園庭の石段からみた情景〜夏休み書き下ろし2〜 2007.8.3
<プールで大冒険> 
 8月の夏期保育ですみれ・もも組は日土小学校のプールへ行ってきました。水深70cmの小プールでも幼稚園児にとっては胸の深さ、特に初めて行ったももさんはちょっぴりびびりモードだったようです。家族でプールに行ったことあるって言ったって、浮き輪にはまってお母さんにしがみつきっぱなしだったのでは。そんな子ども達にとっていつもより大きなプールに一人で入るのは大冒険だったことでしょう。さすがにプールがイヤだと泣き出す子はありませんでしたが、顔が濡れないように、水に浸からないようにそろそろ入ってた初の小学校プールでした。
 冒険、冒険とこの夏はよくこの言葉を使って来ましたが、子どもにとって冒険とは何であるかと考えた時、基準になるのは『今の自分』です。一般的に『冒険』と言うと前人未到のすごいことをイメージすると思います。しかし広辞苑を引いてみると、@危険をおかすこと、A成功の確かでないことをあえてすること、と記されています。これらの言葉も物々しいもののように聞こえますが、誰にとって『危険』なのか、『成功の確かでないこと』なのか記されていません。そう、冒険とは常に 自分との戦いなのです。私達は世間や常識と言うものを基準としてこれはすごい事、これはすごくない事と判断しています。でも大人のように世間や常識を基準として物事を考えない子ども達にとって、その基準は自分が今まで経験してきたこととそれに対して出来たか出来なかったかという実績、つまり『今の自分』なのです。いままで体験した事、過去に自分で出来た事、それらが自分の活動の許容範囲であり、その外の未知なる体験はすべて冒険になるのです。
 プールでの冒険と言えばまずは顔付け。みんな格好から入ってかっこよくゴーグルなんてつけてきますが、そのゴーグルがちょっとも濡れない子が何人もいます。ゴーグルをおねだりして手に入れたときは「これで泳げる!」と勇気も湧いてきたでしょうが、ゴーグルは魔法のアイテムではありません。自分の努力とやる気なしにはなんの役にも立たないのです。確かに『成功の確かでないことをあえてする』という意味においても子どもにとって顔付けは『冒険』です。子ども達も『冒険』という概念はないにしろ、出来もしないことに挑戦するのはいやなのです。でも本当に『出来もしないこと』なのでしょうか?挑戦したこともがんばってみたこともないから『出来もしないこと』と思い込んでしまっているだけなのではないでしょうか。ここでちょっと子ども達の背中を押してあげてください。まず、挑戦しようとしていることを冒険と認めてあげること、「できたらすごいことなんだよ」と励ましてあげてください。また『成功の確かでないこと』なのだから失敗してもかまわないことを伝えてあげてください。失敗したらまた挑戦すればいいんです。出来なかったら練習すればいいんです。だってそれはその子にとって『冒険』なのだから。
 親子で顔付けに挑戦する時、自分だけ水の上から「はい!潜ってみて!」と上から目線で言うのはマイナスです。それでは子どもは自分の冒険を『孤独な戦い』と感じてしまうでしょう。冒険には心の支えが必要なのです。一緒に潜ってお互いに水の中で見つめあうなんて、子ども達はどんなに勇気付けられるでしょう。小学校でのプールの時は「潜れる子は写真、撮ってあげるよ」と水陸両用のデジカメを持ち出し、子ども達を誘っています。すみれさんはこれで今年、3回目の小学校プールなのですが、夏の初めは顔付けもできなかった子がざぶんと潜り、カメラに向って自由自在にポーズを取るなんて成長を見せてくれています。そして水から上がるとまずモニターチェック。写り具合にも注文の多い子ども達、写っている写真を確認するとにっこり笑って「もう一回!」。こちらも何回潜らされたことでしょう。それでも子ども達と何回も何回も水の中に潜りました。もちろんカメラはきっかけに過ぎないことはわかっています。でもそんな思いに応えてくれる子ども達が愛しく、何回も何回でも一緒に潜ってあげようと思ったものでした。今では平気な顔して潜っているこの子も、今までの自分を乗り越えて、大冒険を乗り越えて潜れるようになったんだと、そのがんばりを心から一緒に喜んであげたいと思いました。
 昔から水中ジャンケン、水中にらめっこ、など顔付けや水潜りの導入の手法はいろいろ紹介されています。しかしどれも『一緒に潜る』という基本は変わりません。狭いお風呂で大人が潜るのは難しいでしょうから、大きいプールに入った時にはぜひ一緒に潜ってあげてください。
 小学校プールでの大冒険もクライマックス。最後は大プールでの飛び込み大会です。ドボン!と背も立たないプールへ大ジャンプ、10mほどもあるプールの短辺をばちゃばちゃ泳ぎきりました。泳ぐ型は知らない子ども達、でも足をばちゃばちゃさせて泳ぎます。伸ばした手やお腹の下をそっと支えてあげて、時々息継ぎのために水面に引き上げます。「ぱあ!」と息を継ぐと子ども達はまたしっかり顔をつけ、ばちゃばちゃばちゃばちゃ泳ぐのです。顔を水につけて泳ぐことを嫌がらなくなった子ども達、これであとは技術を身につければいくらでも泳げるようになるでしょう。たったひと夏の大成長に、ひとつの冒険を乗り越え、さらに新たなる冒険に挑戦し続けようとする子ども達の姿に、驚かされっぱなしの一日でした。
 さあ、夏休みの冒険のイメージ、出来てきたでしょうか。目指すはただ一点、今の自分を越えること。「・・・をする」、「・・・ができるようになる」、そんな目標を立てたときから夏の大冒険が始まります。日頃は幼稚園で子どもも送り出すお母さんも大忙し。ついつい「できない!」の言葉にお手伝いの手が出ているお母さん、手の代わりに時間と励ましの声をかけてあげてください。出来たら一緒に喜んであげてください。自分の力で今の自分を乗り越える喜びを知った子ども達は、更に先を見つめながら一歩、また一歩、未来に向けて歩いていこうとするはずです。


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