園庭の石段からみた情景〜園だより5月号より〜 2007.6.5
 <水遊び大好き!>
 5月に入って夏の日差しが帰って来ました。子ども達は砂遊びに水遊び、屋外での自由遊びを心ゆくまで楽しんでいます。気温が上がり、園庭に住む生き物の生命力が強さを増してくるこの季節、子ども達もその活動を活発にしてゆくのは自然の理(ことわり)なのでしょう。それだけ子ども達が我々大人より自然に近い、自然な生き物であるということなのだと思います。
お母さんと離れられずにメソメソしていたばらさんたちの興味を真っ先に引いたのも水遊びでした。園庭に水をためて泥をこねまわしたり、じょうろでお花に水をやったり、夢中になれる遊びを見つけることによって園生活にも徐々に順応して行ったように思います。水や砂、泥の感触を楽しむことが子ども達の心の琴線に触れたのでしょう。自分の居場所を見つけた子ども達は、園やクラスの中でも自分を出したり表現したりできるようになってきました。そんな子ども達の姿を見ていて、やはり大切なのは子どもがこころ開ける環境を一緒に作っていってあげるということなのだと思いました。
 初めての体験、初めての環境に、幼い子ども達は自らの心を閉ざすことによって自分を守ろうとします。これは本能的なことで、どの子にも見られることです。それが経験によってその防衛本能が徐々に緩和されてゆき、環境に順応してゆけるようになるのです。その経験もただ場数を重ねればよいというものではなく、心を開くきっかけとなる楽しい体験が伴わなければなりません。だからみんなに一様な対応をしていては子ども達の楽しい経験の場を作ってあげることはできないのです。
 そんな子ども達に対して僕が大切にしていることはまずその子をよく知ろうとすることです。こちらの投げかけに対してどんな反応を示すかよくよく観察しています。見ず知らずのおじさんが何をやっても基本的には子ども達には面白くないはず。でも何をどのように投げかけるか、その対象によって子ども達は興味を示し、僕という人間にも関心を持ってくれるようになるのです。それが一緒に水遊びをすることなのか、大好きな恐竜ごっこをすることなのか、子どもが手にしているだんご虫に「こわいこわい!」とおどけてみせることなのか、それは相対する子ども一人一人によって全部違います。興味のないネタでいつまでも付きまとっても全くもって逆効果でしかありません。常に子どもの表情、言葉をしっかり受け止め、その子が何を欲しているのか見極めながらセンシティブに観察しています。これはキャリアや技術の問題ではありません。その子の心に働きかけ、その子の心を感じようとする想いが大切なのです。ひとりの人間として子ども達を受け止め、こちらを押しつけるのでなく、その子が求めているものを、欲している環境を一緒に探し出して行ってあげること、そのことを大切にしながら毎日子ども達と向き合っています。

<トカゲをつかまえろ!>
 暖かくなってくるといろんな生き物が活発に動きまわり出します。この時期、園庭で子どもの遊び相手になる生き物の代表がだんご虫です。だんご虫はプランターをひっくり返せばごろごろ現れ、さっさか逃げることもなく、「捕まえてください」とばかりに丸くなります。この無抵抗さが子ども達の生き物体験導入教材として適しているようで、3歳児から年長児までみんなこぞってだんご虫を探します。導入編とは言っても生き物に興味を持つことの大切さ、小さくてもその命を大切にしてやろうとする思いなど、子ども達に色々なことを教えてくれる大切な命なのです。
 でもあまりに簡単に捕まるものだから年長児になると10匹も20匹も大量に捕獲して、ひとつの命の重さを軽視してしまうことにもつながります。そんなことを感じていた時に目に入ってきたのがトカゲなのです。このトカゲ、よく姿を現すわりになかなか捕まらない。大人でもなかなか捕まらない。子ども達をこいつに挑戦させてみようと思いました。こちらの武器はてんこ一つ。トカゲを傷つけたりしないようにスコップやちりとりを持ち出す子どもを制して勝負開始です。このトカゲ、石段の割れ目に逃げ込んだらなかなか出てきません。逃げ込んだ割れ目の前で子ども達がわいわいやっています。「そんなに騒いだら出てこないんじゃない」なんてつぶやいてみせると子ども達もちょっとひいて、割れ目の死角に回ったり、「こっちから入ったのが反対から出てきた」と言って反対側で待ち伏せしたりして、自分達でトカゲ捕獲作戦を立てたり指揮を執ったり役割分担なんかもしていました。たかがトカゲ1匹捕まえることが、こんなにも子ども達に観察させ、考えさせ、協調させていることを興味深く見させてもらいました。これぞ自然遊びの醍醐味です。自然の中で自ら学び取る遊びなのです。
 30分ほど追い掛け回した成果として1匹のトカゲを捕まえました。その時の子ども達の満足げな顔。バケツに入れられたトカゲをいつまでもいつまでも眺めていました。初めは「持って帰る!」と言ってた子ども達も「返してやろうよ」と言うと誰からともなくみんな賛成してくれました。だんご虫やバッタなどでは必ず最後まで「もってかえる!」とがんばる子がいるものなのですが。これも30分間に渡って死闘を繰り広げたトカゲに対する敬意の表れでしょうか。みんなで快く、この勇士トカゲくんを草むらに返してやりました。
 トカゲを追いかける僕達を見て、「捕まえてどうするんですか?」笑いながら尋ねたお母さんがいました。こうして振り返ってみると、『手に入れてどうするか』よりも『どうしたら手に入れられるか』、それを自分で考えることの尊さを学んだひとときだったのではなかったでしょうか。トカゲ相手にお母さんからしたらそんな勉強、うれしくないかも知れませんが。自然はいろんなことを子ども達に教えてくれます。


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