいけないといつも思っています。今回は目標に到達できなかったとしても、そこに到達するよりも『喜んで取り組む心』を育めたことのほうが、何倍も価値あるものだったと思うのです。幼児期において、『自我に目覚める時の訪れ』、『できるようになる能力の発達』、それらには大きな個人差があります。のんびりおっとりのお調子君、でも大器晩成、まさにこの子はそういう子です。あの時には間に合わなかったかもしれませんが、『喜んで取り組む心』を心の中に灯したこの男の子、次はきっとやってくれることでしょう。 あこがれたんぽぽさんからのんびりすみれさんまで、このようにそれぞれの中に光り出した内なる輝き。そのまぶしい光をうれしく、まばゆく見つめている秋です。黄金色に輝く秋の実りを思いながら。 |