地方の風景に興味を持ったのは(平成29年5月16日)

諸星大二郎氏の漫画に見る限界集落の風景

 私の好きな漫画家のひとりに諸星大二郎氏がいます。その諸星氏の代表作「妖怪ハンター 稗田礼二郎シリーズ」の初期作に『幻の木』と『川上より来たりて』の連作があります。

 これは瓜子姫とアマノジャクの説話を元にしています。舞台となっているのは、東北の架空の山村です。作中に示された地図をご覧ください。画像は漫画から引用紹介しています。

 (C)諸星大二郎


 右下の「上木村」が川下で、麓側です。ここもすでに大半の住民が転出し、数軒を残すのみとされています。
 発表時期が平成初頭時とあって、まだバスが通っています。今なら完全に止まっていますね。全国あまねく地方のバス会社は赤字に苦しんで、合理化を進めましたから。

 

 さらに川上側の「畑」村には、老人数軒が住むのみで、その住人に印象的な台詞を語らせています。
 「過疎がひどくてなあ ‥‥ ここもじき 山の神さんに帰さにゃならなくだべなあ ‥‥」
 人が住まなくなった里山は、たちまち山林に還ります。淋しくもありますが、仕方ない摂理です。



 川上側の「所」村は無人で、さらに奥の「川上」村には、老人夫婦一軒のみとなっています。
 そこからさらに奥に進むと「覚」村があり、無人のこの村で怪異が起こります。



 物語中、人が住まなくなった限界集落の寂寥というか、不気味さが迫ってきます。私は現実の世界において、このように人が住まなくなった村落を見ているだけに、切実な現象として捉えてしまいます。

身近な場所における、人の気配の消滅
 近所に、50年ほど前から人が住まなくなった家があります。





 この家は半世紀の間、その相を変えていません。当時としては洒落た洋風建築でした。長いブロック塀と旧家の重厚な門扉、そして洋風母屋といい、当時の子供の私には豪邸との認識でした。
 小母さんが一人で住んでいて、それがいつからか無人となり、たちまち雑草と蔦に覆われました。人間がいなくなると、植物があっという間に侵食してしまいます。

 このような変貌はそこかしこで見られますね。
 下図は私の通勤途上にある家屋です。以前は人が住んでいました。家の隣が水田でした。





 それが30年ほど前に田が放置され、家屋も時を経ずして蔦なんかの植物に覆われました。多分、老人が農業で細々と生活していたのでしょう。その方が亡くなって間をおかず、水田は写真のとおり雑種地に変貌しました。

 平野部なら、一部の住民の都合です。しかし、山間部や島嶼部ともなれば、若者は転出し、居残った老人の死とともに、地域そのものが荒廃してしまいます。そのように失われてゆく風景を記録しておくことに意義があるかと考えているのです。
 これからでき得る範囲で、微力ながら映像を残していきますので、ぼちぼちとつき合ってください。

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