園庭の石段からみた情景〜園だより6月号より〜 2007.7.3
 <梅雨来たりなば夏遠からじ>
 6月に入っても入梅はなかなか訪れず、引き続き5月の陽気が続いたような月初めとなりました。梅雨前に暑い暑い陽気に見舞われた去年ほど暑くはありませんでしたが、やはり水の恋しい季節。子ども達はたらいに腰まで浸かったり、みずまきのホースに飛び込んできたり、思い思いに水遊びを楽しんでいました。
 最初は「入っていい?」と遠慮がちに訪ねる子ども達。たらいの縁に4人も5人も腰掛けて足だけの涼を楽しんでいます。やはりきれいな水に浸かっていたい子ども達、自分達が裸足のまま入るとたらいの中の水も汚れることに気がつきました。誰からともなく横に水を張ったバケツを置きました。足洗い用のバケツです。みんな自分で足を洗ってからたらいに浸かるというルールが自然にでき、わからない子には「足洗って入ってよ」と教え、今では自分達でたらいプールを運営しています。文明の発展の縮図を見ているようでなかなかおもしろかったです。道具を使って餌を狩る鳥や海水でさつまいもを洗うニホンザル、日常の中で自然の摂理を発見し実践する個体とそれをみんなで応用運用する集団。そんな例は自然界の中にもたくさんあります。学問や習慣として蓄積してきた知識を伝達するというのではなく、純粋によりよい法則を見つけそれをみんなで共用しようとする文明の原風景をのぞいたような気がしました。
 子ども達の創作水遊びは発展していきます。たらいの縁に並んで座った子ども達、今度はめいめいバケツを手に持ちました。そして一番最初の子が水を汲むと「おにぎりぽーん」と言って次の子のバケツに水を汲み渡し始めました。たらいまわしバケツリレーの始まりです。もらった子は次の子に、そしてまたその次へと子ども達のバケツリレーが続きます。何が「おにぎりぽーん」なのかは意味不明です。意味もないと思われますが、語呂のよさとリズムのよさがバケツのたらいまわしとイメージフィットしたのでしょう。一人が始めるとみんながそれに続き、ぐるぐるリレーが続きました。このメンバー、主にすみれさんだったのですがこの年齢の子ども達、言葉というものに強い関心を持つようになります。言葉遊びや言葉のリズム、韻を踏むことの面白さなどそういうものへの興味が膨らんでいきます。大人の発する面白い言葉に反応し、自分も使ったり、自分で新しい語呂を考えてみたりもするようにもなるのですが、これらも本などから学んで使うというのではなく、体を動かしながら、みんなで話を楽しみながら自分達の感性とリズムで言葉をしっかり捉え、自分の表現として用いるようになるのです。自分を表現する手段として言葉を詩的にリズミカルに活用する、分化の出発の時期でもあるのです。
 ただただ回すだけでは面白くありません。ちゃっぷちゃっぷかかる水に大喜びの子ども達。どんどんちゃぷちゃぷがエスカレートし、最後はみずかけ合戦になって
しまいました。ここから場外乱闘の始まりです。「かっけてみろー!」の声が飛び交いバケツ攻撃の応酬。ひゃあひゃあ言いながら水の掛け合いを始めました。もう頭から服からびしょびしょ。それでも楽しそうに水合戦を繰り広げていました。そんな子ども達の姿を笑いながら園庭のみずまきをしていた僕でしたが、子ども達の目がそのホースの水を見つけました。みんなひゃーとこっちに飛んできて、まき水の下をくぐって駆け抜けていきます。そんな子ども達を「また来たな」と思いながらこちらも炎天下の中、頭もぼーっとしてくるので頭から水をじゃばじゃばかけて涼を取ります。すると「ずるーい!」と子ども達も滴る水の下に頭を濡らしにやって来ます。端からみたら『みんなしてなにやってるんだか』って風景です。この季節、大人も子どもも短く刈り込んだ頭にかける冷たい水が何よりの清涼剤なのです。
 みずまきを再開すると、方向を変えたホースの先にもまた子ども達は回ってきて走り回ります。始めはちょっとかかっただけでもきゃーきゃー言っていたのですがそれもだんだんエスカレート。また例の「かっけてみろー!」コールが始まりました。そんな子ども達をよけながらみずまきを続けますが子ども達も「あっかんべー」などと言い出し、なんとか水先を自分達の方へ向けさせようとします。それほど言うならと最後はお望みどおりホース攻撃。子ども達は防御のつもり、バケツを頭からかぶります。ちょっとあさはかながらもそんな子ども達のアイディアについつい笑わされてしまいます。結局最終的には全身びしょぬれになって終わる一連の水遊びでした。子ども達の持ち帰るお着替えはビニール袋の中で水も滴る重いお土産となりました。お母さん方には毎日のお洗濯、お世話をおかけしました。でもこの時期にしっかり外で遊び、汗をかくことはとても大切なこと。この多くの雫が子ども達の身体を大きく強くしてくれたことと思います。
 そんな暑い日が続く中、一番弱っていたのはおいもの苗でした。植えられたのはいいけれどちっとも雨が降りません。植えたはずの葉っぱが干からびて、子ども達も悲しそうな顔をしていました。そんなおいもくんがかわいそうだともも組とすみれ組が交代でおいもに水遣りをすることにしました。ペットボトルに水を汲んで、丘の上の畑に運びます。初めは同じところにばっかりかけたり、うねでなく通路のところに水をまいたり、とんちんかんちんな子ども達でしたが、「おいもにお水をあげたい」という想いだけは本物だったようです。1日に5回も10回も往復して水遣りをやった子ども達でした。彼らのがんばりとようやく降った梅雨の雨のおかげで今ではさつまいもの苗は青々と元気いっぱいになりました。水の感触の気持ちよさ、生き物にとっての水の大切さ、そして水の力の不思議さをいろんなことから体感した6月だったのではないでしょうか。
 梅雨に入れば夏はもうすぐそこです。梅雨明けにはどんなすばらしい大冒険が子ども達を待っているのでしょう。冒険の夏、成長の夏、今から楽しみです。


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