コンパクト・シティの必要性は(平成29年6月4日)

インフラ整備途絶の恐怖

 前頁で人口減社会の諸問題を挙げています。そのひとつに、「インフラ修繕破綻」があります。現代の便利で高度に情報化された社会を維持するには、多額の経費がかかります。

 上水道、下水道、電力線、電話線、ガス管、舗装路、用水路、排水路などは、いずれの各戸にあっても必要なものです。さらに生活を営むためには、食料品や雑貨品、エネルギー提供などの販売店が近くに必要です。さらに学校、警察、消防、郵便などの公共サービスを提供する拠点も必要です。
 さらに広域エリアを対象に、空港、港湾、ダム、発電変電所、鉄路及びその他の公共交通機関なども必要となります。また、地域によっては、高速道路やトンネルも必須でしょう。

 そのようなインフラを維持するには、確実な修繕が必要です。日本全国にあまねく建設されたそれらインフラの整備は、将来的に致命的ともいえる大問題となります。いえ、現時点ですでに大きな問題になっています。

 数年前に国土交通省が発表した内容は衝撃的でした。全国のインフラの要修繕箇所の一割しか修繕ができていないというものでした。
 笹子トンネル事故後、そもそも修繕の要否についての調査さえ為されていない実態が明らかになりました。現在では、トンネルや橋梁の要修繕箇所はさらに増加しているはずです。そして、高度成長期に建設整備されたインフラ群が大々的な更新時期を迎えるため、今後要修繕箇所は幾何級数的に増えます。そのための経費は、天文学的な額となるでしょう。もちろん、そんな金はどこにもありません。

 将来的な人口減社会では、税収が激減するなかで、福祉を始めとした支出は逆に拡大します。そんな状況で、予定されているインフラ更新なんかできるはずもありません。
 この自明ともいえる問題に対して、政治家も国民も見ぬふりをしています。未だに整備新幹線拡充路線を目指し、国民もそれを望んでいます。道路についても同じです。高速道路やバイパスなどの新規路線を未だにつくろうとしています。これまた狂気の沙汰です。

田舎の生活様式そのものの変貌
 一方で、生活する上でどれだけの公共サービスが必要なのかの検討が必要です。田舎は全般的に不便です。その不便さ故、ライフライン維持に都会ほどの脆弱性というか依存性が少ないと考えていました。
 しかしながら、今の田舎の生活スタイルは、かなり都市化されていて、不便に耐えられない模様です。2004年の新潟中越地震の際、印象的なできごとがありました。震源に近い山古志村に代表される山間部の村落は、ライフライン途絶に加え、山崩れによる道路の寸断で孤立し、隣村への避難を余儀なくされました。

 ライフライン途絶と孤立によって、生活が維持できないという脆弱さが露呈しました。都会ならいざ知らず、不便な山村にあってです。日本人の自給能力低下があからさまになった事態でした。
 それまではライフラインが途絶しても、田舎であれば、それなりの生活を維持できるものと考えていました。例えば、我が家の場合、井戸水を利用できます。ユノックスで湯を沸かしていますが、いざともなれば薪で風呂を沸かせますし、竈や七輪で煮炊きもできます。そもそもプロパンガスですから、都市ガスのような配管断裂もありません。米には困らないし、野菜も少なからず取り置きがあります。普通、農家というのは、そういうものです。

 都会だと、ライフラインが絶たれた瞬間に、自給自活も破綻するでしょう。しかし、田舎なら何とかなるものと思っていました。それが新潟中越地震の際、田舎の生活スタイルが変貌していることを認識させられました。

限界集落の整理
 とすると、過疎化が進んだ地域の老人たちが自活するのは無理ということになります。今のところは行政側によるインフラ関係サービスが提供されています。しかし、2040年時点でサービス提供が継続されていると考えるのは甘いでしょう。
 2040年には、人口数十人から数百人程度の町村が当たり前のように存在します。こんな過疎地に上水道や電気を届けるのは無理です。まして、行政以外が係るサービスなんて完全に途絶します。

 過疎法の指定地域がある市町村に対するアンケート結果は深刻です。65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占める集落の増加ぶりはただごとではありません。2010年から2015年の5年間で50%増となっています。離島が指定地域に加わり調査対象集落が増えたこともあるにせよ、限界集落が生じるペースの凄まじさがデータに表れています。

国土交通省、総務省「限界集落調査」
2010年4月  2015年4月
北海道 462 731
東北 1,027 1,850
首都圏 312 418
北陸 324 372
中部 875 1,154
近畿 561 888
中国 2,672 4,095
四国 1,750 2,548
九州 2,094 3,205
沖縄 14 7
合計 10,091 15,568
調査対象 64,954 75,568
※ 東北は新潟、首都圏は茨城、栃木、群馬、山梨を含む

 なにせ、現在55歳の方は、10年後には間違いなく65歳になります。日本の集落が次々に消滅してゆくのは、確定路線です。その消滅の過程で、共同体の維持が困難な時期に必ず突入します。
 ですから、タイトルに掲げたコンパクト・シティ建設着手は、年月経過との競争ともいえます。限界集落に残される少数の老齢者を、アクセスに優れ、サービスを提供し易い地域に集約するコンパクト・シティ構想は、今後絶対に必要な政策です。繰り返しますが、状況を傍観するのでなく、現実の対処が求められてます。

平成29年7月20日追記
買い物弱者救済
 買い物弱者とは過疎化により、商店の減少と交通不備の態様となり、日常的な買い物が難しい人のことである。経産省は2014年時点で700万人程度、農水省は2010年時点で372万人程度と推計。
 郊外型スーパー増加による商店街衰退が全国的に拡大しており、都市部の高齢者激増と併せ、都市部でも大きな問題となっています。

 「買い物弱者」対策として実施されている移動販売や宅配事業の7割が実質的な赤字となっています。
 これらの事業は民間企業やNPO法人、社会福祉法人などが手掛けており、国や自治体が補助金などで支援しているケースもあります。
 総務省が2016年に継続中の193事業について前年度の収支を調べたところ、106事業が赤字でした。「黒字又は均衡」の30事業も補助金などで赤字を補填しています。
 補助期間終了に伴い31事業が終了しており、今後の対象地域拡大、人口減による売り上げ縮小傾向によって、買い物弱者へのサービスはより厳しくなると考えられます。
 買い物弱者もまた、コンパクト・シティ整備を進めないかぎり救済できないでしょう。

平成29年11月2日追記
土地所有者不明
 所有者不明土地問題研究会:2016年に国土交通省が実施した地籍調査や高齢者死亡数などの統計を用いて独自に推計
 所有者不明土地を巡っては、所有者の死後に相続登記が行われないなどの理由で土地取得が進まず、まちづくりに支障が出る事例が発生しています。現状、利用には原則すべての所有権者の了解が必要なため、相続した親族らをたどって所有権者を探す自治体の事務負担も重くなっています。

≪現状≫
 ・九州の面積を上回る410万ヘクタールが不明で、登記筆数の2割に該当
 ・最後の登記から50年以上経った所有者不明の恐れがある土地
   大都市で6.6%、中小都市と中山間地域などで26.6%
 ・宅地:14.0%、農地:18.5%、林地:25.7%
 ・すでに、東日本大震災の復興事業に影響が出ている
 ・登記による固定資産課税忌避が考えられる

≪将来予想≫
 ・720万ヘクタールにまで拡大し、北海道の面積に迫る
 ・団塊世代の死亡により、今後さらに拡大する
 ・少子化と人口転出により、利用価値のない土地がさらに拡大する
 ・公共事業が停滞したり土地が荒廃したりするなどの経済損失額
   平成16年試算:約1,800億円
   17〜40年累計見積:6兆円

≪今後の対応≫
 税収不足の一因ともなり、管理できずに治安や景観、衛生面が悪化しており、平成29年10月、利用権に関する特措法を提出
 ・土地利用を計画する自治体や民間事業者が都道府県知事に申請し、利用権を設定
 ・5年など一定期間で区切り、所有者が現れなければ更新
 ・所有者が現れた場合は原状回復して明け渡す
 ・所有者が了解すれば利用を継続でき、利用期間の賃料に相当する金銭を供託
 ・公益性のある利用目的として、公園や広場、文化施設などを想定

 農地で持ち主が分からない耕作放棄地については、農地法の規定に基づいて都道府県知事が利用権を与える制度があります。

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